セックスの哲学」カテゴリーアーカイブ

キェルケゴールのドンファン論(0) キェルケゴールはむずかしい

講義科目でキェルケゴールをちょっとだけとりあつかったので、このブログに反映しようかと思って正月三ヶ日『あれか/これか』に収録されている、「直接的・エロス的段階」、いわゆるキェルケゴールのドンファン論を読んでたのですが、やっぱりキェルケゴールは難しいですね。読んでも読んでも何言ってるのかはっきりしないので、「こういうことを言ってます」でさえあんまり自信をもって書くことができない。

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田上孝一先生の『99%のためのマルクス入門』はセックス哲学としてもおもしろいので読みましょう

動物倫理で有名な田上孝一先生の『99%のためのマルクス入門』が出て、いまどきのマルクス主義者が具体的にどういうことを考えているのかというのがわかっておもしろいのでみんな読んであげてください。以下ツイッタに殴り書きしたのを並べただけ。ほんとは書きなおすべきなんだけど。

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バス先生の新刊が出たよ(5) セックスニュートラルな性犯罪対策法はあんまりよくないかもしれない

SNSでの刑法による性犯罪対策の話題はまだ続いいて、こんどは「従来の法制度は男性によって云々」とかっていう話が話題になってますが、まあこのタイプの主張は実はそれはそれなりに聞くべきところがあるんですよね。

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バス先生の新刊が出たよ(3) 女性のレイプ対策(事前と最中)

性犯罪関連法の改正とかを巡る議論で、セックス同意年齢と並んで重要なのが、日本の法律にある暴行・強迫要件というやつで、まあ現状では暴行や強迫によって抵抗を(いちじるしく)困難した、というのが「強制性交」とされるの必要になってるわけです。でも犯罪者に対して抵抗するというのはたいへんなことなので、そういう要件はもっと緩めるべきではないか、という議論があるっぽいです。むしろ同意があった(と少なくとも思った)ことの立証を容疑者の側に求めるべきではないか、というわけです。これはけっこう一理ある。イエスミーンズイエスってやつですね1

バス先生の新しい本は、第8章でこの件に関してかなり重要な情報を提供していると思います。

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バス先生の新刊が出たよ(2) 「認知の歪み」というか認知バイアスと性的情動の性差

男性のセックスや恋愛に関する「認知の歪み」みたいなのがネットの一部で話題になっていたのですが、バス先生は最終第9章の「ギャップに気をつける」で、認知や欲求の男女差をちゃんと意識することが、セクハラやレイプなどの不幸な性的なできごと(その多くは男性が加害者)を防止するために有効だっていってます。

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セックス同意年齢の問題(9) 私たちはどうやって成熟するのだろうか

まあミル先生も『自由論』でこう言っています。

たぶん、いうまでもないことだが、この理論〔他者危害原則、個人の行動の自由〕は、成熟した諸能力をもつ人間に対してだけ適用されるものである。われわれは子供たちや、法が定める男女の成人年齢以下の若い人々を問題にしているのではない。まだ他人の保護を必要とする状態にある者たちは、外からの危害と同様、彼ら自身の行為からも保護されなければならない。(『自由論』第1章)

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セックス同意年齢の問題(8) 同意能力には何が必要か

このブログの同意の話では、ワートハイマー先生(Alan Wertheimer)の本や論文とりあげることが多いんですが、私がおもしろいと思って読んでるのに、David Archard先生って人のSexual Consentっていう本があります。法哲学者のワートハイマー先生はなんかへんなこと考えながルールをあれこれ模索してるけど、基本的には人間理解がのっぺりしているところがあるんですが、アーチャード先生は法学というよりは哲学や倫理学系の先生で、いかにも人文系哲学者っていう感じの繊細なところを見せてくれるので好きですね。

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バス先生の新刊が出たよ(1) セックス相手獲得に成功してる男の方がレイプしやすいそうです

進化心理学者のデヴィッド・バス先生が新しい本 When Men Behave Badly 出して、ファンなので苦手な英語で読むわけですが、おもしろいっすね。

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セックス同意年齢の問題(6) ジュディス・レヴァイン先生の『青少年に有害!』

アメリカにジュディス・レヴァイン先生というフェミニストのジャーナリストの先生がいて、2002年『青少年に有害!』って本を書いて、アメリカではかなり話題になったみたいですね。日本語訳もあります。それの第4章が「激情犯罪」(情熱の犯罪 crime of passion だと思う)という法定レイプと同意年齢の話にあてられています。

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セックス同意年齢の問題(5) 搾取の問題

年齢が判断能力のだいたい(一応信頼せざるをえない)目安になるように、年齢差が強制や搾取のだいたいの(一応信頼できる)目安になるのかどうか という問題の搾取の方はもっとむずかしい。たしかに搾取的な人間関係や交渉っていうのはあるでしょうね。搾取っていう言葉には、道徳的によくないし、社会的に抑制するべきだという含意がある。しかしどういう関係が搾取的なのかっていうその基準を探すのが難しい。

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セックス同意年齢の問題(4) 強制の問題

年齢が判断能力のだいたい(一応信頼せざるをえない)目安になるように、年齢差が強制や搾取のだいたいの(一応信頼できる)目安になるのかどうか 、という問題について、Wertheimer先生の分析はわかりにくいところもあるけど以下のような感じ。

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セックス同意年齢の問題(3) 年の差セックス!

んで、国内での同意年齢のひきあげで問題になっているのは中学生同士のセックスみたいなやつというよりは、年上の男性と中学生ぐらいの女子のセックスみたいですね。最近もりあがったケースでも「50才の男と14才の少女が!」みたいなのが強調されていて、まあ50才男と14才中学生女子のセックスを禁止したい、そうした改正に反対するやつは少女とセックスしたいペドフィリアだ!とか、「普遍的な基本的人権を否定する人だと思われても仕方がない!」1みたいな話になっていて、ちょっとあれすぎると思います。

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セックス同意年齢の問題(1) Wertheimer先生の変な空想事例

なんかどっかの政党の委員会みたいなので議員が不適切な発言をしたとかでもりあがっていますね。性犯罪に関する各種法律を考えなおすにあたって、セックス(性交)同意年齢みたいなのを引き上げようという動きがあって、反対意見もある、みたいな感じですか。現在日本では13才だけど、16才ぐらいにしようっていう案が出てるのかな?

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石田仁先生のトランス女性フォビアに関する論説について

セックスの話は興味があるのですが、ジェンダーまわりについては勉強が足りなくてこれまであんまりコメントしていません1。特にトランスジェンダーについては知識が足りず、私のような人間がコメントすること自体が問題であるという懸念があるために控えていたのですが、ちょっと気になることがあったので書いておきます。

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トロフィーワイフという(ふつうは)侮蔑語について

なんか、ある学者先生が「セレブバイト」っていうすごい言葉を開発したのに対応して、どういうわけかその先生が言及していない「トロフィーワイフ」っていう言葉がバズってたみたいです1。「セレブバイト」もたいへんやばい感じですが、「トロフィーワイフ」も学者先生たちが使うにはどうなんだろう、という意味合いがあるんじゃないかと思っているので、私もしばらく観察していました。

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浅井春夫先生のセックスワーク論に対する方針の「補正」

『季刊セクシュアリティ』=人間と性教育研究協議会(性教協)は、第47号でのセックスワーク論特集みたいなのに対するAPP研究会とかによる抗議に対応して方針を見直したわけですね。

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セックス産業を見る「多型パラダイム」への補遺・コメント

前のエントリ https://yonosuke.net/eguchi/archives/13333 の続き。

あとワイツァー先生によれば、売買春の実証的調査とかでも、注目浴びやすいものと無視されがちがものがある。売買春を調査するんだ!ってな話になると、

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ワイツァー先生のセックス産業を見る「抑圧パラダイム」と「多型パラダイム」

まあ森田成也先生の本読みながらいろいろ考えてしまったんですが、少しワイツァー先生の紹介したい。この先生はアメリカの犯罪学者で特に売買春とかトラフィッキングとかの専門家です。先生はとにかく実証的なのが好きでちゃんと調査する人なんですね。売春、というかセックスワークについても翻訳がある。これはよい本なのでそういう問題に関心のある人はぜひ読んでみてください。

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森田成也先生のセックスワーク論批判 (2)

森田成也先生の『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論』第4章の「売買春とセックスワーク論」の後半は、いわゆる「セックスワーク論」への反論がいろいろ列挙されていて、少し確認しときたいです。

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森田成也先生のセックスワーク論批判 (1)

森田成也先生という先生が『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論』という本を出版して、読んでみたんですが、私が見るところ問題が多いと思います。いくつか問題を指摘しておきたいと思います。

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セックス経済論 (10) ちょっとだけコメント

しかし投げっぱなしだと誤解されそうなのでちょっとだけコメント。

バウマイスター & ヴォース先生たちの「セックス経済論」は、社会学でいう「社会的交換理論」の一バージョンですね。まあ経済学も含め、非常に一般的な理論というか考え方なので、名前なんかいらないくらい。バウ先生たちは、経済学者のゲイリー・ベッカー先生の The Economic Approach to Human Behavior (1976) 1 の四つの想定をひきあいに出してます。

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セックス経済論 (9) 女性のセクシュアリティの抑制

  • Baumeister, R. F., & Vohs, K. D. (2004). Sexual Economics: Sex as Female Resource for Social Exchange in Heterosexual Interactions: Personality and Social Psychology Review, 8(4), 339–363.

女性のセクシュアリティの抑制

多くの文化で女性のセクシュアリティ1が抑制されているとされます。まあ女性の性的な活動は好ましくないとか、性的な魅力をみせびらかすような服装はつつましくないとか、極端なケースでは女性の性的な快楽を削減するために性器に外科手術を施す(FGM)とか。

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セックス経済論 (8) セフレ/名誉か汚名か/女性間攻撃/結婚勾配

  • Baumeister, R. F., & Vohs, K. D. (2004). Sexual Economics: Sex as Female Resource for Social Exchange in Heterosexual Interactions: Personality and Social Psychology Review: An Official Journal of the Society for Personality and Social Psychology, Inc, 8(4), 339–363.

セックスは(男性にとっては)利得

前の「セックスに対する態度」のところが私にはいちばんおもしろかったのですが、あとは駆け足で。

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セックス経済論 (7) セックスに対する態度の性差、特にポルノと売買春

  • Baumeister, R. F., & Vohs, K. D. (2004). Sexual Economics: Sex as Female Resource for Social Exchange in Heterosexual Interactions: Personality and Social Psychology Review, 8(4), 339–363.

セックスに対する態度の性差

セックスを商品とした男女の交易、っていう観点からすると、男女の間にはセックスに対する態度の差があるはずだ。まあこれもほとんど自明というか常識なわけですが、バウ先生たちはあれやこれや態度の差をあげていきます。セックスの値段が安いと男性が得、高くなると女性が得なので、それぞれそういう態度をとっているだろう、っていうのが理論からの予測になります。んでそういう証拠はたくさんある。

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