『月曜日のたわわ』広告問題(3) イギリス広告基準協会のガイドライン

ハフィントンポスト「「月曜日のたわわ」全面広告を日経新聞が掲載。専門家が指摘する3つの問題点とは?」 https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_624f8d37e4b066ecde03f5b7

「イギリスでは2019年から広告標準化協会が「性別にもとづく有害なステレオタイプ」を使った広告を禁止している」という話なんですが、これがどういうものか、っていうのが気になりますよね。

広告標準化協会(「標準化」が「画一化」みたいな印象で気になるので、以後「広告基準協会」にします)、Advertisement Standards Authority, ASAはイギリスの広告業界の自主規制団体ですね。詳しいことはわかりませんが、政府とは独立ですが、広告業界として会社からお金を集めて、協会員の広告に関する基準Standard・守るべき綱領Codeを作ったり、苦情なんかの窓口になって、消費者から苦情が申し立てられた広告を規制したりする組織ですね。かなりの権威があり、業界企業に対する強制力ももっているようです。Wikipediaはこちら https://en.wikipedia.org/wiki/Advertising_Standards_Authority_(United_Kingdom) 。日本でいえばJARO(ってなんじゃろ)、日本広告審査機構みたいなところですね。

今回『たわわ』で問題を指摘されているジェンダーステレオタイプに関するガイドはこちらです(PDF)。 → https://www.asa.org.uk/static/6c98e678-8eb7-4f9f-8e5d99491382c665/guidance-on-depicting-gender-stereotypes.pdf

「Code of Principle」広告の原則の4.9にこういうのがあるんですね。 https://www.asa.org.uk/type/non_broadcast/code_section/04.html

[Advertisements must not include gender stereotypes that are likely to cause harm, or serious or widespread offence.

広告は、害を及ぼす可能性がある、または、重大あるいは広範な不快(offense)と思われるジェンダーステレオタイプを含んでいてはならない。

人間のステレオタイプ表現、さまざまなタイプの人物についての定型的な表現や固定観念のようなものは、それがすばらしいものだということはもちろんないですが、そういうのを抜きにして広告その他を作ることはできないわけです。たとえば化粧品の広告を作るなら、だいたい女性モデルを使うことが多くなると思う。そういうのは、「口紅を塗る女性の写真」みたいなのはまったくのころ定型的な表現だし、「化粧するのは圧倒的に女性が多い」とか「女性は化粧をするものだ」のは固定観念といえば固定観念で、実際には男性とか子供とか亡くなった方とかも化粧するわけですが、別に女性が化粧する図を使って悪いわけではない。

問題なのは、(社会、人の集団あるいは個人などに対して)害があるかもしれないようなステレオタイプ表現、あるいは多くの人がひどく不快に思うようなステレオタイプ表現を避けることなわけです。

では、イギリスの広告基準協会が害があるかもしれない、あるいはひどく不快なステレオタイプ表現として考えているのはどのようなものか。

それはいくつかに分類されています。ひとつは、ジェンダーステレオタイプな役割や特徴をフィーチャーしたもの。性役割分業とか、片一方の性をけなすような描写が入ってるものですね。

(1) 男性が横になって寝ていて、子供たちが散らかして、女性一人が家を掃除してるようなの (2) 男性は大胆で女性はデリケートできゃしゃだ、のような男女の対比を利用しているもの (3) 男女のどちらかが特定のことができないように描写しているもの。たとえば男性はおしめかえられないとか女性は駐車場に車入れられないとか、「男/女でさえできる!」みたいな文言をつけたものなど (4) 女性がお化粧に時間をかけすぎて会議の時間に遅刻してしまう、のようなタイプのもの (5) 感情的にもろい男性を見下すようなもの

二つ目が、ジェンダーステレオタイプの理想にそった体型その他の身体的特徴に合致するようなプレッシャーを与えるようなもの。広告は魅力的な人物、健康な人物、うまくやっている人物を使用しても よい が、そうした理想的な体型とかを手に入れたない人は幸せじゃないとか精神的に健康になれないとか、そういうふうに描くべきではない。

(6) 人生がうまくいってない人をまず描いて、その人がシェイプアップしたらすべてうまくいきました、みたいなの (7) ジェンダーにもとづいた理想的なステレオタイプに合ってない人を広告に登場させる場合は、その人の人生がうまくいってないのは体型のせいだ、のように描かないこと

まあ昔は「ぼくはやせっぽちで自信がなく女性にもモテませんでした。でもブルーワーカーで体を鍛えたらモテモテ!」みたいな宣伝がマンガ雑誌に必ず載っていて、友達の家にいくと1本ぐらい置いてあったりしたものですが、まあああいうのはだめです、ということですな。

三番目は子供がターゲットのもの、あるいは子供を使ったもの

(8) 男子か女子のどっちかを 明示的に 特定の活動から排除してるもの。ただし、明示的でなければ自然にステレオタイプ的なのは かまわない みたいです。 (9) 男児と女児のステレオタイプな性格を強調したり対比させたりするもの。

これおもしろいですね。女児向けあるいは男児向けのおもちゃの宣伝にはやっぱり男児や女児がもっぱら登場してしまうわけで、それ自体はかまわないけど、明示的にそれを伝えるのは避けろ、と。男児も男子ももリカちゃん人形の宣伝に登場してもいい気がしますが、やはり女の子を使いたい、でも「男子がリカちゃんで遊んでいるのはだめです、リカちゃんは女の子だけのもの!」みたいにはするな、ということですね。

四番目、潜在的に脆弱な人、いわゆる弱者をターゲットあるいは使用したもの

(10) 赤ちゃんうみたての女性も、なんとしてでも魅力的に見えなきゃだめだとか、家をピカピカにしとかないとだめだ、みたいなの (11) 少年少女に対して、ある理想的なジェンダーステレオタイプな容姿してないとだめだとかそういうの。

まあ子供うんだばっかりとか他人の目が気になる年頃とかいろいろ大変な時期にプレッシャーかけられるとつらいもんですからね。でも、11とかでは、ただし 魅力的だったり健康だったりそういうモデルを使うの自体はかまいませんよ 、とまたただし書きがついている。けっきょく魅力的な人物を抜きにして効果的な広告が作れない、ということは広告基準協会もよく理解しているわけです。

最後の五番目に、ジェンダーステレオタイプにしたがってない人を使った広告

(12) 伝統的に女性にむすびつけられた仕事や役割をしている男性を見下すようなやつ (13) ステレオタイプにしたがわない人々をけなすようなやつ

まあこんな感じなわけです。しかしこれを見ると、治部先生が『たわわ』広告に見いだした「有害なステレオタイプ」とはこのなかのどれなのだ?って考えちゃいますよね。私は混乱しました。

まだ続きます。

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