んで、シティポップ代表曲たちがなぜこんなにすばらしいのか、という話なんですが、やっぱり音楽的側面にもコメントしたい。
突然のキスや熱いまなざしで
恋のプログラムを狂わせないでね
出逢いと別れ上手に打ち込んで
時間がくれば終る don’t hurry!
ここらへんのいわゆるAメロ(分析によってはA+Bメロ)は Gm7 | C7(b9) | Am7 | Dm7 | をくりかえしていて、これはよくある 2m-5-3m-6mっていうジャズ屋さんが「ギャクジュン」(逆の循環コード)て呼ぶ進行です。まあ非常によくある。
尊敬するスージー鈴木先生が、『きゅんメロの法則』っていう本を書いていて、それでは4-5-3m-6mっていう進行が「きゅんとくるメロディ/コード進行」としてとりあげられているですが、それのバリエーションの一つです。ミュージシャンなら誰でも手癖で演奏しちゃう進行ですね。(実際にジャムセッションとかで「最後は2536(逆順)のくりかえしで」とかうちあわせられることもある。
ちょっと気が効いてるのは、2小節目のC7が(♭9)っていう指示がつく(というかそう弾いてる)ところで、マイナーキー独得のちょっと暗い感じになってます。
あと最後に「ジャジャジャン!」ってやるのかっこいいですね。これは歌舞伎とかでやる「見栄を切る」ってやつです。Don’t hurry! お前(男)そんなガツつくな!かっこわるいな!ジャジャジャン!ってミエを切ってる。主人公はかっこいい女子なのです。ジャジャジャン!ってやったら「ウォー」って反応してあげてください。
愛に傷ついたあの日からずっと
昼と夜が逆の暮らしを続けて
はやりのdiscoで踊り明かすうちに
おぼえた魔術なのよ i’m sorry
このコーラス(一つのまとまり)の繰り返しの最後のI’m sorry、のあとに盛り上がるのは 誰でもわかりますね。前回はジャジャジャン!ってミエを切ったけど、あんまりわからんやつらなので私が本当のことを言い聞かせてあげます、という盛り上がり。
コードでいうとほぼ1拍ずつDm7 – C/E – F – D7(b9)てなってる。レーミーファーっレーってなって、最後のD7(9)がちょっと遅れた拍子のずらし、シンコペーションしてい勢いをつけてるのも注意です。
私のことを決して本気で愛さないで
恋なんてただのゲーム
楽しめばそれでいいの
いわゆる「サビ」です。2回コーラスをくりかえして、盛り上げたあげくに、言いたいことがこの部分に出てくる。「私のことを本気で愛してはいけません」が言いたいことですね。遊びセックスです。
前のDm7 – C – F – D7(b9) っていうもりあげ進行からすると、冒頭はGm7が来ることが予想されるのですが(理論知らない人にもそう聞こえるはず)、Gm7と強い関係のあるBbになってます。これ、スージー鈴木先生が指摘している「きゅんメロ」の 4-5-3m-6mそのものになてんです。Aメロではバリエーションの2m-5-3m-6mだってけど、それより堂々として453m6mになってキュンとさせてるんですね。
それから、「恋なんてただのゲーム、楽しめばそれでいいの」のところで、Em7(b5)/A7(b9)|Dm7 | Bb / C | Am7 / Dm7 |と2拍ごとにコードが動いているのを見逃してはいけません。コードの切り替えが多ければそれだけ活発に聞こえるんです。だから、「恋なんんてただのゲームである、楽しむことが肝心なのだ!」という、ほとんど誰も本気で主張しないことがこの曲のキモの主張なわけですね。かっこいいし、見方によっては痛々しい。でもかっこいい女性というのはこういう主張をしなければならないのです。
閉ざした心を飾る
派手なドレスも靴も
孤独な友だち
「閉ざした心を飾る派手なドレスも靴も」ときて、いきなり「孤独な友だち」って弱気になってしまうのもいい。これが直前と同じ活発な感じで主張されるとおかしな感じになるんですが、弱気を表明している。それでもこの部分の最後はDmでなくてメジャーのD(9)で、なんか裏腹な感じになってる。そしてジャジャジャン!とミエを切ってギターソロに入る。ギターソロとかは、歌詞で表現できないなにか、言い切れない何か、言い残した何か、を表現している、っていうことは以前に指摘しましたね。とにかく完璧。
私を誘う人は皮肉なものね
いつも彼に似てるわ
なぜか思い出と重なり合う
グラスを落として急に涙ぐんでも
わけは尋ねないでね
ギターソロのあとのこの部分、サビの部分のくりかえしなんです。「なぜか思い出と重なりあう」が「恋なんてただのゲーム」に対応しているんですね。グラスを(わざと)落としちゃったりしてもワケは尋ねるなよ?尋ねるなよ?本当に尋ねるなよ?っていうやつですね。
ジャジャジャン!必要なミエはすべて切ったので、あとは高速道路に乗ってスムース。
夜更けの高速で眠りにつくころ
ハロゲンライトだけ妖しく輝く
氷のように冷たい女だと
ささやく声がしても don’t worry!
サビ、ギターソロ、サビときてAメロに戻る。 ふつうならここでもう一回駄目押しにサビをやるもん なんですが、それはやらない。「私を本気で愛さないで!」って 2回言うのはくどくてかっこ悪い ですからね。「愛するなよ、愛するなよ、本気で愛するなよ?」とかコントにしかならない。大事なことは1回だけ言えばいい。それはすでに言った。だからもう言う必要がないのです。だから サビはもうくりかえさない ! 最後は高速道路をスムースに走っているかのようなAメロの進行をつかって英語歌詞になる。
im’ just playing games
i know that’s plastic love
dance to the plastic beat
another morning comes
私はゲームしているだけなのです、ゲームしているだけなのです、ダンスしていきずりのセックスして眠れない夜を過ごして朝が来るのを待っているのです……完璧です。
- メンヘラソングとしての「プラスティック・ラヴ」
- メンヘラソングとしての「真夜中のドア」
- メンヘラソングとしての「都会」
- スージー鈴木先生のシティポップの特徴づけ
- 隠れシティポップ:古家杏子「晴海埠頭」
- マスターワークとしてのプラスティック・ラヴ(音楽的構造の側面)
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