ミスチルの悪口書いててもしょうがないので、どういう歌詞がよい曲と思ってるかっていうのを、4年前にツイッタに書いたメモから復元。実はこの曲、そのころまで知らなかったんよね。
遥か空に旅客機 音もなく
公団の屋根の上 どこへ行く
旅客機と書いてボーイングと読む。ゆっくり飛行機が進んでいるのはわかるんだけど、実は昼なのか夜なのかわからない。昼だと白い機体、夜だと赤い点滅がゆっくり空を横切ってる感じね。夜だとすると、その赤い点滅がエアバスじゃなくてボーイングだってわかるのは昼間に見てるからだろうね。飛行機の姿見てエアバスなのかボーイングなのかわかるかしらんけど。少なくともYSとかではない。あるいは語り手の頭のなかで「今頃飛行機が飛んでるはずだ」って思ってるのかもしれない。すぐに住宅公団っていうのが出てくるので、語り手はここらへんのことをよく知っている。おそらく飛行機に興味をもつ子供のころから。公団住宅の上を大型飛行機がゆっくり飛んでいる、っていうので、空が開けた田舎だっていうのがわかる。千葉とか埼玉とか。首都圏からもっと遠くかもしれない。
メロディーラインは下降してだらだらしていてだるい感じ。
誰かの不機嫌も 寝静まる夜さ
隣近所でいつも喧嘩しているんだね。貧乏人やあんまり洗練されていない人々はいつも大声で喧嘩しているものだ。そういうのが聞こえちゃうのが田舎っぽい。そして今は深夜だってのがわかる。だからさっきの飛行機は赤の点滅がゆっくり飛んでる。
バイパスの澄んだ空気と僕の町
これで季節は秋か初冬ぐらいな感じ。小さな郊外か田舎の新興住宅な感じか。ちなみにキリンジは埼玉県坂戸市出身、人口10万人。わかる。
泣かないでくれダーリン ほら月明かりが
長い夜に寝つけない二人の額をなで
語り手は女をダーリンとか呼ぶナルシストで、関係はうまくいってない。「長い夜」でやっぱり秋冬。額をなでる、っていうのがいいねえ。月は満月に近い明るさで、もう一発終っていて、透明な窓から月が見えてるわけだ。満月が窓から部屋に入ってくるのなら、時刻は3時とか4時とか。夜明けまえ。「二人の額」なのもすごくて、一人称語りだったら「君の額をなで」になるはずなんだけど、この語り手は自分たちを客観的に見ている。自分たちに対する距離感。
まるで僕らはエイリアンズ
エイリアンズで連想するのは(1)ギーガーの映画エイリアン、(2)宇宙人、(3)異邦人、外人、(4) 余所者、だわよね。おそらく(4)の余所者が本意なんだけど、ギーガーのあのキモい生物を連想させずにはいられない。俺たちはああいう異様なものとしてセクロスなんかしちゃってて、そしてこの狭い町で異邦人としてはぐれている。少なくとも、俺たちは町で暮すふつうの人間ではない。夜はそういうセクロスしちゃうエイリアン。しかしおそらく昼はふつうの顔をして生きてるんだろう。時代的に岩明均先生のマンガ『寄生獣』とかも連想する。
禁断の実ほおばっては
月の裏を夢みて
「月」と「禁断の実」=おそらくリンゴが丸くて縁語みたいになってんだね。もちろん聖書のアダムとイブ、そしてニュートンが連想される。やってはいけないことをやっている。「月の裏 [1]「不倫解釈でいくなら、「月の裏」ってのは誰もいず、誰にも見られないところ、ぐらいじゃないの?」ってコメントもらって、なるほど。 」で人間の生活の裏面、不倫セックスを連想する。ちなみにこの曲はキーがおかしくてBメジャーとかみたい。主にピアノの白鍵で弾けるキーCという表の明るいのとまったく反対のキー。まさに「裏」な感じ [2] … Continue reading。
キミが好きだよエイリアン
この星のこの僻地で
魔法をかけてみせるさ
いいかい
自分たちがエイリアンで世間からはぐれているだけでなく、この語り手にとっては相手もエイリアンで疎遠な感じなんよね。セックスでつながっている。「この星」でやっぱり月と同じ丸い球体とその外の広い世界が連想させられ、そのほんとに一部の点みたいなところでなにかがおこなわれる。セックスの秘技かもしれず、そうでないかもしれず。しかしこの「魔法かけてみせる、いいよね」っていうナルシズムぶりがすばらしい。自分はそういうことをする能力がある。
どこかで不揃いな遠吠え
仮面のようなスポーツカーが火を吐いた
車のエンジン、排気音か。火を吐いたのは見てないけど、音からわかる。「仮面のようなスポーツカー」はまあ当時流行していたなんかだろうね。ヤンキーが乗ってるやつ。2010年代は空力とか考えて車はみんな仮面みたいになりましたが、1990年代とかそういうエアスポイラーとか走り屋や暴走族がつけてた。エンジンとかも強化して300馬力とかいうのが走っていて、そういうの整備不良でバックファイアであちこちで「パーン」とか音出してたんよね。実際マフラーから火が出る。まあそういうのがたくさんいる田舎。語り手はそういう文化になじめてない。語り手たちは家のなかで遠くのその音を聞いている。こういうのがなんかリアルで奥行きがある。
笑っておくれダーリン
ほら素晴らしい夜に
セックスして部屋にいるだけなんだけど「素晴しい夜」っていうのがサイコパス風味。女はまだ泣いている。
僕の短所をジョークにしても眉をひそめないで
「俺、優柔普段だから、ははは」「嫁が待ってるから」。あるいはおそらくなんか下ネタを言ってる。「俺の〜は彼より小さいけど硬い」ナルシストだから平気。
そうさ僕らはエイリアンズ
街灯に沿って歩けば
ごらん新世界のようさ
一発終ってまったりしてから女をどっかに送るために外に出た。近代的な白っぽい公団住宅が並んでいる。車もってないのか、駐車場まで女を送るのか、あるいは女性がそういうところに住んでるのか。田舎の公団みたいなのに住んでる人々っていうのは、その町の土着の人々からも疎遠な関係にあったりする。
キミが好きだよエイリアン
無いものねだりもキスで
魔法のように解けるさ
いつか
「無いものねだり」は「結婚して」とか「あの人と別れて」か「夫を殺して」とかまあそういう感じ。なんにしても女の希望をかなえるつもりはない。語り手はセックスしか興味がない。
踊ろうよさあダーリン
ラストダンスを
暗いニュースが
日の出とともに町に降る前に
曲としてはここ最高ですわね。何回聞いても感動する。もう一発やるのかもしれないしチューするのかもしれないが、これがラストダンスだ。もうこの女とは会うつもりがない。あるいは会えない。暗いニュースがなにかはわからないけど、この二人の関係が公になることかもしれない。朝になるとバレちゃう。「ニュースが降ってくる」っていうその感じもうすばらしい。「ノストラダムスの大予言」で世界が終る日にアンゴルモアのなんとかが降ってくる、とかそういう感じ。
まるで僕らはエイリアンズ
禁断の実ほおばっては
月の裏を夢みて
キミを愛してるエイリアン
この星の僻地の僕らに
魔法をかけてみせるさ
さっきは「好き」だったけど「愛してる」になってる。気持ちが高まってる。魔法もどういう魔法か知らんけど、二人の仲を忘れられなくなくする魔法か。
大好きさエイリアン
わかるかい
聞いてるバージョンだと「わかるかい」じゃなくて「わかるか」になってて、そっちの方がかっこいい。もう会えないかもしれないけど君のことが本当に好きだったんだ。
これは歌詞もコード進行もメロディーもアレンジも、なにかなにまで名曲。語り手は世界や人間から二重三重に疎遠である。すばらしすぎる。聞くたびにノックアウトされます。
ミスチル同様、キリンジもナルシスト・サイコパス風味が入ってるんだけど、歌詞がよく練られていて完璧。参照や連想などを抱負に含んでいて、歌詞にとんでもない広がりがあって、多様な解釈を許す。音楽も有機的に結びついていて、理想的な楽曲だと思うです。ミスチルとはちがって、キリンジのリスナーはおそらく歌詞の内容(この曲の場合、「(表面的には)ナルシストが女を捨てるのだな」)をだいたい理解している。
ミスチルだと刺激の強いネガティブな言葉を多用するわりに、言葉や連想自体はそれほど豊かではない。話の筋は説教くさく単調で一本道の解釈になってしまう。あるいは言葉が足りないところをリスナーが勝手に好意的におぎなわざるをえない。キリンジの場合はストーリーと語彙や連想が豊かなんで、何度もその歌詞を考える。歌詞の方がリスナーよりも(おそらくアーティスト本人よりも)大きい。
と、前日寝つけない夜に書いたんですが、ツイッタでコメントもらってもう一度見直してみると、不倫と別れていどではこの曲の甘美さ邪悪さ凶悪さをとらえてないっすね。語り手はもっと捕食者(プレデター)な感じ。二人はいっしょに住んでるのではないかという指摘もあり。
朝になって思いついたんですが、これ、『ジョジョの奇妙な冒険』の吉良吉影さんや、岩明均先生の『寄生獣』の寄生生物みたいな人たちの歌かもしれないっすね。連載は1990年前半だからみんな読んでた。杜王町みたいなところにひっそり生息しているエイリアン。んじゃ女がずっとメソメソしているのは監禁されてるからか。んで歌のなかで最後に殺されちゃうのね。最後のコーラスの前のドラムのブレイク(・・・ドタン、のところ)。禁断の実は快楽殺人ですわね。腕だけとっといたりして。なんで部屋のなかにいるのに街灯あるところに出てくのかと思ったら、家汚されるのいやだからですか。朝降ってくる暗いニュースは君が作ってんやろが、みたいな。やばい。でもそれくらいのヤバさをこの曲には感じる。
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コメント
最後に書かれている快楽殺人、私は大当たりだと思っています。
怖いほど素晴らしい曲だけどエグい曲です。
ニュースになるほどのセンセーショナルな事件、実話を元に書かれてるんじゃないかと思います。
不機嫌な誰かは母親、ダーリンは被害少年、禁断の実は小動物の殺傷、魔法をかけるは殺人そのものの暗喩、僕の短所は快楽殺人、街灯に沿って歩かなければならないのは夜明け前に人目につく場所に遺体の一部を運ばなければならないから→朝になれば悲しいニュースになる…ニュースが降ってくるという表現は個人的なニュースというよりマスメディアがこぞって報道するようなニュアンスを感じる。
こんな事件ありましたよね。
そして最後に「わかるかい」という歌詞。
何の事を歌ってるかわかるかい?とも取れる。
犯人の目線で犯罪を美化して描いた世界観。
表現としては際どすぎる。作者は絶対に認めるわけにはいかないだろうけどこれ以上にしっくりくる解釈はない。
場所や事件を重ねるというより、
時代のうねりのなかで
それぞれが乗っている時間のずれを詠っています。
眠れない真夜中に解放される一瞬があります。
ふたりきりの特別なうっとりとした時間 、日常やこの星の出来事から遠く離れてしまったような特別な感覚を称して、エイリアンと言っているように、私は感じました。
そして別れを惜しむ、素敵な彼女に魔法をかける、つまりずっと一緒いようという、告白、プロポーズ、照れくさいけど、わかるかい?わかってくれるよね?という、ラブリーでロマンチックな歌のように、私は感じました。
不倫してるから、エイリアンズ。😞💨
勉強になりました。
深夜に哀しくなってしまった彼女と、夜の街を明け方までブラブラしてるんですね。
ロマンチックなことを言ったり、ジョークを言ったり、ダンスを誘ったりして、優しくなぐさめながら。
そうした、いつもから少し離れた特別な時間性を称してエイリアンズ。
メロディーや演奏や歌唱を聴いても、漂っているのは至福感で、不倫や同性愛や事件的な邪な感じ、追い詰められた感じは、私はしません。
本当はエイリアンじゃないから、まるでエイリアンというメタファーが成り立つわけで、不倫や同性愛や事件を起こした人たちがそう言ったら、しゃれになんない。
快楽殺人とか言ってる奴らはさすがにアホすぎて話にならんね
自分の願望を曲に押し付けすぎでしょ
キリンジは大して何も考えてないっていうかそこまで深く考えてないはず
もっとシンプルな曲でしょこれは
旅客機と書いてボーイングなのね。
歌詞を今まで見たことなかったから、
「遥か空にボーイ 音もなく 公団の屋根の上 どこへ行く」
かと思ってた(笑)
なんか、この曲はもっとシンプルだと思いますよ?解釈は人それぞれだと思いますし、別に否定はしませんが、快楽殺人だの、不倫だの、本質はそこにはないと思います。エアバスとかボーイングとかに関しても、重要なのはそれがエアバスかボーイングかではないと思います。普通に歌を作ってて、ボーイングのほうが語呂が良かったから選んだだけなのでは?エアバスという言葉を入れて歌ってみてください。自分は曲を作りますが、自分だったら絶対ボーイングを入れます。曲を作ったことはお有りなのでしょうか?
そこまで深読みはできませんでした。純粋なちょっと生きずらい人のラブソングだと思っていました。
エイリアンと聞いて、スティングのEnglishman in New Yorkを想起しました。
I’m an alien, I’m a legal alien
同性愛をそんなに否定するのは良くない。
遥か空にボーイング。(裕福、壮大、明朗、表、など)
公団の屋根の上。(貧しさ、矮小、暗愚、裏、など)
→誰かの不機嫌、バイパスの澄んだ空気(都会ではない)、寝静まる夜
=“僕”のおかれた環境(恵まれていないが絶望的ではない)
踊ろうさあダーリン。月明かり、長い夜、寝付けない二人
=”僕“の今の状況(平凡な夜中、緊急性はない)
僕らはエイリアン(日の当たる人生ではない)
禁断の実、頬張って(男と女の単純な関係)
月の裏、憧れる(かと言って、日の当たる世界には憧れていない)
何処かで不揃いな遠吠え…火を吹いた
僕の短所をジョークにしても眉を潜めないで
→ 平凡な郊外。それほど怒りや熱さもない。
→ 冴えない自虐を嫌がる事はない。そこまで自分を不幸と思っている訳じゃない
そうなんだ。俺たちは冴えないマイナリティだけど、
そんな俺たちの灰色の日常でも、ロマンチックな風景や体験は出来る。キスをすれば魔法をかけた様に素晴らしい。(夜の街灯も二人で居れば新世界の様に素晴らしい)
踊ろうダーリン、ラストダンスを
暗いニュースが日の出と共に街に降る前に
→ 朝になる前に、もう一度、愛し合おう、どうせ世の中なんてそんなに明るく楽しい事が溢れてる訳じゃない。
だから、二人のこの時間を楽しもう。
平凡で冴えない二人。でも、ささやかな幸せ。
それでいい。そんな素晴らしい唄。だと思う。
ネタだと思いますが、非常に人生経験の乏しい方の解釈だと思いました。そして何よりセンスが無くて面白くないです。
「歌」というコミュニケーションの評価は受け手が自由に決めることができるので別に否定はしませんが。
その解釈だと、この哀愁あるロマンティックな曲調に合わない気がしてしまう。なんかコンビニに売ってる漫画みたいな安い物語だから。もちろん解釈は人それぞれだけど。やはりどうしてもこの曲は同性愛者の曲にしか思えないんだ。というかそう解釈したい自分がいる。
ラストダンスというのは、〆(終わり)のダンスという意味ではありませんよ。
本命の相手や、特別な感情を持つ大切な人と踊るダンスのことです。