例のお見合い結婚/恋愛結婚のグラフについて

国立社会保障・人口問題研究所というところがやっている出生動向基本調査というの統計があって、これには、結婚や少子化の話をするときに必ずといっていいほど引用されるグラフがあるんですわ。例の1965〜1966年あたりに、見合い結婚/恋愛結婚の比率が逆転している、というやつ。

社会学の本で非常によく引用されるんですが、今日読んでた大森美佐先生の『恋愛ってなんだろう?』だとこんな感じに表現されます。

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このグラフ見ると、私いつも不安になるんですよね。まあお見合い結婚が減って、1970年代以降は恋愛結婚が主流になった、っていう話でそれ自体はそうなんだろうと思うんですが、なんかグラフがきれいすぎるような気がする。それに、若い男性が戦争にひっぱられた戦争まっただなかのときはともかく、 昭和10年代とかこんなに「恋愛結婚」が少なかったんだろうか 。それに昭和10年ぐらいを見ると、69.0%と13.4%を合算すると82.4%で、残り18%弱は未回答にしては多いなあ、とか。

もとの出生動向基本調査2021を見るとこう。あれ、エラーバーとかついてる。なんだろう?

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この年度のものには、かなり詳しい調査の説明がついてるんですね。

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この説明を見ると、まずこのグラフは 初婚 どうしの夫婦に限定されている。どっちかが再婚のカップルはこのグラフからは除外されているわけですね。片方は初婚でも片方は再婚というカップルはそこそこいるんじゃないかという気がするんですが、そういうのはこのグラフでは見えない。

さらに、1960年代後半に見合い/恋愛結婚が逆転するわけですが、ここらへん(1930〜1974年)の調査は、第7回の調査あたりが中心になってそうです。エラーバーがついているのは、第7回とそれ以降の調査を統計的に処理してるからなんだろう。んじゃまずは第7回調査がどういうものか見ないとならない。

第7回は1977年におこなわれたもので、「出生力調査」なんですね(「出生基本動向調査」じゃない)。「はじめに」を読むと、かなり大きな調査内容の変更がおこなわれたようですね。

さて、この第7回は、「夫婦」を対象にした調査で国勢調査をもとにしたサンプリング15,097件の夫婦が対象。そうした夫婦たちがどれくら子供を生んでいるか、というのが調査の主要な目的で、見合いか恋愛結婚か、というのは、そういう変数が出生力に影響しているかどうかを見るためのものなわけですね。

あんまり自信がないんですが、この調査は、問1でご主人と奥さんの生年月日と現在までの結婚年月、それにそれぞれが初婚か再婚か(その他か)を聞いている。さらに問8で「あなたがた御夫婦の結婚は右のどれにあてりますか」で、見合い/恋愛/その他を聞いているわけです。そしてその結果がこう。()の中の数字がお見合い/恋愛/その他の割合で、その上の数字は妻の平均結婚年齢ですか。

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あのグラフは、この調査では1977年の段階で結婚しているカップルのうち、 初婚どうしのカップルに限定 した上で、それが見合い結婚か恋愛結婚かその他結婚かを聞いているわけです。だから、 恋愛結婚したけど離婚したようなカップル はあのグラフからははずれてるわけです(見合い結婚についても同様)。グラフにあらわれているのは、 初婚どうしの結婚のまま1977年までその結婚を維持した人々 が中心です。それにおそらくその後の調査で追加された人々も統計的に含まれている。ただしそれも初婚どうしの結婚のまま調査まで辿りついた幸福なカップルだけです。ちょっと偏りがあるかもしれない。

また、 その他結婚とはなんだ ということになるわけですが、報告書本文では「いとこ婚」があげられていますが、恋愛とは言えないけど正式なお見合いをしたわけでもない、みたいな人々が入ってるでしょうか。好きじゃないけど生活のために、あるいは借金のカタに結婚した、みたいなカップルも入ってるかもしれません。それでも初婚どうしであるていどは長続きしている人たちですね。

というわけで、まあ見合いが減って「恋愛結婚」が優勢になった、という結論になにか文句をつけたいわけではないのですが、あのグラフは あくまで 初婚どうしが継続したカップルだけの結果であり、また昭和前期については「その他」が10%以上いることを考えると、もうすこし 慎重に見るべきグラフ だろう、とは思うわけです。特に離婚率や再婚率とか考えてみないとなりませんね。

私にちょっと問題だと感じられたのは、そうした慎重さが、近年の社会学者の先生たちによる結婚に関する新書などから抜けおちてしまってるように見えることで、最初にあげた大森先生のやつはすっぽり抜けてました。いくつかチェックしてみたい新書はあるのですが、まあそういうのは注意しましょうね、ぐらいの話です。私がなにか誤解しているのかもしれない。第8回以降の調査がどういう感じになってるのかチェックしてませんし。でも第7回をチェックしてる先生はそんな多くないんじゃないかな、という印象です。

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コメント

  1. 匿名 より:

    あやふやな記憶で恐縮なのですが、平井ほか編『家族研究の最前線② 出会いと結婚』で、単純な理解を牽制しつつ、この調査の精確な解釈についてはいろいろ論じられていた気がします。先生が疑問に思われている部分が直接論じられていたかは定かではないですが、参考まで。

  2. 江口 より:

    ありがとうございます。他でもその文献指摘されてますので確認します。

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