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ファンク入門補遺

(消えてしまってるけど、Roberta Flack先生のReverend Lee)

有名な曲ばっかり並べちゃったから、あんまり有名じゃない70年代のを1曲だけ。これはすごいよ。こんなファンクネスはないってくらいすごい。ロックの影響を受けてるけど、とにかく抑制がすごい。

Chapter Two

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Roberta Flack
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ファンク入門(7) ファンク90年代

まあここらへんまで来るともう私にはリアルタイムなんですが、2曲ぐらいか。まあここらへん語りはじめるとキリがないというか。90年代にファンクはヒップホップとかと融合してまあ「ファンク」という枠はなくなる感じ。でもまあ1拍目!っていうJBの身体感覚がずーっと続いているのがわかると思います。あと抑制ね。

とりあえずファンク入門おしまい。あとはいろいろ聞いて踊ってください。常に1拍目と抑制を忘れずに。

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2000年代だけどこれもすばらしい。

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ファンク入門(6) ファンク70年代後半〜80年代

まあ75年から10年ぐらいはファンク全盛時代ですわね。

いくつか典型を。

オハイオ・プレイヤーズ。

Tower of Power。これは白人バンド。ベースのロッコ・プレステアがかっこいいんだ。ココココココココってミュートして16分音符で弾きまくる。オークランドってどこにあるか知らんけど。

プリンス様も出てくるけどYoutubeにはないので、かわりにThe Time。これのキーボードとベースの人はのちにジャネット・ジャクソンとかプロデュースするJam & Lewis。映画『パープル・レイン』からですね。かっこよすぎる。この映画は必ず見ましょう。

Very Best of Tower of Power: The Warner Years

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Tower Of Power
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Best of

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雑感:音楽とは構造なのである

とかまあファンク入門とかコード進行入門とか書いてみたりして。

私が思うに、音楽というのは構造というか形式というかそういうものなのです。どうもこれはわかってる人とわかってない人がいるみたい。

基本的には小さな部分のくりかえしが音楽をつくる。くりかえさないと音楽にならない。これはバッハでもモーツァルトでもジャズでもなんでもそうです。まあわざとくりかえさないとフリージャズとかノイズとか無定形のものになる。そういうのがおもしろい場合もあるけど、そういう音楽作っている人々さえも、ある程度の形式は意識しています。フリージャズっていっても頭と最後には「テーマ」みたいなのを演奏します。

山下洋輔先生の「寿限無」。いちおう「じゅげむじゅけむごこうのすりきれ〜」っていうテーマがあって、それ弾いたあとはもう「自由」にやってるけど最後はもういちど「じゅげむじゅげむ」とやって終る。

ごちゃごちゃやってるなかでもテーマにある断片みたいなものもなんども弾いてますよね。自由やって演奏のアイディアがなくなりかけるとテーマを思いだして弾いてまた自由にやるのです。ジャズ(インプロビゼーション)入門はあとでやる予定ですが、まあこういうのはある種の「テーマと変奏、そしてテーマ」という形式のなかでのものなのです。

ふつうのポップスの曲はAABとかAABBとかAABBCCとかってので1コーラスになって、それがAAB|AAB|AAB|AAB|とか4かいぐらいやって終ったりすることが多いですね。まあさざまですが、くりかえさないポップ音楽はないです。

どういう構造になってるのをちょっと意識してみるだけで、ずいぶん音楽の理解が変わってくるんじゃないかと思います。逆に言うと、形式・構造さえなんとかすれば腕は悪くても音楽もどきを作ることは不可能ではない。

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簡単なコード進行理論 (1) ケーデンス

私が思うに、ポピュラー音楽を構成するものは (1) 規則的なリズム/ビート、(2) 基本的に西洋古典音楽に依拠した和声理論、(3) 歌いやすい/わかりやすいメロディー (4) 歌詞 (5) くりかえし (6)ある程度の即興性、アドリブみたいなのに分けることができます。 続きを読む

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ファンク入門(5) ファンクの発展

まあJBとスライ以降はもうなんでもあり。

ジャズミュージシャンもスライ先生の影響でファンクをはじめます。

ハービー・ハンコック先生のカメレオン。ちょっと長くてジャズとか聞いてない人にはつらいかも。ハンコック先生はファンクを単純化して、スネアドラムの2拍4拍のバックビートをずらしたりして(1回目がふつうより16分音符1個分早い)独特のギクシャクしたリズムを出してる。シンセベースも好まれました。ふつうのベースよりエッジが立つから。

ハンコック先生がマイルスデイビスのバンドを首になってからいろいろやってたんですが売れなくて困っていた、と。でウェインショーター先生から誘われて創価学会に入会。毎日勤行を繰り返す日々。そんなある日、夢枕に日蓮先生とスライ先生二人がいっしょに立っていたという。「これだ!」。ハンコック先生はそこからヒントを得てこのファンクを開発したと言われいます。ほんとかどうかは知らん。大作先生が立ってたらどうなっていたのかもしらん。まあとにかくハンコック先生はライブとかでも自分でこのベースライン弾くんですが、すごいファンクネスでたまらんです。

P-Funkっていうのは70年代後半から80年前半ぐらいまでにジョージ・クリントン先生がやってたFunkadelicやParliamentというバンドとかその他周辺バンド・アーティストの総称。大人数でいろんなことをやる。ダンスフロアを占拠しておったらしいです。とにかく曲が長い、がかっこいい。ズズズズズ。とにかくこういうのを聞きながら一人で部屋で踊り狂うようになるとファンク中級。

ふつうのベースより低い音域使ってるので、ベーシストたちはそれに対抗するために弦を1本増やすことになってしまいました。

もうステージ上は変態大集合ですね。客席も黒人ばっかり。白人はサタテーナイトフィーバーとかでビージーズとかおしゃれに踊ってたときに、黒人のみなさまはこんな感じ。会場中マリファナとかがモウモウとしていたそうです。よい子のみんなはマリファナやドラッグは真似しちゃいけません。白い衣装のジョージ・クリントン先生のリズムのとりかたに注目してください。とにかく1拍目!

ファンクと抑制の関係を知ってもらうために、P-Funkをもう2曲。どっちもアルバムの最初の曲なんですが、抑制されてますよね。白人だったらジャーンっていってはじまりそうだけど、黒人ファンクはこういう感じ。盛り上ってるところも盛り上りまくならない。走らないでむしろ足ひきずってる感じ。重い。

Headhunters

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Uncle Jam Wants You

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Funkentelechy Vs the Placebo Syndrome

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ファンク入門(4) スライの密室ファンク

入門(3)であげた Thank Youなんかはスライ先生が調子よかったときで開放的な明るさがあるわけですが、先生はその後ドラックづけになってどろどろになります。かなりやばかったみたいでどんどんバンドメンバーやめてきます。ドラッグはぜったいやめましょう。

でもまあそういうなかでThere’s a riot going onとかFreshとかって名盤を作成するわけです。ここらへんのアルバムは非常に内省的になっていて魅力的。

Freshの最初の曲In Timeを聞いてみましょう。

ドラマーはアンディー・ニューマーク先生にかわってます。さらにリズムマシンが導入されていて、ポコポコチキチキいってるのはマシン。ニューマーク先生は絶妙のタイミングでハイハットをシパッシパッ!ピシ!とやっててシビれる。ここらへんになるともうステージの上では演奏不可能じゃないっすかね。密室というか録音テープの上だけで音楽が構成されている感じですね。

ファンクに必須の抑制ってのがよくかってもらえるんじゃないかと思います。

名曲 Family Affairも聞いてくだしあ。

歌ってるのはスライ先生じゃなくてThank Youでスラップベースを開発したラリー・グラハム先生。こういう内省的な曲でも、ドッどどっ、ドどどっ、って感じで1拍目が強調されています。これがファンク。

前に紹介した「アンソロジー」に重要な曲は入ってるけど、この2枚はアルバム全体が名盤なので買いましょう。

ちなみにここらへん以降スライ先生は完全にドラッグ廃人。2000年ぐらいに復活かとか言われたけどもちろん無理。ドラッグから逃れられる人はおらんのです。

There’s a Riot Goin on

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Fresh

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Sly & The Family Stone
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ファンク入門(3) スライのファンク

では次に、スライ&ファミリー・ストーンのファンクです。

このかっこよさを見よ。バンドが男女、黒人白人入りまじっていて、カラフルですよね。JBの「黒人です」てのとはちょっと違うロック風味も入っている。

音楽的には「一発もの」と呼ばれるものです。Sex Machineはコード2個だったけど、2個でできるなら1個でもできるんではないか。E7 1個でいいのではないか、というわけです。もうなんにも進行しないでおなじところでずっとじりじりやる。さすがに途中でギタだけになるブリッジは挟んでますが、まあずっとE7。(あれ、オリジナルはE7なんですがこの演奏はホーンのソロとか入ってるからかF7でやってますね。いや、曲の部分はやっぱりE7。)

もうコード進行とか西洋文明はいらんのではないか、1発でアフリカにもどろうではないか、みたいなそういう思想があるのかもしれんです。

リズム的にはJBのものよりさらに細分化されて16分音符が意識されている。日本では16ビートとか言われてるけどなんかおかしくて、16th feelといいます。ドラムはエイトビート(8th feel)、ベースは16thフィール、ホーンやギターやキーボードやタンバリンは16thだったり8だったり。4分音符中心、8分音符中心、16音符中心の感覚が重なっていてどろどろしたファンクになる。JBの比較的シンプルな単純なのとはちょっと違ってきます。JBのよりこっちのやりかたのほうがいろいろ簡単でおもしろいものができるので主流になります。マイルスデイヴィスがこれ聞いて自分のバンドをこう感じにした話は有名ですよね。

こういうの聞くと私は足と腰と肩とか体の各部分が別々に動いてぎくしゃくした感じになって猛烈に気持ちいです。

あとベースが人差し指や中指で弦をはじくんじゃなくて、親指で弦をひっぱたく「スラップ」ってのが使われてます。この演奏法はこの曲から有名になった。

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ファンク入門(1) JBのファンク

ファンクというジャンルは、ソウルブラザーNo.1のジェームズ・ブラウン(JB)先生が開発したということになっております。音楽的な特徴は16分音符フィール(16th feel)とか、ちょっとハネてるとか、4拍子と8thと16thがまざってるポリリズムだとかってのがあるんですが、とにかく1拍目を強調することっすね。あとはどうでもいいっちゃーどうでもいい。

まずはJB先生の代名詞ともなった名曲”Sex Machine”のころのバンドメンバーで、のちにP-Funk一派をひっぱることになったブーチー・コリンズ先生のレクチャーを見ましょう。

ユーノウ、1拍目さえ出してりゃいいわけです。ユーノウ、これがファンク。ロックは2拍4拍が大事で、「ちっちっダっちっちっちっダっち」「ダダダダズダダダ」だけどファンクは「ドンちっちっちっち」。

ドラマーのジャボ・スタークス先生のも見てください。

これは、まさにJB先生の身体感覚から生まれてきているわけです。これがよくわかる音源があって、これは必聴です

名曲”Cold Sweat”のリハとボツテイクの最初です。最初はメリハリがなかったバンドが、JB先生が「ブン!ばっばっばっ」て指示するとバッチリになるのがわかります。あのサウンドはJB先生の身体感覚そのまんまなのですよね。これがファンクだ!

ではJB先生の体の動きに注目しながら鑑賞してください。体全体は4つを刻んでいて特に1拍目を強くダウンで感じてます。しかし体の各部分はその半分の8つでチキチキ感じてるところがある。これがあの独特のフィールになるわけです。これ以降のファンクはもっと複雑になるんですけどね。

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ジャズライブの楽しみ方レクチャー

えー、こんばんは。今日は久しぶりにジャズのライブハウスに来ましたので、yonosuke流ジャズライブの楽しみ方を超初心者向けにレクチャーしながら皆様といっしょに楽しんでみたいと思います。

箱は京都としては中ぐらいの大きさの~です。このお店は毎日ライブをしていて雰囲気もいいのでデートで使うのもいいですね。ただ食べものがあんまりないので、早めにご飯してからここでゆっくり酒を飲む、のようなコースにするとよいと思います。私も回転寿司食ってから来ました。

演奏者は今日は二人ですね。ピアノとベース。ピアノの~さんは何度か聞いているのですが、ベースの~さんははじめてです。どういう演奏になるのか楽しみですね。

開演は7:30ということになってますが、この手の店で時間通りはじまることは滅多にありません。適当にお客さんが集まってから注文とか一段落したところではじまる、ってのが普通ですね。それにしてもお客さんいませんね。こういうお店はいつも集客に苦労しています。

皆さんもご存知だと思いますが、ふつうのジャズの演奏はまあまずもとのメロディーというかテーマ(通は「ヘッド」とか言いますが)を演奏して、そのテーマのコード進行に従って勝手なメロディーをその場で作って演奏するアドリブが続き、最後にもう一度テーマを演奏して終ります。ハーモニーはそのままで、テーマとは違うメロディーをその場で作曲して披露しているわけです。

聞く側のポイントは、アドリブのもとになるテーマのメロディーとハーモニーの雰囲気と長さをおぼえておくことですね。少なくとも、どこが「頭」か、つまりコーラス/歌1回分の始まりの部分であるかを意識しておくのが重要です。だいたいの曲は8小節ごとのA+A+B+AとかA + A + Bとかの構造になっているので、これをその場で記憶します。超初心者は実際に数を数えてもいい*1

自分で作ったイントロやエンディングを加えることも多いですね。アドリブする順番は管楽器→ギター→ピアノ→ベース→ドラムの順ってことになってます。管楽器が複数いる場合は、一応トランペット→サックス→その他ということになりますが、実質的に偉い順ということになります。リーダーが最初に「この曲はこんなふうにやるのじゃ」と宣言して、子分たちはそれを参考にしたり真似したり反抗したりする、ってのがまあ正統ですな。このアドリブの上手下手を聞くのがライブの一番の楽しみ、ということになります。しかし今日は二人だけの演奏なので、そういうアドリブのキレとかよりは、二人の演奏がどういうふうに噛みあったりすれちがったりするかが聞きどころになります。

さて、始まりますね。

1曲目

簡単なMCのあとに最初の曲は、Bouncing with Budのようですね。バドパウエルという40~50年代に活躍した名ピアニストが作ったジャズスタンダート曲、ということになります。Bud Powell, _The Amazing Bud Powell Vol. 1_ という名盤に入ってます。アップテンポで典型的なビバップ様式ですね。こうメロディーが8分音符中心で細かくて分散和音とスケールでできている。

さて、ライブの楽しみの一つは、どういう曲をどんな風に演奏するか、ってことですわね。このBouncing~は超有名な曲なので、プロのジャズピアニストは必ず弾けるのですが、バップの曲のなかでもちょっと凝っているコード進行で、難曲とは言わないまでも、そんな簡単な方ではありません。基本的にはAA’BA形式の曲ですが、キメが入っているのでそこらへんも事前に相談しておかなきゃならなくて面倒なので、まあ普通はジャムセッションとかではやらない。まあ硬派を主張する曲なわけです。

こういう曲を1曲目に演奏することによって、今日のリーダーであるピアニストは元気よくはじめると同時に、「今日は正統派バップ~ハードバップでやるわよ、でも私はそこらへんのラウンジピアニストとはちょっと違うわよ」ということをアピールしているわけですな。演奏自体も完全にバップそのまんま、というわけじゃないところでさらに個性を主張しているわけですね。ベースの人のアドリブも流麗でなかなか楽しめそうです。

聞くときの楽しみは、どの程度ビバップの様式を消化しているかってことと、AABA形式の転調Bのところをどの程度はっきり印象的に弾くか、ってところでしょうか。

2曲目

MC(司会)が入りますね。へえ、MCって Master of Ceremoniesから来てるんですね。知りませんでした。まあ小さめの箱ではどういうMCをするかってのもその演奏者の個性が楽しめてよいものです。このピアニストの~さんはそんな話がうまい方ではないですね。まあジャズミュージシャンでMCおもしろいってのは聞いたことがない。ふつうは曲の紹介とか歌物スタンダードなら歌詞の内容の説明とかそういうのしますね。

次は Along Came Betty。1950~1960年代前半のハードバップ時代に活躍したベニー・ゴルソンというサックス奏者の曲ですね。Art Blakeyの _Moanin’_ に収録されているのが決定版。独特のやわらかくて暗い感じがする名曲ですね。コード進行が非常に複雑で、ハードバップという様式が爛熟している感じ。前のBouncing~とは複雑さがぜんぜん違ってて、15年ぐらいでジャズという音楽がこれくらい進んだ、とかそういうことを感じさせる曲でもあります。特に |A | Ab7 | G | Gb7 |半音ずつ下ってったりするところとか魅力的です。まあアドリブ初心者とかは弾けない。上級とはいわないまでも中の上以上の力が必要。この曲をやることによって、今日の方針が完全に決定されたわけですね。「難しい曲やるわよ」。まあそういうんで私はこのピアニストが好きなんですけどね。あとこの曲を聞くと誰でもブレイキーバンドの演奏を思い出すので、そこからどのような距離をとるか、みたいなところが聞きどころです。あとこういう難しい曲だと、さすがに演奏者もアドリブの途中で「うー」っとなることがある。そのときに伴奏者がそっちの顔見ていろいろコミュニケーションしたりする。助けあいしてるんですね。今日は二人とも達者なのでそういうとこはあんまりありませんでしたが。「へえ、そんな風に弾きますか」みたいな顔することもあるし。そういうのもライブの楽しみです。ベースの人のアドリブがすごくメロディアスで感心しますね。ボサノバにしてたのも印象的でした。

3曲目

ふたたびMC。このピアニストは最近CDを出してます。けっこうオリジナル曲を書く作曲家でもあります。作曲家というものはやはり自作曲がかわいいものなので、いろいろ語りたいことがあるわけですね。どんなところからインスピレーションを受けたか、みたいなのとか、自分というのはどういう人間なのか、みたいなことを語ってます。この曲は Enrico Pieranunzi というピアニストのCDのジャケットからインスピレーションを受けた、みたいなことを語ってます。イタリアの人ですね。なんかおシャレなCDジャケつけるひとなんで、なるほど、とか。それからそういうことを話すことによって、彼女自身の音楽的な好みとか出自も同時に語ってるわけですね。

曲はなかなか複雑で曖昧で、そのピエヌランツィとかブラッドメルドーとか90年代のジャズの音がします。理論とかどういうことを考えてこういう音になるのかは、私ぐらいの人間にはわからんですね。まあジャズも70年代からはアカデミックに勉強するものになって、二階建・三階建な感じ。パウエル→ゴルソン→自作曲、という順番でジャズの進化と深化みたいなのを聞かせてる感じなんでしょうね。

4曲目

1セット目最後の曲です。ふつうのライブハウスでは40分ぐらいの「セット」を休憩をはさんで2回か3回やるのが普通ですね。入れ替えはふつうありません。

Have You Met Miss Jones。リチャード・ロジャースというミュージカル作曲家による1937年の曲です。ふつうはリラックスしてスィングする感じでやりますか。難しいオリジナルをやったので、皆がよく知っているスタンダードで楽しい雰囲気で1セット目を終りたい、ということですね。でもスタンダードとしてはちょっと変わっているところがあって、AABAのAの部分はふつうなんですがBの「サビ」の進行が異常なんですね。 |Bb | Abm7 / Db7 | Gb | Em7 / A7 | D | Abm7 / Db7 | Gb | Gm7 / C7 | 。こうめぐるましく転調する感じがおもしろい。コルトレーンの演奏のアイディアになったとかいろいろいわくがある。そこをあんまり意識させずにさらっとやるか、意識させて目がまわる感じにするかとかそこらへんを楽しむ曲ですか。

この4曲で、一応演奏者たちは自己紹介を終えたわけですね。まあなんにしても「俺らは難しいことが大好きなプロフェッショナルミュージシャンだ」ですね。

休憩

休憩のときはミュージシャンもバーで酒飲んだりします。お金のあるオジさんはミュージシャンの人に「一杯どうぞ」とかやることも多いですね。ちょっとお話する権利を獲得することができます。音楽はできなくても「俺は音楽に理解がある」みたいなパトロン気分を味わうことができるのですね。私は滅多にしません*2

おや、へんなオジさんが来店。声がでかい。っていうか一人で喋りまくってます。ご機嫌。でもなんかやばい感じもします。ミュージシャンを捕まえてからんでいます。ミュージシャンは内向的な人が多いから外向的なオジさんにからまれるとたいへん。

まあこういうのって飲み屋さんではなかなか難しいですね。ふつうのバーとかでも、ナンパしたり隣の人に喧嘩売ったりする人いるしねえ。私は苦手です。でもそういうのも夜遊びの醍醐味ですよね。

2セット1曲目

いきなり大スタンダードのFly Me to the Moonでした。2セット目はわかりやすく楽しくやりますよ、という意思表示ですね。このピアニストの人はこういう曲を5拍子にしたりして遊んだりすることがあるのですが、今日はまあ普通にやってます。やっぱりベースの人のアドリブはわかりやすいメロディーで歌心があって素敵ですね。ベースでこういうソロをとる人はあんまりいない。やりやすい曲なので、いろいろインタープレイしてます。お互いに反応したり相手のフレーズを模倣したり。この二人はあんまり共演歴はないみたいだけど、だいぶんリラックスしてきた感じですね。

なんかオジさんは演奏中にもいろいろ叫んだりしていてちょっとあれです。まあでも演奏中にいろんな掛け声かけたりするのは基本的にはOKです。そこまでコミでジャズ。お客さんに人数が多いときは、一人のアドリブが終ったところで拍手したりして演奏に対する評価を表したりすることもあります。「イェー」とか叫ぶ人もいますね。でもまあこれもうまくやらないと邪魔だったり馬鹿にされたりする。

2セット2曲目

Like Someone in Love。これも大スタンダードですね。3拍子にしてる。途中で倍テンポにしたりいろいろ楽しませてくれます。

バース(Bars)とかもやってます。ふつうのアドリブはコーラス(AABAの歌詞一回りぶん)を何回かやるわけですが、それを細かく4小節とか2小節とかに区切って短いアドリブを交換するわけです。相手のフレーズにどう答えるか、模倣するかぜんぜん違うのやるか、まあ早い話が直接的に腕を競うわけです。なかなかの丁々発止。

非常に重要なことですが、ジャズというのは非常に競争的な音楽です。というかこの競争こそがジャズの中心にあります。他のミュージシャンよりもうまいアドリブをとる、より速く弾く、より高い音、より美しいフレーズ、より大きい音、より面白いリズムのバリエーション、より斬新な音を出し、フレーズの引用などによって多くの音楽的知識を見せる。バンド内で常に競争が行なわれているのです。

オジさんはさらにご機嫌に立ち上がったり演奏者の前に行って踊ろうとしたりしてます。演奏者たいへん。でもあんまり実害はない感じかな。

2セット3曲目

Polka Dot and Moonbeams。さらに大スタンダードバラード。もうこのセットは誰にでもわかる曲しかやらないよ、ということですね。オジさんはもっとアップテンポな奴をどんどんやってほしかったのかなんか不満げでもありますが、演奏自体はよいです。

2セット4曲目

こうなるともう季節的にも枯葉しかないですね。ちょっと凝ったイントロつけてます。この曲は基本的にマイルスデイビス(Cannonball Addaleyの _Something Else_ )やビルエバンスの有名な演奏とどれくらい距離をとるか、ってのがききどころになります。初心者から上級者まで誰でも弾ける曲だけど、新鮮に演奏するのは意外に難しい、っていう感じ。アップテンポにして快適でスリリングな感じになってます。両者ともに当然やりなれた曲なので、いろんな交流が見られます。かなり圧倒的な演奏で、もうオジさんが邪魔する余地はないですね。とてもよかったです。

休憩

オジさんの妨害にもめげずによくがんばったので一息ですな。ここでお客さんどんどん帰ってしまいます。まあここで10時ぐらい、女性たちなのでこんなもんでしょうか。オジさんに危険を感じたのもあるかもしれません。

これ難しいんですよね。基本的に、夜遊びしていて様子のおかしいお客さん、危険なお客さんがいる場合、さっさと帰るべきです。どんなトラブルに巻きこまれないとも限りません。

吉野家ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。

Uの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、

刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。

まあこういうのは酒場も同じですな。まきこまれないのが一番。君子危うきに近よらず。女の子だけだったり、女の子づれだったりしたらちょっとでも危険やトラブルの匂いを感じたらさっさと帰りましょう。

でもまあ私の若い頃にスナックのママから教えてもらったことがあります。「男の子がお客の少ない店で一人で飲んでいるとき、様子のおかしいお客さんが来たら、帰ってはいけません。」そのお店は基本的に女の子だけでやってる店だったし、小さなスナックとかでは時々強盗とかがあるんですね。80年代には木屋町で一人でお店しているママが殺された事件とかがあって、そういう店でよく飲んでいる男の子の仕事の一つは用心棒なんですね。まあ人数がいればへんなことにはならんし。

しかし私とオジさん以外のお客さんがぜんぶ帰ってしまいました。ピアニストがお愛想に来てくれたので一杯出しておきます。

この店はマスターがいるので帰ってもよかったのですが、まあもうちょっと聞くことにしましょう。

あれ、オジさんも休憩中に帰ってしまいましたよ。しかし、どんな箱でも最少開催人数1人ということになってるので中止はありません。ライブ続行です。(お客がいなってしまった店でどんなことが行なわれているかは知りません。どうすんでしょね。)

3セット1曲目

Billie’s Bounce。チャーリーパーカーのスタンダードなビバップブルース曲ですね。まあジャズミュージシャンは1晩に1回はブルース演奏しなきゃならんことになっているのだと思います。しかしブルースでもどの曲を選択するか、ってのが問題なわけで、同じパーカーでもNow’s the Timeとかだとダサい。モンクのStraight, No Chaserとかだと個性的で、ウェインショーターのFootprintsとかだとキレてる感じ*3。Billie’s Bounceはまあ「ブルースやろうか」ってなったときのふつうのファーストチョイス。ジャズマンなら必ずできるけど、初心者だとたいへん、これができるとジャムセッションに参加する資格を得られます、ぐらい。今回は二人でブルース腕競べしましょう、とかそういう感じ。

まああとブルースもどういうふうに演奏するかってのが問われるわけで、今回は最初はレニートリスターノ風に片手で中低音でニョロニョロしたフレーズを弾いたりして、「ふつうにはやりません」をアピールしてましたね。

3セット2曲目

オリジナル曲。ダークマターだそうです。もとのタイトルはAgonyって曲なのよっ、でもアルバムに入れるとき暗い印象を与えるから名前変えましたとかアピールしてました。まあなんかイライラすることとか苦しいことがあるんかもしれないですね。曲の構成とか複雑な現代風の曲で、まあやっぱりアドリブの腕を見せる他に、作曲で自分の美意識を見せる、ってのがジャズマンのもう一つの顔であるわけです。最初の方はエリントンのPrelude to a Kissに影響を受けたようなメロディーラインで、なんか関係あるのかもしれない。こういうジャズチューンの作曲ってのがどれくらい時間のかかるものなのかとか、どういうこと考えて作るのかとはあんまり想像つかないのでいずれ質問してみたい。ロックの曲なんかと違って、ちゃんとコンポジションって感じの作業なんだろうって気はする。せめて楽譜がどういう風に書かれているのか知りたい気がするな。自分作曲したものを他のプレイヤーに演奏してもらうのはうれしいもんでしょうなあ。

3セット3曲目

スタンダードでIt could Happen to You。これも大スタンダードっすね。ふつうは快適なミドルテンポでやる。プレイヤーの息も合ってる感じです。言いたいことは言ったので、ほんわか楽しくなって終りましょう、ということです。でもそれなりのプレイの応酬があります。

3セット4曲目

あれ、おしまいだと思ったのにこれで終らず Body and Soul。最後に大物バラードもってきますか。驚きました。

スタンダードバラードにもいくつか種類があって、こう単に「ロマンチックねえ」みたいなやつ(2セット目のポルカドットみたいなの)と、このBody and Soulみたいな重量級のがあるわけです。まあ歌詞の内容とかジャズミュージシャンの歴史上の名演みたいなのによってそういうのが決まってる。「涙なしには聞けない」みたいにしないとならん曲、きちんと気合入れないと弾いてはいけない曲ってのがいくつかある。これで終ろう、ってのはまあかなり意欲と勇気がないとできないはず。プレイヤー間でも必ず腕競べになるそういう曲。バドパウエルの名演でも有名で、他のスタンダードもパウエル関連のが多いわけなので、今日はバドパウエル先生への敬意を全面に披露した、という感じです。

まあ期待通り気合いの入ったすばらしい演奏っすね。

まあ全体として非常にハッピーでしたね。3セット聞くのはしんどいので、ふつうの人は1~2セット、ツウは2~3セットぐらいを聞くようになってるわけです。終ったあともっと飲むのも楽しいですが、私はだいたいそのころには酔っ払いなのでさっさと帰ります。ビール3杯、ウィスキー2杯ぐらい飲んでチャージ(演奏者に行く分)入れて5000円ぐらい。

ピアニストは笹井真紀子先生、ベーシストは荒玉哲郎先生、お店はLe Club Jazzでした。それでは皆様も楽しい音楽生活を送ってください。

*1:ところが実際のミュージシャンは、AABAの曲をAABAでひとかたまりで演奏すると単純でつまらないのでAAB|AAAB|AA|ABA|みたいな雰囲気にずらしたり、もっといろんなことをするわけですが。

*2:でもこのピアニストの人を初めてバンドで聞いたときはあまりに新鮮な気分だったのでバンドの人々におごったような。

*3:まあブルースやろうっていってFootprintsやる人はいませんが。

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