ファンク入門 (2) JBファンクの和声的側面

James Brownファンクのリズム的側面の次は、コード進行について考えてみましょう。
JB先生の一番有名な曲 Sex Machine です。

この曲はたった二つのコードでできてます。Ab7とEb7。

最初のダッダッダッダッダッダッダッダッの8発がAb7で、そのあと延々Eb7が続き、「ブリッジに行っていいか?いいか?ブリッジ行っていいのか?いいのか?いいのか?ほんとにいくぞ?いくぞ?」ってやったあとにAb7に行って猛烈な解放感がある。もう延々なんか我慢してたものを放出する感じっすわね。これはAb7に対してEb7がドミナントという関係にあるからなんですが、コード進行の詳しい話はまたあとでやります。

ふつうの曲は最低3つはコードを使います。トニック(主和音)=I(1度)、ドミナント(属和音)=V(5度)、サブドミナント(副属和音)=IV(4度)かIIm(2度)。ブルースのような単純な形式でもIとIVとVと3つある。これが西洋古典音楽の基本です。でもこの曲はたった2つしかない。これがミソです。

まあとにかくこのEb7のところのジリジリした感じと、「ブリッジ」の部分の解放感を味わうのがこの曲のキモです。ファンクっていうのは元気いっぱい、猛烈、全力の叫びみたいな印象をもたれることがありますが、それはファンクではないです。ファンクはあくまで抑制されコントロールされている。JBはたしかに雄叫びがあげますが、本当に叫んでいるのはほんどなくて、つねにコントロールされてます。いつも全力にはならずになにか残っているところがある。先に進まないで同じところでジリジリする。ブリッジの部分の解放感も一瞬で、すぐにもどる。ブルースやファンクといった黒人音楽はそういう抑制がなによりもキーなのです。白人のオーケストラ音楽、あるいはヘビメタみたいに、「ドッカーンジャーン」ってやって「きもちいー」なんてのはない。

コードの話にもどると、最初にAb7とEb7と書きましたが、これは実際出されている音はAb(9)とかAb9、Eb(9)とかEb9とか表現されることもある形です。ふつうの単純なロックやソウルだと7thコードはG7(ソシレファ)のような形で使われるんですが、JBはさらにその上に1音エクステンション(テンション)足してG7(9) (ソシレファ)の形でつかう。この9th(9度)の音もファンクな感じです。

ちなみにこういう9thとか13thの音とかは(V7のようなドミナントの場合)緊張感があるので日本ではテンション tension って呼ばれることがあるけど、実は必ずしも緊張感をもたらすものではなくて和音を拡張して豊かな音にしているので、エクステンション extensionで呼ばれます。まあ濁った感じになる。

さて、コードが二つしかないというのはどういうことか?実は2個だけだと、その曲のキーが確定しないのですわ。ふつうの西洋音楽だと、 I – IIm7 – V7 – I (C – Dm7 – G7 – C)のようにしてCメジャーの曲だ、とわかるわけだけど、2個しかないと I7とIV7なのか、V7とI7の曲なのかがわからない。メロディー(?)ラインからも判断がつかない。そこでこの曲はずっと解決しないままで最後までいってしまします。最後に「クィットするぜ!」ってやってダッダッダッダッダッダッダッダッってやっても解決した感じがしないっしょ?下品な言いかたになるけど残尿感みたいなのがある。こういうの、クラシックやロック、あるいはジャズとかとは根本的に違う考え方でできているわけです。

その次のSuper Badも同じようなもんで、Dmと G7の二つのたったコードでできてますね(ちゃんと確認してないけど)。この二つのコードからすればCメジャーとかが連想されるんだけどそれが実際に弾かれることはないのでやっぱり宙吊り。

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