紙芝居プレゼンテーション(KP法)を試してみました

 

向後千春先生という、大福帳や文章の書き方その他の授業インストラクションで私が注目している先生がいらっしゃいまして、メルマガ、じゃないや、有料noteなんかも参考になるので、悩める大学教員としてお布施しています。

そのなかで紙芝居プレゼンテーションっていうのを使って授業してるっていう話があって、先生がやってるなら参考にせねばとyoutubeとかで見てみたんですわ。発案者の川嶋直先生直伝の動画がある。

なるほどこれはおもしろい。

私は発想が柔軟じゃないので、人前でプレゼンといえばPCのスライド、みたいなのになってしまって、前に「読書紹介をプレゼンしてもらう」みたいなのでもあらかじめパワポとか作ってもらってやってたんですが、どうもみんなスライドに書き込み過ぎだな、みたいなのは感じてたのです。あと、話したあとにディスカッションとかするとき、スライドを前にやったり後ろにやったりしてうざい。事前準備が必要だし、メールその他でのファイルの受け渡しとかも面倒。

このKP法だと1枚にたいして書けないので、余計なことを抜いて要点だけ書くようになる1)いわゆる「高橋メソッド」ぽい感じに。 。それに、使った紙芝居をその場に残しておけるから、上のような問題が一気に解決しますわね。それになにより、面倒なこと考えずにすむ。

ちょうど今年どういうわけか京都の大学コンソーシアムってのがやってる企業インターンシップ事業とやらにかりだされてしまっていて、京都の複数の大学の3回生ぐらいの人々の相手を数回しなきゃならんのですが、プロジェクタとか使えない教室だし、1回目のゼミでなにするかこまってたので、この方式で自己PRとかやってもらうのをおもいついたんです。

まず名前その他は一回簡単に自己紹介してもらい、3〜4人のグループに分けて、「それぞれの効果的な自己アピールを考えてください、アピールは根拠がないとだめだから、どういう実績やエピソードを使ったら効果的か、グループの人に評価してもらってください。紙芝居プレゼンという形式でやります、それに何書いたらいいかも相談してね」みたいな指示をだしてグループ作業してもらって、んで発表。

けっこうもりあがりましたね。まあ学生様たち元気で作ってるときも発表も楽しそうで、コンソーシアムの人がわざわざ広告用の写真撮りに来ました。このKP法の説明自体、私がみんなの前でマジックで紙芝居書きながら説明したんですが、彼らは私よりはるかにうまい。

とにかく紙とマジックとマグネットさえあればいいし、なにより、パソコンなくてもその場で作れるのがよい。ホワイトボードに手書き、とかだとけっこう時間がかかっちゃうし。おもしろいので今後パワポはやめてこれでやろうと思います。


References   [ + ]

1. いわゆる「高橋メソッド」ぽい感じに。

新しいレポートの「指定の表紙」

 

昔「レポート提出の工夫: 「指定の表紙」」ってのを書いたんですが、これ前にも書いたように、学生様は適当にチェック入れてくるんでなかなかうまくいかない。世の中の教育熱心な先生たちは、「ルーブリック」っていうのを作ってるらしく、参考にして新しい「指定の表紙」をつくってみました。

日本高等教育開発協会のルーブリックバンクにあった、大阪府立大の深野先生のものを下敷きにさせていただきました。ありがとうございます。

「ルーブリック」ってなんなのか、いまだによく理解してないので、これがそれなのかなのかどうかは知らん。でも「ルーブリック」っていう名前は本当に私はこういう用語を使う人々をあんまり信用してないっていうか。評価表とかチェック表とか、某先生が言ってたように、「できぐあい表」とかそういう名前でいいじゃんとおもうんだけどどうだろう。

 

 


ゼミも分割して統治する

いや統治じゃなかった。

少人数なら学生様にショートスピーチしてもらう」でも書いたように、ゼミでは最初に30秒とか1分とかのスピーチしてもらうのやってますが、1,2回生で15人ぐらいいると、それだけでも学生様にとってはけっこうな負担みたいですね。やってりゃ慣れるんですが、最初は抵抗あるっぽい。

この春先に試してみているのは、スピーチのネタ(たとえば「自分の長所をアピールしてください」)を提示したあとに、そのネタについてなにを話すか、どういうエピソードを出すか、ってのを、3〜4人で相談してください、時間残ってれば時間測って練習してフィードバックをもらってください、のような形です。

15人の前で話すっていうのは学生様にとっては少人数ではないんですわ。よく考えると、大学教員だって20人とかを越えるとかしこまった話し方になって何を言ってるかものすごくわかりにくくなる人がいますよね。学生様も、3,4人ぐらいだったらOK。

「長所をアピール」では特に、「長所っていうのはいろいろあるよ、まず長所を表す言葉のリストとかを紹介します」とかって話をしてから、「自分にあてはまるの2、3個見つけて、それに対応するエピソードをかんがえてみてください」「それを3人組でそれぞれ相談してみて、うまくはまってるやつをえらんでもらってちょ」みたいな感じ。

10分ぐらいあればだいじょぶそう。それで3人ぐらいで一回練習してもらってから、んじゃ15人の前でやりましょう、だとかなり抵抗が少なくなるみたいです。よく「アクティブラーニング」の本に出てくるアイスブレークのゲーム・作業のかわりにもなる。

「長所」に関して昔書いたエントリは下。まあ同じことばっかり書いてる。就活でやらなきゃならんし、まあ自分の長所を理解しておくってのは自尊心にとっても大事なのでね。


卒論生のための文献・情報関係ウェブサービス案内

 

卒論を書くためにはとにかく大量に本や文献を集めて読み整理しメモをとらねばなりません。(無料の)ウェブサービスを使って効率的にやりましょう。

具体的に私が書籍等あつめるときにどうしているのかというと、基本的に書籍の情報はMediaMarkerに集積してます。Amazonで「この本よまないとならんかな」と思ったら、すぐに登録して「ウィッシュ」もしておく。登録はブラウザからブックマークレットからバインダー登録一発。MediaMarkerの他に、ブクログ読書メーターといったサービスがあるので、自分の好みで。

本を買うとお金がかかってしまうので、なるべく図書館ですませたい。カーリルにアカウントをとって、自分の利用する図書館を登録しておくとよい。私は大学と市立図書館、府立図書館の3箇所を登録してる。さらに、ブラウザにChromeなどをつかっている場合は、Calilayという機能拡張を使うと、AmazonやMediaMarkerのページでその本が図書館にあるかどうかすぐわかる。FirefoxやSafari用の機能拡張もあるはず。

Webの情報は「クリップ」(保存)する。Evernoteというメモソフトの場合はEvernote Web Clipperを使うと一発でクリップできる。Google KeepOneNoteでもおなじことができるはず。これらのメモサービスは非常に便利なものなので、卒論生はどれか使いたい。とにかくWebの保存、メモ、思いつき、読書ノート、なんでもメモサービスにあずける。歩いてる時、電車のなかで思いついたこともスマホからとりあえずメモっておく。(もちろん紙でもいい)

私はPDFはMendeleyってので整理してますが、学部生でここまでやる必要あるかどうかは知りません。もっとよいサービスもありそう。Evernoteに突っ込んでおくだけでも十分かもしれない。

図書館で借りた本などは大事なところ、あとで使いそうなところはコピーするなり写メ取るなりしておく。まあ普通コピーだと思うけど。私は実際には論文などはコピーして、それをスキャナで読んでPDFにして保存することがおおいかな。


関係ありそうな古い記事。書き直さないとならんね。


少人数ゼミの最初は例年通り

今年も始まってしまいました。実は事情によって1週間ほど遅れてなんだけど。補講どうすっかな。まああとで。前期はちょっと苦手な1回生基礎演習がないのがうれしい。

少人数ゼミ(2,3回生)は例年通りの感じでスタート。例年どおりっていうのは、学生様に「話し方」「聞き方」「プレゼンの仕方」みたいな本を貸し出して、3〜4枚のスライドをつくってもらい、それを使って「聞き方」「話し方」「第一印象」「プレゼン」などについてのハウツーを説明してもらうっていう感じ。

私自身が(特に)少人数のときの聴衆の態度みたいのに過剰に敏感で、「もうちょっと態度よくしてくれないと話しにくいなあ」みたいなことがあるので、とりあえず「聞いてますよ」みたいな態度をと形だけでもとるにはどうするか、っていうのを最初にチェックしておきたいわけです。あと自分でプレゼンする側になってみると、学生様たち自身もどういう態度をとってもらうと楽かっていうのがわかるし。

一人3分ていう割り当てなので、まあたいしたことはできないけど、別々の本からほんの一部分適当なところを紹介しただけでも、「この手の本は、まあみんなだいたい同じことが書いてあるのだな」みたいなのも理解してもらえるし。

本はまあなんでもいいんだけどね。『論理的に話す技術』『聞く力 話す力がたちまち身につく40の技術』『話し方超整理法』『論理的にプレゼンする技術』とかまあ、ほかにも大量にある。まあそういうハウツー本という世界というのもあるのだ、ということも知ってもらえる。

もうちょっとアイスブレーク的ゲームみたいなのから入ろうかとも思ったんだけど、あんまりうまいのを見つけてないです。正直、アイスブレークらしいアイスブレークは私には抵抗があってはなんかむずかしいわね。まあぼちぼち。

実際、2回生ぐらいだと、まだどういう態度で人の話を聞いたらいいのかっていうがよくわかってないので、そこらへんがポイントですかね。3回生はもっといろいろ勉強させたいんだけど、2回生ぐらいはそういうしつけみたいなのにけっこう時間使ってしまいます。


授業のお約束2017年版

授業、特に講義のお約束です。2017年版。江口のお願いなので、他の先生の授業はその担当の先生に合わせてください。

  • 私語厳禁。
  • 出席確認と質問・感想等のために「大福帳」を使用するが、出席点はない。病気の時は休んで構わない。健康第一。ただし、文科省様・大学基準協会様などの要求に答えるため、3/4は出席するように。公欠の場合、やむをえない場合には大福帳にその旨書いておくとよい。
  • 授業中の質問、発言は高く評価する。授業によっては、1回の発言で1点、学期10点まで加点することがある。発言ののちに江口からハンコ等をもらうように。本当にどんな質問でもかまわない。たとえば江口の指示が聞き取れなかった場合、聞き落としてしまった場合も質問してよい。エアコンや照明の調整の要求でもよい。
  • なにごとも「他人を無視しない、透明人間にならない」が基本。トイレ等は周りに軽く合図して行ってよい。
  • やむをえず遅刻した場合はそれなりの態度で入ってくること。軽く会釈したりする程度でよい。さっさと席につくこと。友人といっしょにはいってきてどこに座るか相談したりしないこと。
  • 途中退室もそれなりの態度で出ていくこと。事前に連絡しておくとよし。授業に対する嫌悪感、抗議などで出ていくなどは許す。
  • 飲み物はOK。食べ物は可能ならば避けてください。
  • ノートパソコン・スマホ使用はOK。ただしスマホは目立たないかっこよい姿勢(教えました)で使ってください。
  • スライドの写メはパシャパシャうるさいから避けるように。音出ないなら可。そもそも授業後に授業ページにアップロードするので無駄。
  • 机に座ったらまずノートを開いてペンを出す習慣をつけよう。
  • 腕組み・足組みOK。指示待ちで「手はお膝の上」はかっこ悪い。ペンをもっておこう。
  • 居眠りはやむをえないが、机に突っ伏すのはやめて。
  • 授業内容や発言に、セクハラ・アカハラ等の疑いがある場合は、日時等・内容をメモして、あるいは録音などして、担当部署に相談してよい。ただし、疑問があった場合は、直接、あるいは大福帳、メール、大福帳の束にしのびこませた匿名の紙、等で直接疑義・抗議などしてもらった方がありがたい。
  • レポート課題、試験等は最低2週間前に告知する。内容・評価基準等もそのつど伝達する。まえもって質問する必要はない。
  • オフィスアワーは火曜の昼休み・3限。この時間帯は予約不要。他はメール (eguchi.satoshi@gmail.com)で予約すること。

 


売買春の実態調査は難しい (6) 補遺

各国の売買春事情についてのProConはちょっと信頼できないなあ、みたいなことを書いたんですが、その後、ProConが根拠にしている The Continuum Complete International Encyclopedia of Sexuality: Updated, With More Countries (2003)ってのをちょっとめくってみました。

この本は分厚いというか凶器になるでかい本で、各国のセックス事情が各種の統計データを参照してまとめられてる、みたいな本です。たとえば日本Japanの項は百科事典サイズで44ページもある。おそらく有用。ただし、最初は日本人が書いたものに、Updateのために編集者の人とかが新しい項目立てたり、情報を追加したりしているんですね。

Prostitutionの項は、もともとの日本人著者の版では存在してなくて、1997年に編集者のFrancoeur先生が Barnoff 1991ってのを典拠に書き加えてますわ。最初のは統計資料使ってちゃんとしているのに、ここであんまり信頼ならんものが入っちゃってる。

ストリップ劇場とかは警察とずるずるなので、いつ手入れがあるかわかってますよ、みたいな、90年代でもそうかなあ、みたいな話が紹介されたりしている。もう一つはソープランドの話で、Barnoff先生がソープランド体験した話をそのまま引用している。あと内閣府の古い調査とかをBarnoff先生が参照しているのを孫引きしたり。あんまり質のよいものではないですね。

しょうがないので、そのBarnoff 1991、つまりThe Pink Samurai: The Pursuit and Politics of Sex in Japanも入手してみましたが、すごいページ数で読めない。まあ「日本に滞在してエッチな見聞してきたよ」ぐらいの本です。アカデミック味はぜんぜんない、ジャーナリスティックというか、まあそういう感じの。変な国をおもしろおかしく、みたいな。あんまり読む気になれない。

ってんで、まあむかし毎日新聞WaiWaiとかが飛ばし記事みたいなのばんばん書いて世界に発信していた、みたいなのを連想しましたね。あんまりコメントに値するものではないです。

まあどうでもいいような本 → ちゃんとした専門事典 → ネットの大手サイト → Wikipedia (en)ってな感じで情報がおかしくなってるような気がします。ソースロンダリングってんですかね。

 


Google Formsで講義中にアンケートを取る

実はちと病気して休んでたのですが、昨日あたりからちゃんと働き始めますた。一部の方々にはご心配をおかけしました。感謝感謝。

んで、講義科目もアクティブラーニング()、ってんでいろいろうるさいわけで、私もがんばっております。

まあそういうのは私自身はあんまりあざといのはするのもされるのも嫌ですが、趣旨はわかるのでなんとかしたい。そもそも1時間半ずっと私の話を聞いてもらう、とか無理だし。

今日試したのは、しばらく前に某先生から教えてもらったGoogle Forms。受講生から簡単にアンケートがとれるというので使ってみました。ちょっと前に「授業にクリッカーを導入しよう!」みたいな話があったんですが、あれはデモを見ても、他の先生が授業で使おうとしているのをみてもうまく動かないのでとても使う気がなかったのですが、学生様が使い慣れているスマホなら大丈夫だろう、ってなことを思ったわけです。学期の最初の方なら失敗してもまあ許される感じもあるし。

Formsを使うのの問題は、まず、そのURLをどうやって示すかってことですわ。今回は、自分のサーバー(さくらインターネット上のWordpress)にパスワードつきの授業ページを作り、そこからあらかじめつくっておいたForm(回答は匿名、認証せず)のHTMLを埋め込み、そのページへのQRコードを紙で配布すると同時にスライドにもQRを示す、みたいなことをやってみました。

「それじゃ、さっきのQRからページ飛んでください」とやると、200人以上が一気にアクセスしたためか、サーバーエラーが出てちょっとあせりましたわ。さくらが弱いのか、安いプランで借りてるからか。まあWordpressは重いので、一気にアクセスするには向きませんね。

しかしまあ順次アクセスできたようで、数分後にはOKになりました。まあアカデミックにはほとんど意味がないアンケートですが、学生様たちは他がどう考えているのかには興味があるようです。挙手っていうのはやっぱり抵抗があるみたいだし、こういう形はそんな悪くない。教員が喋りまくってるときの息抜きにはいいです。

でもまあとにかく、この手法ではちょっと事故が起こる可能性があるので使えません。

そのあと考えていたのはこうです。Google様のサーバーは当然さくらインターネットよりずっと強いはずなので、直接Google様にお参りする方がよい。ではどうするか。

いまのアイディアはこうです。

まず質問内容が空白の、2択、3択、4択、自由記述、のようなフォームを作っておいて、その4個ぐらいのURLをQRコードにした紙を配る。

授業中に話をして、ここらへんでアンケートとりたいな、と思ったところでステージ上でGoogle様を編集する。他に選択必要ないですか、とか学生様に聞いたりもする。

「いま編集したので、上から3番目の4択のQRを読んで投票してください」

とやる。ニコ生で時々やってる感じですね。

私は興が乗ると1時間ぐらい一人で喋ってられますが、これは実はよくなくて、学生様を圧倒している感じがあるので、それくらだらだら作業しているところを見せて間をとってもいい気がするし。

この方法を次やってみて、また報告したいと思います。


その後、もっとよく考えたら、どうせ編集はたいした手間かかるわけではないので、URLはForm向けた一個だけでいいですね。2択を3択や4択にするのなんか簡単。いろいろ余計なことをかんがえてしまうものです。


売買春の実態調査は難しい (5) ハキム先生の指摘

売買春の実態調査は難しい (4) の続き)

 

んで最後に、なぜ売買春の実態調査が難しいのかを推測。まあ当たり前ですが、非合法な国では低めに出るでしょうね。非合法だから抑制されているってのもあるかもしれん。アメリカでストリップクラブだのトップレスバーとかが主流の風俗になっているのは、売買春は基本的に非合法だからだろう、イギリスが低いのも(女性などがストリートで個人でお客をとるのは合法だけど)管理売春は非合法だからだろう、みたいな。まあ日本でも売買春は非合法なので低めに出そうなものですが、いわゆる「風俗」みたいなグレーゾーンがあって、あれは非合法ではないっぽいし。性器セックス以外のを売買春に入れるか入れないかとか、そういうのが国際比較とかしようとすると難しくなるかもしれないですわね。

もう一つ、売買春にはスティグマがついてるから、恥ずかしいこと、恥ずべきことがらだと理解されているっていうのもあるかもしれないですな。よく売春する側、主に女性の側に「売春婦」というスティグマがつけられていて、男性の側はそうではない、っていうようなことが言われたりするように思いますが、これももうちょっと考える必要があるかもしれない。

やっぱりあいかわらずキャサリン・ハキム先生をもってきてしまいますが、彼女はつぎのようなことを言っている。

客にとって買春がスティグマになったのは、恐らく1960年代の性革命以降だろう。性革命以後、男性たちは建前では、スウェーデンでいうところの「普通のセックス市場」で、いわゆる素人の女性と好きなだけ婚外セックスを楽しめるようになったはずだった。だが実際には、一部の男性にとっては、気軽にセックスできる相手を見つける場が限られてしまっているため、性風俗産業が唯一の選択肢となってしまった。身体に障害のある人や、肉体的に魅力に欠ける男性などがそのグループに含まれる。」p.203 (訳を一部変更している)

いわゆる日本でも一時流行した「性的弱者」論ですか。大昔に比べると、「素人」の女性もわりと簡単にセックスさせてくれるようになったといわれていますが、好きなようにセックスできる男子はごく一部でしかない。このシリーズの最初に出したNHKの調査その他でも、たくさんセックスできる男子はいるもののそれは一部で、その他大勢の男子は相手がいないのでセックスしないままでいる、ポルノを見る、あるいはセックス産業を利用するって言う形ですわね。そしてそれには「みっともない」「かっこ悪い」「モテない」「不潔である」「金払わないとセックスできない」「コミュ力がない」その他の強力なスティグマが付いている 1)そういう「カッコ悪さ」はけっこう強力そうで、アンケートの回答者が認知的不協和を起こす、みたいなのもありえるかなと思います。

……風俗業ではたらく女性たちに関する調査に比べ、顧客側に関する調査は非常に少ない。富と社会的地位を持つ客が多いため、女性よりも自分たちのプライバシーと匿名性を守ることを気にしているのだ。いつもながら、調査結果には、肝心の客についての分析とほぼ同じ分量で、調査者の偏見と固定観念が散りばめられている。買春を違法とする国(米国など)や半合法としている国(英国など)での調査、また買春を法律で取り締まるべきだとして運動を続けている人々による調査(…)は特に、公平で客観的な分析が成されず、自分の論理を擁護するような結果になりがちだ。性的サービスを買う男性は変人ではなく、どこにでもいる普通の人なのである。」pp.206-207

ここも重要で、実は国内でもセックスワーカーの調査は(アカデミック・セミアカデミックに)それなりの蓄積があるのに、利用者側のはあんまりない、と。新書や文庫みても、売春する女性についてはたくさんあるのに、男性側のはめったに見かけないですよね。坂爪先生とかの活動はそういうのでいろいろ価値があるわけです。

ただし、このパラグラフの最後の一文は大事で、坂爪先生は「マイノリティだ」っていうので(正確に何を言おうとしているのかは検討が必要だけど)、セックス産業を利用するのは一部の人間だって主張しようとしているらしいけど、ハキム先生はそうは見ない。「どこにでもいる普通の人だよ」って言うわけです。実際にどういうサービスを利用するかっていうのはその人の好みによって様々だろうけど、オンラインで好みのエッチなビデオみたりするのはまあごくごく普通の人だろうなと私も思いますね。

まあ「普通」であるからといって道徳的に正しいことにはならない。でも、ポルノだのセックス産業だのお色気産業だのを利用する人々がごく一部の異常な人々だと見なす理由はあんまりないし、そういう考え方をするといろいろ間違ってしまうのではないかと思う。(坂爪先生がそういう意味で「マイノリティ」を使おうとしているとは私は思ってないにしても)

というわけで、最初にもどれば、北原先生が坂爪先生をゲス呼ばわりしているのはあんまり筋がよいとは思われないし、また日本が特に「買春天国」だと主張する根拠はあんまりないように思える。一方で、坂爪先生が売買春を利用する人はごく一部、「マイノリティ」だと主張しようとしているのは、坂爪先生の意図はともかくとして、誤解を招きやすいものだったかもしれないと思うです。

なんにせよ、こういうのちゃんとした調査やデータがないままにいろんなことを主張しやすい分野なので、これから調査が進むといいですね。応援したいです。がんばれー。

(とりあえずおしまい)

 

エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き
キャサリン・ハキム
共同通信社
売り上げランキング: 43,786

References   [ + ]

1. そういう「カッコ悪さ」はけっこう強力そうで、アンケートの回答者が認知的不協和を起こす、みたいなのもありえるかなと思います。