中西祐子先生の『男女の進学格差はなぜ埋まらないのか』 (4) 結婚すると女性の大学進学収益率が減るのは、配偶者たちの選好の結果でもあるのでは?

さらに、中西先生は、遠藤さとみ・島一則 (2019) 「女子の高等教育投資収益率の変化と現状」という研究を参照する。私自身はこういうの読みなれてないので正しい評価できてるかわかりませんが、これもたいへん優秀な研究ですね。これです。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsukeizaigaku/49/0/49_41/_article/-char/ja/

この論文では、先のエントリで紹介されていた濱中先生の研究も当然参照されています。

濱中(2013)は、2006年のデータに基づき、正規社員・非正規社員の所得および配偶者所得の規定要因について分析した(いずれも男女別、対象年齢 45歳、重回帰分析)。その結果、女子の学歴と経済的効用の関係について「短大卒は卒業後正規社員として働いた場合と結婚相手の所得を通じて経済的な効用を得ることができ、大卒については、正規、非正規、結婚すべてにおいて効用が確認されており、女子の大学進学は、経済面での有利性をもたらしてくれるオールマイティーな教育機会である」(pp.125-126)と結論付けている。

まだ濱先生の本は入手できていなのですが、とにかく大学進学はオールマイティーな教育機会です!ぜひ大学進学しましょう!進学にはぜひ弊社をご検討ください!じゃなくて、まあとにかくここで「結婚」が入っているのは本当に重要なところだと思うんですよ。

さて、中西先生はこの研究を参照して次のように書いています。遠藤先生たちの研究でも四大は十分な投資効果をもたらしてくれます。

ところが、中断5年後の再就職先が非正規雇用であった場合、その収益率は3.5%と一気に激減する……さらに、退職後に無職になった場合、益率〔ママ〕は大きくマイナスとなります。たとえば大学卒業後28歳まで働き、その後は専業主婦になった場合、収益率はマイナス19.6%と大きな損失が生じます。損失は、仕事を辞めて無職になる年齢が遅ければ遅いほど縮小しますが、損失をなくすには少なくとも36歳まで働き続ける必要があるといいます。しかしこの場合の収益率はわずか0.6%と、ほとんどないに等しいものでした (遠藤・島 2019:49-50)。

そしてここから

……将来専業主婦への道を選ぶ場合、大学教育への投資は経済的には大きな損失です。

すなわち、「大学教育への投資が意味を持つのは、女性が正規労働に就けるかどうかにかかっている」ということです。(p.34)

とういう結論にしてしまう。そして、「育児期以降の女性の雇用が安定しにくいこと」(p.35)や「日本女性の高等教育進学に対する収益率の低さ」(p.36)が大卒女子のフルタイム就業率が低いことの原因であるとされ、それは「高学歴女子たちの「自由な選択」による労働市場からの撤退ではない」(p.38)とされます。

なるほど。でも、あれ、結婚による世帯収入の上昇の話はどこにいったんだろう

これ、最初は遠藤・島 (2019)がそれを無視した研究なのかなと勘違いしてしまいました。でも見てみるとちがいますよ。ちゃんと第6節で「学歴同類婚を介した妻のライフコース別夫婦収益率」を議論しているじゃないですか。むしろこの論文の目玉ポイントの一つに見える(私の専門外の論文なのでそういう評価が正しいかどうかは自信ありませんが)。

大卒夫婦の場合、妻が29歳で専業主婦の道を選択しても収益率は 3.9%となる。その後45歳まで退職年齢を追ってみても妻大卒─夫高専・専門学校卒の夫婦に比べて収益率の高さが際立っている。これらの結果から、大卒の「結婚・出産退職型」女子においても大卒の夫を結婚相手とする「学歴同類婚」により間接的経済効果を享受できることが明らかになった。さらに、短大・専門学校卒女子においては、前項の計測結果同様に短大・専門学校卒男子との結婚では大卒夫婦と同じような間接的経済効果を得ることは期待できないが、大卒男子と結婚する場合、大卒夫婦以上の高い間接的経済効果が期待できることが特徴である。(遠藤・島 2019 pp. 52-53)

さっきの中西先生が指摘していた「大卒女子は収益率が低くなる」みたいな話は、おそらく、大卒女子は高学歴男性と結婚して、旦那がある程度の収入を確保できるようであれば専業主婦やパート勤務を選択してるってことですよね。そりゃ旦那の稼ぎを期待して働かないなら収入が下がっても当然です。そのかわり世帯収入では十分なものを得ている。これをいかにも「現状では女子にとって大卒の価値が低い」みたいな紹介をするっていうのはどういうことなんだろうか。私の読み方がまちがってるんでしょうか?

もちろん、旦那の稼ぎを期待してキャリアをあきらめてしまうのは、離婚その他の危険性を考えればあまり賢い選択ではないかもしれない。でも実際には多くの人がそういう選択をしているわけじゃないですか[1]私は有能な女性たちにはぜひ社会で活躍してほしい。そういう教育をしているつもりです。。ハキム先生が指摘しているように、大卒の肩書は「持参金」がわりかもしれない。

濱中先生の方では結婚による世帯収入の話を紹介しているのに、遠藤先生たちの方ではそれに触れようとしない、そういう文献紹介のしかたは、これまで私がずっと指摘してきた「具合の悪いことは隠す/言及しない」というジェンダー社会学のやりかたそのもののように見えます。それでいいのでしょうか。私はよくないと思うのです。

おまけ → 中西祐子先生の『男女の進学格差はなぜ埋まらないのか』 (5) おまけ:ハキム先生の「選好理論」

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1 私は有能な女性たちにはぜひ社会で活躍してほしい。そういう教育をしているつもりです。

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