まあ進学の差がはっきりしている領域はあって、頻繁に指摘される女子はSTEM学部 (科学、テクノロジー、工学、数学)に進学しないっていうのはこれは問題がないですね。なんで女子はSTEM進学しないんですかね。(私はそれの大きな要因は女子の好みではないかと思っていますが、それは今回は置いときます)いわゆる教育での「ジェンダートラック」や「隠れたカリキュラム」があるっていう先生の指摘も、今回は認める。中高等教育の教員の男女比に偏りがあることも認める。ピアグループの圧力みたいなのも興味深い。こういうのは問題ありません。さすが専門家だ。
興味深かったのは、大学学歴の「経済的見返り」のところですね。これは家族経済学とか教育経済学とかにからむ非常に注目される話題だと思います。女子(男子も)が大学進学するとどんな(経済的)利益があるのだろうか、という問題ですね。
ここで大学進学の「収益率」という発想が出てくる。大学進学にかかる直接経費(授業料とか)と、4年間の放棄所得(大学いかずに働いてたら稼げたはずのお金)を足したものを「投資」と考える。そして、「大卒後就職で得られる所得」が、「仮に高卒で就職していたら得られた所得」を便益と考える。便益から投資を引いたもの(の割合)が「収益率」なわけですね。さあ、大学進学はどれくらいお得でしょうか。
非常に興味深い知見が紹介されています。
濱中淳子(2013)は、正規雇用でも、非正規雇用でも、女性が四年制大学を卒業することは所得にプラスの効果をもたらすことを指摘しています。また、その女性が既婚者であった場合、配偶者の所得に対しても四大卒の学歴はプラスの効果をもたらすということでした。つまり、働く女性に限ったデータではあれ、女性が四年制大学に進学するということが、自身の収入や、結婚後の世帯収入に対して利益を還元してくれるものであるということがここから言えるのです。(p.33)
これはおもしろいですね。大卒の方が給料のよい仕事につける。それだけでなく、大卒の方が高収入の男性と結婚できる、ということでしょう。これはありそう。キャサリン・ハキム先生は、2000年ごろの本で、けっこうな割合の女子にとって大学卒業は「持参金」のようなものだという指摘をしています(あとで紹介するかもしれない)。つまり、よい大学を出ていることは、高学歴・高収入の男性と結婚するための「資格」みたいなものになっているわけですね。
ここまでは問題ない。問題は次です。 → 中西祐子先生の『男女の進学格差はなぜ埋まらないのか』 (4) 結婚すると個人の収入が減るのは現状ではあたりまえでは?
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- 中西祐子先生の『男女の進学格差はなぜ埋まらないのか』 (4) 結婚すると女性の大学進学収益率が減るのは、配偶者たちの選好の結果でもあるのでは?
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