(3)に加筆したら、おそらくわかりにくい文章になってしまったので、(さらにわかりにくくしてしまうかもしれないけど)補遺を。
まずポルノの定義の問題。ポルノをどう定義するのかっていうのは本当にむずかしくて、ウェスト先生と田中先生が紹介しているものを私なりに紹介しなおすと、次のようになります。
- 「露骨な性表現」のように定義する(「読者・視聴者の性的興奮を目的にした」のような文言がつけ加えられることがあるのは、医学書なども露骨ですがそれはポルノではないと考えられるからです)
- 「わいせつな性表現」と定義する。伝統的な保守派が好んでました
- 「女性を差別するような/貶めるような露骨な性表現」のように定義する。ラジカルフェミニストの先生たちが好んだ定義です
1. のような定義は「記述的」な定義と呼ばれることがあります。記述的というのは、単に事実的な特徴だけに言及していて、(道徳的な)価値判断を含まない、という意味です。1.の意味でのポルノグラフィは、よくも悪くもありません。
これに対して、2.と3.の定義には道徳的な含みがあります(規範的定義であり、道徳化moralizeされた定義)。2で言われる「わいせつ」は道徳的に非難されるべきであり、また法的な禁止の根拠にもなりうるものです。そういう意味で道徳的。3.も「差別する」や「(女性を)貶める」といったことは(他に特段の理由がなければ)道徳的にたいへん不正なことであり、場合によっては法的な規制の根拠になるかもしれません。(道徳的な価値判断を法にどの程度反映させるべきかは難しい問題です。)
2の「猥褻な性表現」は基本的に悪いものなので(「猥褻」が悪いものだから)、「ポルノは悪い」(だから規制しよう)はほとんど当然の表現です。3の「女性を差別するような性表現」も女性を差別するのは悪いものなので、「ポルノは悪い」(だから規制しよう)もほぼ当然の表現です。この二つについては、「ポルノは悪いですか?」と尋ねるのはあんまり意味がない。しかし、1の意味の「露骨な性表現」はそれ自体は中立なので、「んじゃ露骨な性表現はなぜ悪いの?」と聞くことは十分意味があります。
んで、田中先生が「ポルノは修正第一条で保護されている」っていうのは、1の意味では偽であるわけです。児童ポルノやわいせつなポルノは、米国憲法で保護される言論ではないからです。だから先生はちゃんと自分がどの意味で「ポルノ」を使っているか明示する責任がある。
さて、うしろの方はそういうポルノの話ではなくなっていることを指摘しました。「「エロい/わいせつ」な表現」にいつのまにか置きかえられています。ここに「わいせつ」が入っていることは、3本目の記事で指摘しました。「わいせつ」は抜いて、「エロい表現」だけを考えることにします。ここで、田中先生は、中立的な意味でのポルノ(「露骨な性表現」)や(おそらく露骨でない)「エロい表現」はなぜ悪いのか、を説明しなければならない。それが「危害」の意味です。
もし、田中先生が、最初にフェミニスト的なポルノの定義を採用して、「女性を差別するような/貶めるような表現はぜんぶ「ポルノ」なのだ!」とやっていれば、ポルノが女性を差別するものであるのは当然です。そしてポルノは差別的なもののことだから、それはだから悪いねえ、と同意することができます。しかし先生は定義もしてないし、ポルノの話もしていない。単に「エロい」表現の話をしているだけです。
では「エロい」表現とはどういうものだろうか。どんなものがエロいのだろうか。そして「エロい」がわかったとしても、この「エロい」もおそらく中立的な言葉であって、それ自体はよくも悪くもない。そこで、悪いエロい表現とは、差別的なもの、攻撃的なもの、対象をモノ化しているものだ、ということを主張したいのだと思います。しかし私たちは、そうした差別的な、攻撃的な、モノ化するようなエロい表現を目にしているでしょうか。これが本当の問題なわけです。差別的・攻撃的な表現はよくない、というのはあたりまえです(モノ化的表現はもっと微妙です)。どんな表現がよろしくないのか、ということを論証する(あるいは示唆する)ことが必要なわけです。(そして、さらには差別的/攻撃的/モノ化するような表現であったとしても、それらをただちに規制するべきだということにもなりません。米国の修正第一条をめぐる議論はそこらへんで争われているわけです。)もちろん、たとえば「エロい表現とは女性の身体に好色な目を向けているようなものであり、それは多くの人(あるいは女性)にとって不快であるから悪いのだ」という議論は可能です。そのラインでがんばってみる手はある。(一部の不快なものを封じることは望ましいのか?という議論に進んでいきます)
あらー、全然わかりやすくならなかった。まあネットでの表現の自由は、『現代思想』の特集にあるようにとても難しいものです。みんなで議論していきたいですね。
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