卒論とただの文章の違い

卒論とか書いていると「ちゃんとした(学術)論文の形にしろ!」って教員から怒られるわけですが、学術論文とただのエッセイの違いはなんでしょうか。論文はすごいアイディアじゃなきゃだめだけどエッセイはそうでもない、みたいな感じでしょうか。ちがいます。 続きを読む

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卒論への道

心がまえ

  • 卒論は非常にたいへんです。
  • 2万文字(A4用紙で20枚弱)書くのは本当にたいへん。
  • ふつうの人にとって、これくらいの分量の文章を書くのは一生に一回です。がんばりましょう。
  • 卒論はたんなる感想文じゃない。ちゃんと他の研究者の論文・書籍を調べて書く。
  • まず戸田山和久『論文の教室』(NHK出版, 2002)を読む。

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あんまり専門分野がはっきりしてない学部の人のための卒論文献の探し方

専門分野がはっきりしているひと(たとえば「文学部哲学科倫理学専攻」みたいなひと)は、卒論でどんなこと書かなきゃなきゃならないかはっきりしているわけですが、なんか最近全国的に多い四文字学部とかカタカナ入ってるような学部の人は卒論なに書いたらいいかよくわからんのではないかと思います。まあネタを決めるのが一番だいじですわね。 続きを読む

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卒論を書くとどんないいことがあるか

  • EXCELの図表をWORDにコピペできるようになるかも。
  • JPEG画像をWORDに貼って文字をまわりこませられるようになるかも。
  • WORDでページ番号つけられるようになるかも*1
  • WORDで目次を自動生成できるかも*2
  • 「」『』の使い方がわかるかも。
  • 「てにをは」ぐらいはちゃんとした文章が書けるようになるかも。
  • いつもは穏やかな先生が怒るのを見れるかも。
  • いろんな人から助けてもらうわざを身につけられるかも。
  • うそをつくのは苦しいことがわかるかも。
  • こたつとみかんの重要性がわかるかも*3
  • たまには誉めてもらえるかも*4
  • だめな文章がわかるようになるかも*5
  • なんか問題を発見することができるようになるかもしれない*6
  • なんか与えられた課題をとにかく形だけこなすことができるようになるかもしれない*7
  • はじめて「だ・である」で文章を書くという経験を得るかも*8
  • まじめにやろうとするほど苦しむのはなぜだと世界を呪えるようになるかも。
  • コピーのとりかたがわかるかも。
  • ノートがとれるようになるかも。
  • ファイルを整理できるようになるかも*9
  • ホチキスでとめたり、バインダーに挟んだり、簡易製本したりできるようになるかも*10
  • 運がよければ本が読めるようになるかもしれない*11
  • 計画立てられるようになるかも。
  • 見出しをゴチックにすることができるようになるかも*12
  • 作業リストを作れるようになるかも。
  • 自分がなにもちゃんとした教育を受けてないことがわかって教師が憎くなるかも*13
  • 自分がなんもわかってなかったことがわかるかもしれない*14
  • 自分の「くみ・なまえ・ばんごう」は忘れずに書けるようになるかも。
  • 自分はなにもできないことがわかるかも*15
  • 世界には真理なんてものはないかもしれず、少なくとも人間なんてものは本当のことを知らないってわかるかも。
  • 知ったかぶりはテクニックが必要なことがわかるかも*16
  • 締切を守ることはなにより大切だとわかるかも*17
  • 締切をまもれなかったときの対策ができるようになるかも*18
  • 途方にくれるという快楽を味わえるようになるかも*19
  • 日本語は段落の先頭は一文字ぐらい落とすものだとわかるかも*20
  • 付箋の貼り方がわかるかも*21
  • 文書の体裁が統一されてないひと、誤植が多い人はたいてい頭も悪いことがわかるかも*22
  • 本にマーカーで印つけられるようになるかも*23
  • 本に書いてあることはけっこうでたらめ、テレビも新聞も授業もでたらめだらけってことがわかるかも*24
  • 本は自分で買うものだとわかるかも*25
  • 卒論書くより就職活動の方が勉強になるとか思ったりするかも。

*1:これはWORDがだめなんですよね。

*2:実はなんか使いにくいんですよね。

*3:私はタバコとコーヒーとビールですけどね。

*4:大学ってのは誉められもしなきゃ怒られもしないとこだよね。

*5:だめな文章をお手本にするとますますだめになるんですよね。

*6:最初は簡単なことで答ははっきりしていると思ってたのにね。

*7:これが一番だいじかもね。

*8:「であるのである」が微笑ましいです。

*9:わたしはまだできません。

*10:簡易製本機は研究室にあります。

*11:読めないまま卒業させちゃってごめんなさい。

*12:WORDの「スタイル」ね。

*13:ごめんなさい。

*14:けっこう自分に自信があるひとが多いのはよいことかもなあ。自信をなくすような教育するのはネガティブすぎてだめですね。

*15:ごめんなさい。会社の研修で鍛えてもらてください。

*16:女子は男子よりハッタリやシッタカしない傾向があるようですが、時には背伸びしてもいいですよ。

*17:意外に皆堅くて安心しました。

*18:こういうことを教えてはいかんですよね。

*19:でもなんとかなるのです。

*20:WORDのテンプレート渡しておけばよかったですね。

*21:3Mの透明のやついいですね。

*22:このブログとかね。

*23:私は伝統的な赤鉛筆ですけどね。

*24:困りますね。

*25:もちろん図書館大事ですけどね。

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凡才学部学生必読文献・卒論への道

哲学・思想関係の卒論指導をしたことはないんだけど、どうなんかな。こっちは特に凡才・非エリート・スロウラーナー向けに考え中。秀才やエリートはあっち行け。

  • 読書量多いにこしたことはないだろう。でもなんでも読むのは無理だよね。時間は限られているから、いろいろ考えないとね。
  • まず山形浩生先生の『新教養主義宣言 (河出文庫)』と小谷野敦先生の『バカのための読書術 (ちくま新書)』を読んで教養にたいするあこがれを身につける。
  • 野矢茂樹先生の『新版 論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)』をやって悪文やへんな文章を読む力をつける。読むだけじゃなくて実際に問題を解く。2ヶ月ぐらいかかるか。『101題』もやってみよう。
  • まともな記号論理学の本も一冊やりたい。命題論理だけでも十分だけど、できれば完全性定理まで。ちゃんと自分で問題を解く。頭悪いと一問解くのに一晩かかったりすることもある。でもそれを学部生のうちに一人でできるようなら、もうそれだけで研究者になる素質は十分。君は凡才ではないので以下読む必要はない。少人数の授業に出ること。
  • 中公世界の名著(と中公クラシックス)と岩波文庫、ちくま学芸文庫、講談社学術文庫は安いので少しずつ揃える。でも学部生レベルでは一人で読んでも理解できないことが多い。
  • よい哲学入門書がないのが問題。おすすめできるのは、今発刊中の中公の『哲学の歴史』ぐらいじゃないのかな。ちょっとまえの岩波の『哲学講座』とかなのかな。九鬼先生の『西洋近世哲学史稿』とか山崎正一先生の『西洋近世哲学史』とかってのは古すぎるだろう [1] … Continue reading 。ある大学では、CoplestonのHistory of Philosophy[2]isbn:0826469485 とか。いまだに読まれてるのね。 を全部読めたら大学院は通るとかっていわれてたけど、いまどきそんな勉強する必要はないはず。
  • 自分で買うのは無理だろうから、図書館を有効に利用しよう!
  • やっぱり英語になっちゃうけど、Oxford University PressのA Companion to ~シリーズがなにをやるにしても非常によい。BlackwellのBlackwell Guide to ~も。大陸系やるときも読んどいた方がよい。
  • 学部生のうちに学会や(おじさんたちの)研究会に出てもあんまり得るとこはないのはほんとう。自分から質問できないところに行っても意味がない。でも読書会はやること。
    院生をつかまえて教えてもらう。院生は院生どうしで勉強するだけじゃなく、やる気のある学部生とも勉強するのが義務。テキストは上のCompanionシリーズとか、これまたOxford University PressのA Very Short Introductionシリーズとか。一人で勉強するとまちがった思いこみを直してもらうことができない。非常に危険。耳学問も大事だし。

  • まあ卒論は(1)誰もが認める偉い哲学者の1冊の本を選んでちゃんと隅から隅までじっくり読み、(2)超有名な二次文献を何本か読みその偉い哲学者の議論の功績と問題点を把握し、(3)その二次文献についての三次文献を何本か読み、(4)それをまとめる、ってので凡才ならば十分すぎると思う。ふつうはそこまでいかない。学問の道は長いよ。どれが超有名な二次文献かは、先生か大学院生に尋ねる。
  • 読書ノートは非常に重要。文献リストも重要。でも本当にどう作ればいいのかはそれぞれの企業秘密なので教えてもらえないかも[3]これ興味があるので優秀で生産力の高い人によく質問するんだけど、たいていはぐらかされちゃう。これも信頼できる先生や大学院生と仲良くなって酒飲むしかない。だから酒飲みは重要。
  • ふつうの大学に通っている人は、卒論レベルでは原典読むことができないと思う。語学はがんばろう。いきなり偉い哲学者を原典で読もうとしてもいろいろたいへんなので、やっぱりCompanionレベルの入門書を訳したりするところからはじめる。大学院生にチェックしてもらうこと。少なくとも英語だけはなんとかがんばろう。現在のふつうの大学教育では独仏語を読みこなせるようにはならんと思う。1ページ読むのに一晩かかったりするのもふつう。でもやっぱりがんばる価値はあるぞ。
  • 正直いって英語圏の哲学者の方が勉強しやすいし卒論書きやすいと思うけど、そういうことを考えて勉強をはじめるのはなんだかケツの穴が小さい。卒論書くのは一生に一回、好きなのやるべし。マイナーな思想家もいろいろおもしろいだろう。
  • 卒論用の勉強をはじめたときに、だいたいこうだろうと思いこんでたことと、できあがった卒論の結論がまったく違ってたら卒論執筆は大成功。そんな簡単じゃなかったことがわかればとにかく成功。最初に思ってたことを結論に書いちゃったらおそらく失敗。
  • 新書系はいろいろ読みたい。おそらく偉いのはNHKブックス = 中公新書 > 岩波新書 = 講談社現代新書 > ちくま = PHP > その他なのかな。後に行くにしたがって、より注意が必要になる。でもまあ新書系はつねにいろいろ注意しておくべし。読みおわったら、amazonその他の書評サイトもチェックしてみること。いちいち買ってるとおこづかいがなくなるので図書館で。
  • いわゆる理系の本もいろいろ読みたい。物理学、生物学、心理学など。でも哲学思想に比べて進歩がとてつもなく早いので、古めの新書とかは読む価値はあんまりない。生物学や心理学、言語学あたりだと、20年前の本は読む必要がないし、つねに新しいのを追っかけておかないと恥ずかしい思いをすることになる。ピンカーは「哲学やるやつはいろんな他分野の動向に関心もたないと哲学者じゃないよ」とかってこと書いてたような気がする。
  • 知ったかぶり野郎たちに注意。読書会で戦うべし。
  • 「これも知らないの?」とかっていう学問的恫喝に負けないこと。国内でそんなに勉強できる人は滅多にいない。経験的にそういう恫喝をしかけてくるひとにまともな人は少ないと思う。もちろんほんとうに賢い人もいるので、そういう人とは親しくおつきあいしてもらうこと。
  • 何度も書くけど、凡才は一人では勉強できない。無理に一人で勉強しようとするととんでもない間違いに気づかないことが多い。もちろん自分が凡才でないと思っている人は別。
  • 狭いグループに閉じ込もらないこと。流派が違う人とは話しにくいけど、なるべく機会を得るように努力ぐらいすること。
  • ソクラテス対話篇とデカルトの『方法序説』『省察』、ヒュームの『人間知性研究』だけは早めに読みましょう。
  • たとえば『純粋理性批判』を選んじゃうと、とにかく読むだけで1年以上かかる。学問の道は長い。
  • 1、2回生向けの授業ってのは教員が手を抜いてるからあんまり価値がない。3、4回生のときに院生が出てくる授業で勉強するのがコツ。1、2回生のうちはいろいろな人とつきあったり広い分野の本を読んだりして、視野を広げておくこと。
  • わかってないのにわかったフリしないこと。哲学や思想は難しいのでわからないことだらけ。
  • 自分が学問としてまじめに哲学や思想やりたいのか、文学や文芸批評のようなものをやりたいのか、あるいは広い意味の物書きになりたいのかとかってことは一度考えてみること。文学もいいもんだよ。あと狭い意味の哲学やるってことは、なんか思考を強制されているような感覚があって不愉快なもので、なにかを失う感覚をともなうってのを知ってほしい。「ほんとはこう考えたいのに、こう考えざるをえない」ね。これいやな人は哲学やらないほうがいいかもしれない。あと、わりとはっきり「できる・できない」がわかっちゃう業界なので、凡人は劣等感に悩まされることが多い。批判してなんぼ、批判されてなんぼ、お互いに批判してなんぼの商売だ。
  • 「良書を読む秘訣は、悪書を読まないことである」らしい。
  • 自分の関心に応じた雑多な読書はほんとうに大事で、哲学思想の他にどういうものを読んでいるかで勝負が決まるところがあると思う。「売り」として、どうしても他の研究者とちょっと違った精神生活を営むことが生き残りに必要で[4]あまりにも他人と違う精神生活を営むと電波扱いされるし、生活にも不便だろう。、これはもうほんとに自分のセンスで行くしかない。私は平凡なので売るべきものがない。こういう「必読文献」とか真に受ける人もいろいろ考えた方がよいかも(私はこういう「必読」とか「教養」とかハウツーものとか好きなんだけど、こういうのがまさに平凡な人間の証拠だってことだけは理解しておく必要がある)。
  • 本読むのが嫌いだとか義務だとか思うひとは、ほんとに研究とか志しちゃって貧乏院生~窮乏OD生活して平気なのかどうか考えなおした方がよいと思う。それは悲惨です。
  • ほんとに一流になりたいひとは、外国で何年もかかってPhDとったりしなきゃならんので、家族生活なんかについても考えなきゃならんようになる。学部生のうちは、国内ではボーイフレンド・ガールフレンドは作らん方がよいのではないか、なんちゃって。
  • 補足。電子辞書は非常に優秀なので、常に携帯して分からない日本語があったらすぐに引くように。学部1,2回生でこの癖をつけられるかどうかでいろいろ違ってくる。国語辞書持ち歩くのは物理的に無理だろうし、広辞苑なんかを常に机に置いとくのも普通無理だろうから。引かないよりはすぐに引いた方がずっとよい。ぜひ買ってください。ただし広辞苑は歴史的順番で並んでいるのでオススメしない。あと読み方さえ分からない漢字を見つけたら、漢和がすぐに引けるようにしてくこと。外国語については電子辞書はたしかにやめた方がいいねえ。
  • 哲学思想系ではwikipediaその他、web上の情報はまったく役に立たないからね。
  • うーん、これは私が偉そうに書くべき内容じゃなかったな。まあスロウラーナーがスロウラーナーなりに生きていこうとするときに、こういう考え方もあるって程度でゆるしてちょ。
  • これは学部学生・卒論の話じゃなくて修士・修論の話なのではないかという意味の突っ込みあり。そうかも。でもみんながんばってね。だいたいどんな分野でも20,000時間有効に使うと一丁前になるらしいです。私がまだ生きているうちにいろんな成果を見せてください。

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1あと波多野精一先生の『西洋哲学史要』本棚から発掘してめくってみたけど、もうこういうものであらましだけを勉強する時代じゃないね。そういう時代は遠くなった。
2isbn:0826469485 とか。いまだに読まれてるのね。
3これ興味があるので優秀で生産力の高い人によく質問するんだけど、たいていはぐらかされちゃう
4あまりにも他人と違う精神生活を営むと電波扱いされるし、生活にも不便だろう。