現代社会学部学生にとっての問題
現代社会学部はいわゆる「学際的」な学部を目指しているので、卒論のテーマをどうやって見つけるかってのが他の学部より難しいようです。
まあ「学際的」ってのは「なんでもあり」で、よく言えばなんでもできるけど悪く言えば選択の幅が広すぎて焦点定めるのが難しいってことでもあります。
たとえば文学部国文科なら源氏だの古今だの歎異抄だの、まあそういう古典作品を研究するぞとか、国史だったらとりあえず中世の政治史やるとか近世の農村史やるとかまあある程度はっきりしているわけです。
でも現代社会学部では、(おそらく一応)現代社会の現象ならなんでも OKということになっているし、2回生までの蓄積も若干ばらばらの断片的知識の寄せ集めという感じになってしまっているのでかなり困難。基本となる学問的基盤があやふやなところがあるので、さらに問題は深い。
これは現代社会学部の教育方針の問題です。よいところもあれば悪いところもあるのはしょうがない。逆に悪いところもあるけどよいところもある。
江口自身あんまり専門性がはっきりしていない人間なので、学生に積極的にテーマを与えるという気にもなれず困ってしまいます。
基本は自分の興味関心から
まあやっぱり、「自分の興味関心にしたがってテーマを探してください。」ということになってしまうわけですが、そりゃ誰でもいろいろ興味関心はありますが、それをどうやって「研究」とかってものに結びつけるかがよくわからんですよね。わたしもよくわかりません。
まあいろいろ相談ですな。
まったくなにをすりゃいいのかわからん
- 困りますね。
- とりあえず文芸春秋社の『日本の論点』を読んで興味あるところを読んでみればどうでしょう。とりあえずテレビとかで討論しているテーマがわかります。
- 図書館の新書の棚でタイトルを見てピンを来たのを読んでみるとか。
- とにかく基本は図書館だな。大学生になって図書館に行ったことないなんてことはないですね?
- 一冊もってくればそこから話を進めることができます。
対象を狭める
「恋愛について興味がある」とか言われても広すぎて研究できないので、もっと詳しくしていかなきゃならん。
恋愛のなにに興味があるのか。
- デートのときに男女はどうふるまっているのか→なんか仮説立てて質的調査?
- どっちがどれくらいお金をつかっているのか→なんか仮説立てて量的調査?
- 気のある男の子とデートするときとそうじゃない男の子とデートするとき、女の子の態度はどう違うか。→ 調査してみる?
- デート前に女の子はどういう準備をするか→これも調査
- 何回目のデートで手をにぎったりキスしたりセックスするのか、→アンケートがよさそう。
- 人気のデートコースはどこか→アンケートだな。現地調査もあるか。
- デートレイプはどの程度起こっているのか→いろいろ難しい
- 二股かけている人間はどれくらいいるのか。二股はなぜいかんと言われるのか。→一部倫理学だな。
- なぜ人間は異性に魅かれるのか。男女のあいだに差があるか。→心理学?生物学?
とかいろいろ考えていくと方向が決まってきます。でもそのためにはいろいろ本を読んでみないと。
とにかく、書くべき焦点をどの程度狭くすることができるか、ってので出来不出来が決まります。
研究手法
現代社会学部の教員は非常に多彩なので、研究の手法もさまざまになってしまっ
ています。
私の専門は哲学なので、やっぱり文献調査と概念的分析、倫理学的関心からの
規範の記述とその批判のようなものしかできないわけですが、まあ卒論では好
きにやってください。
おそらく現代社会学部の標準的な学生が手にしている手法は、
- 量的社会調査(アンケートと統計)
- 質的社会調査(インタビューとその傾向分析)
- 文化の歴史的研究(歴史的(主として近現代の文献調査)
- テキスト分析、たとえばジェンダー批評。
- テキスト読解。著名な理論家・思想家の著作を読み、その一部を正確に理解する。
- いくつかの理論社会学的概念を使った社会関係理解。
ぐらいだと思います。まあ3回生から勉強してもまだまだいろいろ手に入れることはできます。
ゴールはどこにある?
どこまでできればゴールにすればよいのかってのも難しい。これはどういう研
究手法をとるのかと密接に関係しています。
- アンケートと統計ならば、まあある仮説にしたがって、あるグループが他のグループとどういう点で違いがあるか言えればいいかな。社会の構造のようなものをかいま見ることができればよい。
- 質的調査をするのであれば、生身の人間がどう生きているのかの一部をかいま見れば。
- 史的研究をするのであれば、ある概念や現象がどう発展しているのかを理解できれば。
- テキスト分析ならば、うーん、こういう切り方をするとこういうテキストはこう分析されるだろう、とか、かなあ。
- その他いろいろあるな。でも卒論ではそんなに斬新な結論を得ることを目的とするよりは、どこに問題があるのか、なにが問題なのかが理解できれば十分であるとも思います。
実例
しょうがないので、これまで私が指導した学生さんたちがどういうふうにしてテーマを決めていったのかを思いだしてみます。
ニーチェな人
- 高校の倫理で名前を聞いた「ニーチェ」とか「キルケゴール」とか、せっかく大学入ったんだから一回は勉強したい。
- んじゃとりあえず読んでみないとね。でもニーチェは難しいです。
- 「狂気」に興味あるんですが。
- ニーチェはたしかに狂人になってしまったけど、とくに狂気について考え
たひとではないです。伝記的な研究はおすすめしないです。 - どうしましょう。
- とりあえず入門書読んでみたらどうですか?
- 「ルサンチマン」ってのがおもしろそうでした。
- んじゃ『道徳の系譜学』とか。
- 読んでみたけど、難しくて読みきれません。
10. とりあえず「ルサンチマン」のところだけでも理解したらどうですか。道徳なんてのは弱い奴が強い奴に対する反感から捏造したものだ、とかそういう話。
11. ひとりじゃ読めません。
12. んじゃしょうがないのでつきあうから、ちょっとづつ読みなさい。
仮面ライダーなひと
- 「仮面ライダー龍騎」が好きだ。なぜおもしろいのか考えたい。
- 魅力はどこにあるの?
- それぞれの登場人物がそれぞれの正しさを主張しているんですよね。その対立が萌え。
- んじゃ、キャラクター分析からはじめたら?
- ごちゃごちゃ
- ごちゃごちゃしていてダメですね。どのキャラが一番好きなんですか?
- 仮面ライダー王蛇!
- んじゃ、そのひとのどこが魅力なのか考えてみたら?
- んー、悪だから。
10. んじゃそこらへんを中心にしてまとめていきましょう。
アスペルガーな人
- アスペルガー症候群が気になる。
- ふむふむ。でも精神医学とかちゃんと勉強しているわけじゃないからその障害だけでは扱えないよね。
- 学校教育の現場とからめれば。最近いろいろ対策しようということになってるんですよ。
- それはいいねえ。それでいきましょう。アスペについての知識と、学校制度についての知識の両方が必要ですね。
文学における唯美主義のひと
- 小説書くのが好きなので。
- 小説を卒業制作にしちゃう?
- それはちょっと。
- どういう傾向のものが好きなの?
- 美しいもの。
- うーん、具体的には?
- 鏡花とか谷崎とか。
- んじゃ、そこらへん分析してみよや。好きなのは?
- 「刺青」。
10. んじゃがんばりましょう。どこに美を感じるかぐらいで。内容なの?文体とかなの?文体の特徴はどこにあるの?
FGMのひと
- 昔の授業でFGMのこと聞いたんで。
- どうぞ。文献集めましょう。「なくそう」って人が多いけど、「文化を尊重しよう」て人たちにも気をつけ
て。
代理母のひと
- 生殖技術について
- 広すぎ。いろいろあるから。なんにする?
- んじゃ代理母で。
- それはずいぶん議論されて文献も多いので勉強しやすいです。
道徳教育指導要領のひと
- 子どもをどう育てるかとか。
- 話が大きすぎるよ。
- 教育実習とかともからめて。
- んじゃ学校での道徳教育がどうおこなわれているか、どう行なわれているかの話にしたら?
- 文科省の指導がどう変遷しているかでいいですか。
- ふむ、いいんじゃないの?
セックスワークのひと
- 売春の話とか。
- 売春はなぜ悪かとか、売春の歴史とか、現代社会での売春の実態とかいろいろあるけど。
- 一番最初ので。
- 道徳と法の話とかかなあ。10年ぐらい前の「性の自己決定」の話とかだね。
- はあ。
- あとJ. S. ミルの『自由論』は絶対に読んでおくこと。他にもいろいろ読む本はあるなあ。
- はあ。売春している人を応援する話はないですか?
- 「セックスワーク論」とか。
- そこらへんで。
やおいの人
- やおいはなぜおもいろいのかとか。
- まあんじゃやおいの紹介しないとね。
- それからどうしましょう。
- なぜ婦女子はやおいが好きかっていう分析はけっこうあるから、そこの本を集めて並べて検討してみたら?
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