セックス経済論 (1)「男性による女性の支配」とは別の考え方はどうだろう

このブログ、ここ最近「文化のセクシャル化/セクシー化」の話と、「男らしさと支配」の話を平行してつぶやいてるのですが(もうブログもツイッタも同じようなもの)、「男性が女性を支配しているのだ」っていう信念は非常に一般的ですが、他の考え方ないっすかね。私どうもこの「支配」ってやつ信じられなくて。

まあこの「男が支配している」っていうのはフェミニズムの伝統的な考え方で、その発想はわかります。ある意味女性の実感なんだろうし、伝統的な社会・文化の多くが男の方が偉くて支配的な地位を占めてることが多い。お金も稼ぐのは男性で、女性はその経済力と社会的権力に支配されているのだ!

そしてこれって、ジェンダー問題について社会構築主義フェミニストたちと対立する立場に立つことが多い進化心理学とかの派閥の人もそう考えるんですよね。こっちの派閥は、主にいわゆる「父性の不確実性」を問題のキーポイントだと考える。女性は自分の子供の母親なのは(産院でとりちがえられたりしないかぎり)ほぼまちがいがないけど、父親の方は本当に遺伝的な父親かどうかよくわからない。人間の子供は養育に非常に大きなコストがかかり、現代はともかく、人間が進化してきた歴史のなかでは、父親の協力がないとうまく生存成長させるのが難しい。他の男の子供を自分の子供だと思って養育コストを支払うのは巨大な損失なので、進化的に男性は配偶者を他の男性から防衛するために、女性の貞操を重視し、活動を制限するなどして女性を支配するような心理的傾向を進化させてきたのだ、それが現在でも男性が女性に対して支配的にふるまう原因になっている、てことになってる。

まあどっちもそれなりに説得力がある。しかし現代の社会でもそんなかっちりした支配従属関係になってるかな?って思うわけです。むしろ、現代社会のありかたについて、女性の主体性とかそういうのをもっと重視する立場もありそうに思います。

一つは何度か紹介している、社会学者のキャサリン・ハキム先生の「選好論」と「エロティックキャピタル論」ですね。(あら、紹介していると思ったんだけどたいして言及してないわ)

この本はおもしろいので、ぜひ図書館で一回手にとってみてほしいですね。

ごく簡単にすれば、社会のなかで、人々は経済資本(お金)、人的資本(知的能力、学歴、職歴、教養など)、社会関係資本(人間関係、縁故、コネ)などを蓄積したり相続したりして、それを元手に自分の福利厚生を改善しようとしているわけですが、実は現代社会ではお金や学歴や縁故に加えて、容姿や他の魅力、特に性的な魅力が重要な資本になっている、っていう議論ですね。そして、性的な魅力は一般に女性の方が豊かにもっていてそれを自由に使える時代になっている。一方男性は慢性的な性的欲求不満状態(sexual deficit)になっているので、女性が自分たちの性的な魅力を磨きうまくつかうことができれば、男性を支配できるし、実際そうしている女性はけっこういる、みたいな話です。

ハキム先生によく似た議論を展開して今私が注目しているのが、ちょっと前のエントリに名前を出した社会心理学者のロイ・バウマイスター先生で、この人は日本では「意志力」の本で有名ですが、2000年代はジェンダーまわりでも仲間とともに論文やエッセイをいろいろ書いてるんですね。先生は自分の理論を「セックス経済論」Sexual Economics Theoryと名づけています。これはごくごくシンプルな議論で、ネットで「アンチフェミニスト」と呼ばれてる人々がときどき展開している議論とあんまり違いがない。基本的には、経済学とかでもちいられる「市場における需要と供給」を単純にセックス・ジェンダー問題に適用しているだけです。集団としての男女の間にはセックスに対する欲求に大きな差があり、女性がセックスの供給者・売り手であり、男性が消費者・買い手になっている、というそれだけの話です。ものすごいシンプルで、フェミニストの先生たちからかなり辛辣に批評されているようです。まあ社会心理学でものすごく偉くなった先生が、おじいさんになってから勝手な放談しているのかもしれないけど、そうでもないのかもしれない。

この本は2010年のエッセイですが、「セックス経済論」とか言いだしたのは2000年代前半で、2010年代にも続けて書いてますね。2012年のが読みやすいけど、2004年の方が包括的な感じ。どっちもネットで入手できるので興味あるひとはぜひ読んでみてください。(あら、論文の発行年勘違いしてました。すみませんすみません)

時間があったら、もう一本、読書メモみたいなエントリ上げたいと思います。

この本も関係ある。

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