しかし、イギリスの広告基準協会は、さきに触れた、協会の原則・綱領での「有害なステレオタイプ表現」規制の他に、組織の「執行部アドバイス」として児童を使った
ハフィントンポスト「「月曜日のたわわ」全面広告を日経新聞が掲載。専門家が指摘する3つの問題点とは?」 https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_624f8d37e4b066ecde03f5b7
広告基準協会の綱領の「ジェンダーステレオタイプ」を参照して「たわわ」広告を非難するのはちょっと難しいかもしれないのですが、しかしこの基準はいろいろ見るべきところがある。
治部先生が上のハフポスト記事で参照していたのは4.9なのですが、その大前提としての4.1に目をやるべきかもしれません。
Marketing communications must not contain anything that is likely to cause serious or widespread offence. Particular care must be taken to avoid causing offence on the grounds of: age; disability; gender; gender reassignment; marriage and civil partnership; pregnancy and maternity; race; religion or belief; sex; and sexual orientation. Compliance will be judged on the context, medium, audience, product and prevailing standards.
広告は、深刻な、あるいは広範な不快をもたらすようなものを含んではならない。年齢、各種障害、ジェンダー、ジェンダー適合術、婚姻、パートナーシップ、妊娠出産、人種、宗教や信条、性、性的志向などについては特に配慮しなければならない。違反の有無はその広告のコンテクスト、メディア、読者視聴者、製品、そしてその時代の基準によって判断される。
広告基準協会は広告を停止させる権限をもっているらしく、違反があった場合にそれぞれ審査するわけですよね。ある広告について寄せられた害悪や不快さに関する苦情に対応するための原則がこれなのだと思います。とにかく みんながすごく不快 に思うような広告はやめろ!と言っているわけです。たわわ広告がそういうものだったか、というのはおそらく微妙なところですね。
次の文は解釈が難しい。
Marketing communications may be distasteful without necessarily breaching this rule. Marketers are urged to consider public sensitivities before using potentially offensive material.
広告はこのルールに反していなくても一部の人の趣味にあわないことがある。市場関係者は、潜在的に不快をもたらすかもしれない素材を使用する前に、公衆の感受性を考慮すべきである。
まわりくどい表現をしているのですが、私の解釈では、一部の人にとって趣味にあわない distasteful っていうだけでは、必ずしもルール違反になりませんよ、それを禁止はしませんよ、といっている。もっとも、協会としては広告に対する苦情は望ましくないので、よく燃えるような題材素材を使うまえに「よく考えろ」と言っている。
そして、
The fact that a product is offensive to some people is not grounds for finding a marketing communication in breach of the Code.
ある製品が一部の人々にとって不快であるということから、広告がこの綱領に違反しているということにはならない
ということらしいです。これはつまり、たとえばコンドームという製品が存在していることが不快だと思うひとがいるとしても、コンドーム広告もひどく不快だからこの広告の基準に反していることにはなららない、コンドームの広告は出してもよい、ということだと思います。『月曜日のたわわ』という 作品 が一部の人に不快であるからといって、その広告がこの綱領に反しているということにはならない、ということですね。
ここらへん、offensiveとdistastefulとかの区別も重要なんでしょうが、今回はパス。
しかし、治部先生たちが頼るのは他にもある。そしてそっちの方がいい。まだ続きます。
- 『月曜日のたわわ』広告問題(1) 見たくないものを見ない権利/ジェンダー平等を語る偽善
- 『月曜日のたわわ』広告問題(2) 性的虐待?
- 『月曜日のたわわ』広告問題(3) イギリス広告基準協会のガイドライン
- 『月曜日のたわわ』広告問題(4) どこが有害なステレオタイプか
- 『月曜日のたわわ』広告問題(5) 製品と広告
- 『月曜日のたわわ』広告問題(6) 児童を性的な文脈で使うことは許されません
- 『月曜日のたわわ』広告問題(7) モノ化・セクシー化も許されません
- 『月曜日のたわわ』広告問題(8) アンステレオタイプアライアンス(反ステレオタイプ同盟)と多元的なパーソナリティ
- 『月曜日のたわわ』広告問題(9) ふたたび広告と製品、そして多様な表現文化
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