まだまだ「ミードの表」

粘着している「ミードの表」問題。

村田孝次先生の『教養の心理学』四訂版、培風館、1987を入手。初版1975年、改訂版1979年。村田孝次先生は奈良女の先生だった模様。発達心理学が専門かな。てっきり村田先生は文化人類学者だと思っていたけど。毎年教科書に使われているのか98年には第17刷。タイトル通り、大学1、2回生向けの教養授業で使うような薄いテキスト。発達、学習、情緒、知覚、思考と言語、知能、パーソナリティと、まあコンパクトななかに70年代くらいまでの心理学の研究成果が要領よくまとめられていて、よい教科書なのではないかと思う。信用できる学者に見える。図書館に大量にあったので、一時期定番のテキストだったのかもしれない。村田先生は1918年生まれ。ご存命だろうか。それにしてもこの手の教科書からミードを引用するってのは勇気が要るよなあ。井上知子先生も専門は心理学なので、まあ村田先生のテキストを見る機会があったのは
わかるけどね。

本文でのミードに対する言及はほんの10行程度。問題の表の解説程度。興味深いのはそのすぐあとの記述。

もっとも、こうした性による役割の分化は、多くの社会において男女の身体的・生理的な差異にもとづいているので、文化的要因によって変動しうる限界が一般に考えらえ、このような限界に若干のバラエティがあるというべきであろう。(p.186)

とか。

先生は一応ミード流の文化人類学の知見を紹介しておいたが、若干批判的な立場に立ちたいと思っていたのかもしれない。そしてすぐにH. Barry, M.K. Bacon and I. L. ChildのA Cross -cultural Survey of some sex differences in socializaion. Journal of Abnormal and Social Psychology, 55, 32-332 をひきあいに出して、児童の性差は文化共通かもしれないという表を提出している。でもこの研究はちょっと問題がありそうだ。

問題の表はp.187。内容は井上知子先生のものとまったく同一。表番号が変わっているだけ。原稿を村田先生からもらったか、貼りつけたのだろう。出典は、巻末の「図・表出典』にある。

Mead, M. 1935 Sex and temperament in three primitive socieitis. Morrow.

ふむ、ぴったり。このリストの最初に

ここには、本書に引用した図・表の掲載された原著をリストしてある。なおそれぞれの図・表にある著者名、掲載年のつぎに、〈より〉とあるのは、原著に若干手を加えたか、原著の記載をもとにして図ないし表を作ったことを意味する。

とある。ミードの表には〈より〉はないので、おそらくこれとほぼ同一のものがSex and Temperamentに載っているのだろう。図書館にないので注文したが、紀伊国屋なのでしばらく時間がかかる。ヒマつぶしのために2000円ちょっと使ってしまうわけだが、まあ行きがかり上しかたがない。他の学者さまをインチキ呼ばわりしているわけだしそれくらいの責任はありそうだ。

まあこの村田先生の本の中心的な部分は、50-60年代のもの。やはり学者は中年までに勉強した財産で残りの学者人生食っていくことになるのだと思う。しょうがない。

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