まあんじゃ、私が見ている英米系の応用哲学・倫理学での不倫とかの議論はどうなってんのか、とかって話もいきがかり上書かないとならんですね。
「不倫はなぜ不道徳か(1)」 でぼちぼち書いたぐらいでたいしたのはないんだけど、不倫賛成派を紹介するの忘れてたですね。あれ、書かなかったかな。
1982年にRichard Taylor先生がHaving Love Affairって本出してんですよね。この本はずいぶん売れたみたい。90年代になってもLove Affairっていうタイトルに直して版を改めてます。テイラー先生は形而上学とかですでに有名になってた哲学者だったからかもしれない。倫理学でいうと1970年のGood and Evilっていう本もけっこう有名で、そんなすごい本だとは思えないけどけっこう引用される。シジフォスの話とかが有名。なんていうか、セックス革命のあと、1970〜80年ごろのコロンビア大学、まだセクハラとかって言葉がない時代の有名大学教授、とかもう学生様とあれなんじゃないすかね。いかんです。
まあLove Affairの議論の基本的なラインは、愛は最高の善であり、愛に基づいた婚外セックスは内在的には善だ、みたいな。
非合法で情熱的な愛の喜びは、たんなるセックスの喜びを遥かに越えるものであって、比較不可能なほどよいものである。婚外情事を経験したことのない人、長年の傷ひとつないモノガミーを自慢する人は、実際にはなにかを見失っているのだ。
みたいなこと書いちゃう。すごいっすね。まあたしかに「私は結婚してこの方、まったく他に女性には目もくれませんでした」みたいな人にはなにか欠落しているかもしれない、という不安はありますねえ。
もちろん、結婚生活は安心や安定、協力、愛情、ケアその他さまざまな善を提供してくれるわけですが、不倫・情事は、刺激や興奮、愛情、承認、自己評価の向上などなどを与えてくれる、と。まあ「俺って/私ってまだイケてる!」とかそういう感じを与えてくれるわけですな。各種の社会的非難や制裁の危険を冒すことを覚悟した人から熱烈に愛されることは喜ばしいことであり、活気づけてくれるものだ、みたいな。これはかっこいいです。
まあおそらく中年とかになって「俺ってだめだよな」とかだめだめになってるときにそんでも「素敵よ」とか言ってもらえたらそりゃ自信もつくってもんだでしょうしねえ。仕事もうまくいくようになるかもしれない。女性もそうだと思いますね。人生には恋とスリルが必要なのだ、みたいな。
しかし当然結婚していながら恋愛するってのはやばいわけですが、それってけっきょくは嫉妬の問題だろう、というのがテイラー先生の見立てなわけです。嫉妬というのは非常に邪悪な感情で、それがどっから来るかっていうと結婚相手を自分の所有物、「自分のもの」だと思うとっからくる。「妻や夫を盗まれた」みたいな表現はまさにモノを盗まれた感覚を表現しているわけです。しかし「自分のもの」っていう表現に見られるように、なんかそれは人間をモノとしてみているわけです。人間は人間で自由なものなのに、なぜそれを所有することができるなんて思いこむことができるんだろう、と。
たしかに結婚生活では誠実さは大事だけど、それが性的に排他的であること、他の人とセックスや恋愛しないことは意味しない。また、他の人と恋愛やセックスしなくても不誠実になる方法はいくらでもある。たとえば自分の経済状態を妻に知らせないお金持ちの男性とか考えてみろ、と。けっきょく信頼を裏切ることはぜんぶ不誠実なのだ、と。
でもまあ婚外恋愛や婚外セックスしたって、お互いに信頼しあっているカップルの愛情ってのは恋愛における愛情より長生きsurviveする、と。だからお互いに嫉妬しないとか詮索しないとかっていうルールを守れば、不倫しても結婚生活は維持できます、ってわけです。
なんだかあれですなあ。でもまあいろいろ文学作品とか引用されていて、一読する価値はある本ですわ。
どうでもいいけど私がテイラー先生の名前を知ったのはピーター・シンガー先生の『私たちはどう生きるか』でシジフォスの話が出てきたところだったんですが、シンガー先生とか1950年ごろ生まれの人々が若いときに1970年のGood and Evilを読んでた、ってことなんでしょうね。
まあんでこういうテイラー先生の考え方について私自身はあんまりノレないっすね。私が思うに嫉妬とかって感情は理性によるコントロールとかできないもんちゃうかな、みたいな。「嫉妬はしてはいけません」「はーい」とか人間じゃない気がしますね。もしそういうことが可能なのであれば、まあその結婚関係は結婚というよりはJoint Ventureというかなんかそういう男女の起業家による共同プロジェクトみたいなになっていて、まあそれはそれでありなんかもしれないですが、どうなんすかね。いやまあそういうのでいいっていう人がけっこういるであろうことは想像できます。他にもっと気になる点もあるんだけど、これは秘密。
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