いい人、ナンパ師、アリストテレス (3) ナンパ師の世界というのがあるらしい

まともな常識ある人は簡単にはジャークにはなれない。突出した長所のない「いい人」は長期的なおつきあいにはいいかもしれないけど、モテない。それにまあ現代の社会生活は断片化しているというか、誰かといっしょにいることが凄く少なくなってますよね。高校ぐらいまでなら(共学なら)同じクラスでずっといっしょにいたり文化祭とかしたりして同性・異性をとわず、お互いを時間をかけて知ることができたけど、大学になるとサークルにでも入らないかぎり週に何回も顔を会わせることはない。社会人になればなおさら。イケてる男子も女子もすでにステディな関係の人がいて手が出せない、みたいな。んで合コンとかするけど、その場の2時間や3時間では話もはずまずそのままさよなら、みたいな。どんな「中身」のある「いい人」も単なる飲み会2時間でいいところを見せるのは難しい。そんなこんなでふつうの常識的なひとはAFC (よくいる欲求不満のマヌケ)になる。でもある程度しょうがないっすね。

まあそれはしょうがないと思えない人、ちゃんとした長いつきあいをしたいのではなく、モテたい、セックスしたいっていうのが男性の本当の望みであるならば、もう「いい人」になって女性にモテるようになろうとするよりは、直接に女性を操作してひっかけて即座にセックスするまでもっていってしまえばよかろう、っていうのがピックアップ・アーティストたちの考えかたですね。中長期的な関係ではなく、もうその日だけのことを考えるならば、女性にはもっといろんなアプローチの仕方がある、ということらしい。

まあとにかくジャークであるフリをして、ナンパしてしまえ、と。女性に好かれる、とかそういうことを考えず、なんでもいいから自信をもっているフリをして、できるかぎり多くの女性に声をかけて、あらかじめ考えておいた(あるいは先生から教えてもらった)手順で事をすすめ、女性をおかしな状態にしてセックスしてしまえ、みたいな発想ですね。

フリをするためには準備が必要。声のかけかた、話へのひっぱりかた、話題、自分の魅力を示す方法、相手が興味をもったかを知る方法、店を出る方法、自分の家にひっぱりこむ方法、までぜんぶ手順とノウハウがあるわけです。それを覚えて練習して、街なりクラブなりにくりだす。そのノウハウの多くの心理学なんかをもとにした疑似科学や経験則。

たとえば、

  • 3秒ルール。目についた女性に3秒以内に声をかける。それ以上時間がかかると声をかけるタイミングを失う。
  • その場で一番ルックスの優れた女子に声をかける。他の男は手が出せないが、女子自身は自分が一番だと思っているので声かけられるのを待っている。
  • あらかじめ決められた話題。女性が興味をもちそうなネタをもちかける。たとえば「最近ガールフレンドができたんだけど、その子が僕の昔の彼女の写真を見つけて破って捨てちゃったんだけど、ひどいと思わない?」
  • ネグ。女性のプライドをなにげなく傷つけるようなお世辞を言う。他の人の前で女性を侮辱するようなことを言う。プライドを傷つけられた女子は、相手から肯定的な意見をひきだそうとして興味をもつ。
  • アルファメール。その場にいる男性のなかで、自分がなんらかの点で一番優れていることを示す。たとえば、遊びかたを提案してリーダーシップを見せる、手品などをして注目を集める、他の男を笑わす、からかって上位であることを他に示す。

他にも山ほど「テクノロジー」があって、各自先生に教わったり自分で試行錯誤して開発したりするわけだ。ポイントはとにかく自分は非常に価値のある希少な人間だ、君のような人間にはふつうは手が届かないのだ、ということを女性に見せること、自分は女性には飢えていない、女性にはむしろ興味がない、もし女性に興味があれば遊んでもいい、みたいな態度であることを示すことのようです。「いい人」のようにご機嫌をとりに行かない。むしろ価値のあるジャークであるフリをする。

「連れこんだはいいけどどたんばで抵抗されたらどうするか」みたいなのはほとんど(脱法的な?)デートレイプの方法みたいな感じで、読んでて不快なものも数多くありますわね。「とにかく酒飲ませ」みたいなのを書いているウェブとかもあります。本気でやばい。プレデター。

こういうのは別にそういう人びとの経験以外にはなにもエヴィデンスはないわけですが、読んでるとたしかに効果があるやつが入っている気がする。もしかするとちゃんと機能してしまうかもしれない。私がはじめてその種のものを読んだときに思ったは、それを試してみたいというよりは、これは学生様とかにとって実際やばいかもしれない、という危惧でした。そういう操作的なテクニックを駆使されて、いやな思いをした人や、これからいやな思いをする女子はけっこういるんじゃないかと思う(もちろん楽しい思いをする女子もいるだろうけど、どれくらいの割合なのか)。

実際、2ちゃんねるとかでもそういう板に行くとナンパ報告とかテクニック交換とかしている人びとがいて、ある程度の「成果」をあげてるみたいな感じ。amazonとかでも書籍やDVDけっこう出てますね。youtubeにもある。全部がホラとは思えない。

宮台真司先生という有名な社会学者の先生がいるんですが、彼は大学院生のころからナンパをくりかえしていたってのが自慢で、数年前に上に書いたようなナンパを実践している人びとと本を出してたみたいですね。この前気づいて読んでみましたが、だいたい上のような感じの(あるいはさらに強引な)ナンパテクニックが語られて、それがなんか現代の恋愛なるものと難しい話で結びつけられる。まあとにかくとにかく女は数だ、数をこなしてしまえば、いずれは深くつきあえるようになる、みたいな。『ザ・ゲーム』やそこらへんのアメリカのものは性暴力や酔わせてセックスするのはぜったいだめ、とにかく相手を誘惑して同意させるのだ、という方針がはっきりしていますが(まあ法的な問題もある)、宮台先生たちのはそういう縛りさえなく、とにかくやってしまえば勝ち、みたいなので非常に危険で不愉快なものになっている。

宮台先生というの人はよくわからない人で、そういうのが現代の若者が目指す道だみたいなことを言っていて、それってどういう根拠からそう言ってるんだろうとか、そういう操作的な対象になる方はどう感じるだろうか、とか、そういうのの道徳性や危害の危険性についてどう考えているのかさっぱりわからない。どうも学者としてどうなのか、社会学というのはそういう学問なのか、ずいぶんフリーダムな学問だな、とかいろいろ考えてしまいます。でもたしかにその自信はすごくモテそうで、自分の体験として話していることはホラではないだろうなと思います。そりゃあれくらいのルックスの東大社会学院生、いずれ本もバンバン出すしテレビにも出ます、みたいな人に誘われたらついていく女子は少なくないと思う。

しかしまあ女子はナンパ系男子がどういうことを考えているのか知る上で覗き見してみてもいいかもしれない。

いい人・ナンパ師・アリストテレス (4) アリストテレス先生の「高邁な人」はモテそうだ

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下は読んでないけどおそらく上のに加筆したもの。

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