rational と reasonable

ふつう「合理的」と訳されるrationalとreasonableの区別ってのは、ほんとにわからん。

おそらくrationalってのは、ある目的があるときにそれを達成するのにもっとも効率的な手段を選択することについていわれる性質で、reasonableはもっと広くて、なんらかの「理にかなっている/道理にそってる」。もちろん、その「理」「道理」がどんなものかは難しいけど、まあぶっちゃけ、「理性的な人ならばふつう認める(承認する)であろうような」だと思う。

たとえばカント先生が言うような意味で「ウソをつくことは人間の義務に反するので私はウソはつきません」は理性にかなっているという意味でreasonableかもしれないけど、自分の利益を大事にすることを第一の目的にしている場合にはrationalではない。

英文とか読むときにこの二つを混同してしまうといろいろ問題が起こるし、翻訳するときも気をつけてほしいけど、どうすればいいのかはいまだによくわからない。

てなことを読んで思った。

「障害者権利条約」の英語原文らしい*1 http://www.nginet.or.jp/box/UN/61th106conventionRPD.pdf
だと問題の箇所は当然reasonable。

“Discrimination on the basis of disability” means any distinction, exclusion or restriction on the basis of disability which has the purpose or effect of impairing or nullifying the recognition, enjoyment or exercise, on an equal basis with others, of all human rights and fundamental freedoms in the political, economic, social, cultural, civil or any other field. It includes all forms of discrimination, including denial of reasonable accommodations;

“Reasonable accommodation” means necessary and appropriate modification and adjustments not imposing a disproportionate or undue burden, where needed in a particular case, to ensure to persons with disabilities the enjoyment or exercise on an equal basis with others of all human rights and fundamental freedoms;

私の読みでは、単に「差別禁止」とすると、当然の必要を満たすためのさまざまな優遇(?)措置も差別だと反対されたり批判されたり言い逃れされたりするかもしれないので、あたりまえだけどいちおう「個別の理にかなっている措置は差別じゃないよ」「むしろそういう措置しないのが差別だよ」と言っておく必要があるのだと思う。そういう措置をしないための言い訳を封じるために入れられた但し書きで、ロビーストたちはこれ入れるのだけでもけっこう 苦労したんじゃないだろうか。*2男女共同参画~にもこういう但し書きがあったと思う。こういう法的な文章ってのは難しい。

reasonable accomodationは「合理的配慮」より「理にかなった調整」ぐらいの方が理解しやすいのではないかと思うが、だめか。

ちなみにこの条約の目標も第一条と第二条でいちおうはっきりしていると思う。こういう条約とかは、詳細・明細的にすればするだけ、そこから漏れたところに文句をつけにくくなるんじゃないだろうか。なるべく広い方がよいのかもしれない。rationalと書いてしまえばその目的をはっきりなきゃならんけど、reasonableなら、まあ、理性的なひとだったら同意できるようなものならなんでもOKになるから。でも政治的には難しいのかな。

あ、誤解しやすい書きかたしてた。理性的なひと reasonable man person も一定の意味があって、カントみたいなすごい理性をもっているようなひとって意味ではなく、「通常人」。それほど常に理にかなった考え方ばっかりする人でなくてもよい。reasonable meansといえば「まずまずの手段」。つまり「ぼちぼち」。「合理的な」と訳すのは余計な誤解をまねいてだめやんね。でも法律屋さんは気にならないのかもしれない。

角田由紀子さんについてももう一つ驚いたことがあったのだが、また今度。

追記

なるほど、”reasonable accomodation”がなんではいってるか、ってのは下のコメントでmacskaさんが書いているような経緯なのかもしれん。そこらへんの経緯や意図を私が勝手に憶測してもしょうがないので、上で私が書いてたのようなのは無駄で有害。むずかしいなあ。

まあでも、上の”discrimination”の定義の最後にはdenial of reasonable accomodationがはいってた方が、(その句がはいってないよりは)障害者には有利なように見える。

でもその”reasonable accomodation”の定義に”not imposing a disproportionate or undue burden” が含まれているのが「なんでもかんでもコストを度外視して「平等にしろ」と要求するのを制限する」ためだという読みは可能な感じではある。やっぱり条約にもとづいて国内法を整備するときに、ここらへん、なにが、reasonableなのか、なにがdisproptionateかとかundueかとかってのが争われるんだろうなあ。勉強になる。っていうか勉強しないと。ここらは勉強足らんのでコメント歓迎。っていうか、ネットとか見るよりまともな本を読めってことだな。

追記2

上と直接は関係ないけど、hannnah さんから “reasonable accomodation” についてのカナダの議論の有益なリンクおしえてもらったので読みやすいように直リンしておきます。なるほどこういう文脈で使われる言葉なわけね。どもども。

http://en.wikipedia.org/wiki/Reasonable_accommodation  下のwikipediaの記事の” Reasonable accommodation is a legal term used in Canada to refer to the obligation to modify a law or a norm where its strict application could violate the equality rights …”

「合理的配慮とは、カナダで、ある法や規範を厳格に適用すれば、「権利と自由に関する宣言」第15条で述べられている平等権を侵害するかもしれない場合に、その法や規範を修正する責務を指す法的用語である」か。

ふーむ。この言葉をめぐっては、いろいろ難しい問題が山積みなんだな。それにやっぱりなにが”undue hardship”かとかそういうのが問題になるのね。なにがreasonableかってのはほんとうにずーっと問題なんだよな。それにくらべれば、なにがrationalかって話はまだましか。

まあこのwikipediaの項目はカナダのその話に特化してしまってるので、
そのうち大きく書き換えられることになるんだろうな。

追記3

わからないこと・知らないことは適当に半端なことをブログに書きなぐっておくと誰かがコメントくれるのではないか、とかヘンな癖がつきそうだ。ブログは意見発表の場ではなく、能動的情報収集の場である、なんちゃって。まあそういうのを期待しているところはある。出不精人間に必要なキャリブレーションの一部。っていうかそうやって使えるかな。ある程度有益な情報を提供しないと誰も読んでくれないから結果的にキャリブレートしてもらえないだろうから、そこが難しいかも。教えて君ではだめだ。でも有益な情報もってるかなあ。もってるエロ画像とか貼っておけば・・・(だめ)

*1:本当の原文探す元気がないのですまんです

*2:なんかぜんぜんちがうようだ。下のmacskaさんのコメント参照。

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コメント

  1. macska より:

    reasonable accommodation というのは、障害者の側がなんでもかんでもコストを度外視して「平等にしろ」と要求するのを制限するために入れられた但し書きであり、障害者のために入れられたものではないはずです。

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