よく昔の恋愛論や哲学的恋愛論みたいなの見てると、恋愛とその他の愛、特にキリスト教的・利他的アガペーみたいなのが混同されてるような感じがあるんですわ。 loveとかamourとかLiebeとか っていう西洋語は、すごくいろんな人間的な感情や人間関係につかわれるので、そこらへんでいろいろ言葉の意味のすりかえをするひとたちがいるんですね。
んじゃ、「恋愛」じゃなくて、「愛」を分類するとどうなるんだろう?
恋愛心理学とかだとエレンバーシェイドの分類が有名みたいですね。西洋語の愛loveには四天王がいる。それは別の語で表すと、(1) 愛着、(2) 同情愛、(3) 友愛、(4) 恋愛。
(1)の愛着、アタッチメント attachment loveていうのは、子供が親にくっつくような感じの愛ですね。大人、大きいもの、強いもの、経験をつんだひとにくっついていると安心・安全、離れると危険で不安。くっつき愛。
(2) 同情愛 compassionate loveってのは、同情・共感・共苦、パッションをともにする愛です。他人、それも複数の幸せを願うような愛、親切心。困ってるひとをみると助けたい愛。利他的愛、慈善愛、共同愛communal love、アガペ、B-Love、他者愛とかいろいろいわれる。
(3) 友愛 companionate love。コンパニオン愛。友人愛。上の同情愛が不特定複数・多数に向かう。compassionate loveが見返りを求めないっていうか、まあへんな言い方だけど上から下、なのに対して、友愛っていうのはお互いがお互いのことを考えてる互恵的な愛情なのがポイント。早い話、お互い組んでると利益になる。逆に言うと、利益にならなかったりすると友愛を維持するのはむずかしい。
(4) 恋愛 romantic love。この「ロマンチック」ラブの「ロマンチック」ってのは論者によってどう定義するか微妙だけど、バーシェイド先生の場合はエロスとかと関係のあるやつ。
こういうふうに「愛」って言葉にだまされないで、とりあずそれはどのタイプなのか、そしてそのタイプどうしの関係はどうなってるのか、みたいなふうにかんがえてかないと、変なお説教好きな哲学者にだまされちゃいます。
あと最近の心理学の傾向として、上の4つの「愛」のタイプがどれも進化的な背景もってるだろうってことが協調される傾向にありますね。愛着、友愛、恋愛の三つが進化的に有利、つまり生存と繁殖のために重要なのははっきりしているから、問題は(2)の利他的愛、同情愛がどう進化してきたのか、っていうのがけっこうたいへんな課題ではあるけど、まあ見通しはあります、ぐらい。
よく(女子)学生様は「友人と彼氏、友情と恋愛のちがいはなんだろう」「男女間では友情はなりたたないのでしょうか」みたいな授業後感想を書いてくれることがあるんですが、それは上のバーシェイド先生の(3)と(4)の違いを考えているわけですわね。
んで、先生たちは心理学者なので調査する。この方法がちょっとおもしろいんですわ。彼女たちが「社会カテゴリー法」と名付けた方法を紹介すると、まず被験者に身近な人物のリストを作ってもらう。んでそれを、社会的カテゴリーに分けてもらう。この社会的カテゴリーってのは、「家族」とか「友人」とか「同僚」とか「好きな人達」(people I love)、そういうやつね。当然複数のカテゴリに入る人々もいる。「好きな同僚」は「同僚」と「好きな人々」の両方に現れる。
んで、(A)「私が恋しているひと」people with whom I am in loveにリストアップされるひとは、(B)「性欲を感じるひと」people for whom I feel sexual attraction/desireにも現れるけど、(C)「私が愛してる/好きなひとびと」people I loveの人々は、(B)「性欲を感じるひと」にはあらわれないことがある。一方、(B)「性欲を感じるひと」は(A)「恋しているひと」には現れないことがある。さらに、(C)「恋しているひと」は(D)「友人 」friendにも現れることが多い。
これがなにを意味するかっていうと、バーシェイド先生たちの解釈では、(A)「私が恋しているひと」は、だいたいのところ、(B)性欲を感じる(D)友人だ、ってな感じ。
まああたりまえといえばあたりまえなんだけど、友人と恋人の違いは、相手に性欲を感じるかどうかです、ってな話になる。まあ非常に単純であたりまえの結論ではあるんだけど、こういうのもあるていど実証的な根拠があれば「なるほどね」とかってなりますね。大学の授業とかで追試やってみると面白いと思うんですけど、私自身はこういう調査の手法を勉強したことがないのでできなくて残念です。
あと、それじゃセックスフレンド(friend with benefit)はどうなるのかとかはまた。
バーシェイド先生の論文「「愛」の意味をもとめて」は下のに入ってます。
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