ナカニシヤ出版「愛・性・結婚の哲学」を読みましょう (4)

2巻目の「性」に入ります。この巻、愛じゃなくてどろどろの行為としてのセックスの話になるのかな、と思ってたら、ジェンダーや性自認の性別にかかわる話が多くて最初ちょっととまどいました。でもまあそういう考え方もありますわね。

宮岡真央子「固有の身体・多様な性を生きる:文化人類学の視点から」

とにかくこの論文はマーガレットミード先生のアラペシュ・ムンドゥグモール、チャンブリっていう例の1950年の研究が出てきてジェンダーの説明されてて驚きました。大丈夫かなあ。「男性と女性が通常考えられているのとは逆の気質をもつ」とか、文化人類学のことには簡単には口出せないけど、ほんとうですか、大丈夫ですか。残りはセックスについては文化によっていろいろあるよ、っていう話だけど、知らない分野なのでパス。勉強になりました。


「身体・自己・性をめぐる池袋真との対話」

タランスジェンダーの池袋先生を中心にしたディスカッション記録。情報や主張は標準的なものだけど、性的なマイノリティーの問題を考えるのは重要だと思う。がんばってほしい。ただしGIDみたいな性自認の問題と、同性愛のような性的指向の問題をいっしょにするのはどうなんかな、みたいなのはいつも思う。

シリーズとしては、マイノリティの問題に哲学っぽいつっこみかたをした論文もう一本ほしかった気がする。保守派の同性愛批判がどういうものか、っていうやつか、あるいは同性婚についての応用倫理的なやつか。


佐藤岳詩「私たちの身体と性とエンハンスメント:美容整形をめぐって」

これはおそらく応用倫理では新しい分野なので佐藤先生えらい。佐藤先生は国内のエンハンスメント系の議論のエキスパートの一人。手なれた感じで「本人らしさ(アイデンティチをおびやかす)」「親不孝だ」「不可逆だ」「行為者性が失なわれる」「画一的になる」etc.とかってよくある批判はあんまり有効じゃないって議論して、美容整形の問題は、男女についてジェンダー偏見を強化するのが問題だ、みたいな結論になる。まあ美容整形するのはたいてい女性で、それは女性に性的な魅力が求められるからです、そういうのは男女差別じゃないですか、っていうことですわね。

「現状の……美容整形は、いまだ美の神話に支配される現代社会においては、男性をより男性らしく、女性をより女性らしくするものであり、ジェンダーの固定化、再生産をもたらすものとなっている場合も多い。……誰もが自由に自分の性的な身体を理解し、自分らしく生きることに価値を認めようとする社会とは逆の方向に私たちを突き動かしてしまうのである。」(pp. 96-97)

ちょっとツイッタで書いたんですが、これって佐藤先生ほんとうに本心から思っているのかなあ、みたいな印象はもってます。「美の神話」ってのは、男性は強くなければならない、女性は美しくなければならない」っていう神話ですね。

そりゃ男女ともにイケメン美人がいいっしょよ。そのための美容整形のなにがだめなの? 女性だけが美を求められるとでも思ってるのかしら。男だってイケメンとブサメンの差はものすごくでかい。そりゃお金があればモテる男子もいるっしょ。でもそれはイケメンのモテ方とはちがうじゃんよ。そんなん男子なら誰でも知ってることだ。(そして女子ももちろん知ってる)おつきあいするときにイケメンとブサメンなら、イケメンがいいじゃないですか。他にも、魅力ある人はよい。魅力ない人が、整形にたよって魅力ある人になろうとしてなにが悪いのか。

最近、キャサリン・ハキム先生の『エロティック・キャピタル』って本読んだんですが、これはとても良書でしたね。まあ性的な魅力っていうのは、知力や財産や、ヒューマンキャピタルやソーシャルキャピタルと同様に資本となりうる。それは我々の人生を豊かにする。エロティック・キャピタルは、ハキム先生にょれば、(1) (顔の)美しさ、(2) セックスアピール、(3) 快活さ、(4) ファッションセンス、(5) 人を惹きつける魅力、(6)性的能力などからなる外見の魅力と対人的な魅力に関する多面的なもので、まあ整形で直せるようなのはこうした多面的なのの一部でしかない。

だから、「大金かけて整形するお金があったら本読むなりダンス習うなりファッション雑誌研究するなりしましょう」みたいなのってのはわかるけど、美容整形がなんか「美の神話」なるものに加担するからだめなもんだ、みたないのってのは、なんかねえ。まあ整形ぐらいでは魅力を手に入れることはできないだろうから、宣伝にだまされちゃだめだよ、とかってのならわかりますけどね。でも整形で満足している人もけっこういるだろう。

まあこの論文っていうか美容整形や性的な魅力については、あとでゆっくり考えたいと思ってます。佐藤先生のも価値のある考察でえらい。

とにかくみんなハキム先生のやつ読んで、エロティックっていうか性的な魅力に対する嫌悪感みたいなのについて考えてみるべきだと思う。

あと蛇足だけど、顔とかってのがアイデンティティとあんまり関係ないみたいな話はおもしろいっすよね。実際、私鏡見るときあんまりないから、鏡見ると「へえ、私こういう顔だっけか」とか思う。自分の顔なんてそんなもんよ。

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