北村先生のポイントの三つめ、実在の犯罪者ゾディアックに比べると映画の犯人スコルピオは無能でいきあたりばったりだ、という話なんですが、まあこれはそうなんでしょうね。私はゾディアックについてほとんど知らないですが。まあしかしゾディアックを娯楽映画に反映しなきゃならないわけではない。特にゾディアック事件はまだ継続中の時代の映画ですしね。
映画を見るときには、犯罪者はでたらめで無秩序な人物であってほしい、みたいな欲求はあるんじゃないかと思います。その方が意外でおもしろいというか、冒険活劇みたいなのものにはしやすいですよね。私はバットマンシリーズのジョーカーさんがけっこう好きなんですが(特にプリンスが音楽をやった映画のジャックニコルソンが演じるやつが好き)、あの人は無秩序ででたらめなのか計画性があるのかよくわからない、でたらめなんだけど最終的になかなか死なないおもしろい悪役ですよね。
『サイコ』の犯人もなんかでたらめ。『羊たちの沈黙』の犯人もでたらめ。レクター博士は非常に知的だという設定で我々には知的すぎてまったく理解できなくてかえってでたらめに見える、みたいな(私映画見てないので陳腐な例しか出てこない……)。
『ハリー』の犯人スコルピオが、罪のない人々を簡単に殺すのに、ハリーにちょっと痛めつけられて「ひどい」「痛い!」とかおおげさにやるのとかわざわざお金払って殴ってもらって「おれは被害者だ」とか勝手なことを言うのとか、おそらくバットマンのジョーカーさんにまで影響している犯罪者造形、とてつもない自分勝手、自己中心で素敵ですわよね。最高。見てる方としては、もうあんなでたらめな奴はさっさと殺してしまえ!ってなるわけだけど、事情があってキャラハンは簡単には殺せない。ここがおもしろい。
だから、スコルピオがでたらめでいきあたりばったりだからつまらない、ということはないと思うのです。むしろおもしろいじゃん。あれをつきつめると私の好きなジョーカーさんになる。
他もまあスコルピオはベトナム戦争と関係ありそう、みたいな話はけっこう重要なはずで、冒頭であんな長距離狙撃一発でキメるんだからそうとうの腕の狙撃兵だったはずで、狙撃兵は基本的には非常に秩序があり忍耐力と集中力がある人々のはずで、それがあんなでてらめになってしまってるってのに戦争の爪痕を感じますよね。彼のベルトのバックルがピースマークだったりして時代背景が強調されている。他にもいろいろ暗示や痕跡があるみたいですね。私にはよくわからないけど。映画っていうのは画面にいろんなものが詰めこまれていて、それが優秀な映画は何度も見ることができる理由ですわね。見てあげてください。
(追記)あと、これから見る人の味消しになるから詳しくは書かないけど、スコルピオさんが登場している最高のシーンは酒屋さんですね。無秩序で衝動的な傾向のあるスコルピオがああするのはともかく、その前の酒屋店主さんの挙動がとてもよかった。あれはすばらしい。絶賛。あれが私にとっての映画です。あとバス運転手さんの役柄や演技もすばらしい。ザ・ハリウッド。あそこらで私は映画おもしれーってなりました。
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