セックスにおける同意が問題になるのは恋愛とかセックスとかそういうのには医療行為とか商売上の契約とかとはまったく違う面があるからですね。
お医者が患者を手術したくてしょうがない、みたいなことはないわけです。「手術させろー、シリツシリツ」みたいなのは困るっしょ。それに患者さんに、本人に病気とかがなくても切られたいと思ってほしいとも思わない。まあ「手術受けるならこの先生」ぐらに信頼しててほしいことはあるかもしれませんが、「あの先生に切ってほしいから盲腸になりたい」と思ってほしいとは思ってないだろう。ははは。
でもセックスやもっと広く恋愛っていうのはそういうもんではない。上で「思ってほしいと思う」みたいな表現を使いましたが、ネーゲル先生は超有名な「性的倒錯」っていう論文(『コウモリであることはどのようなことか』に入ってます)で、おおまかに(典型的な)性的欲望や性的興奮ってのは、相手から性的欲望を向けられることに対する欲望だ、みたいな話をしているんですが、たしかにそういうところがある。ジョンレノン先生もLove is wainting to be lovedとか歌ってますね。
そういう相互性とか再帰性みたいなのが恋愛やセックスにつきまとっている。相手の欲求や心理的・生理的反応とまったく関係なくセックスしたい、というのは異常とはいえないかもしれないけれどもかなりおかしなところがあるように思える。
まあそういう恋愛っぽい恋愛抜きでも、とりあえずセックスにもちこむために(おそらく)男も女も相手の判断を変更しようとする。なんとかして相手の欲求をかきたて性的に興奮させ、あるいは相手の抑制をはずそうとするところがある。これがおもしろいところですね。アルコールはそういうことをするツールとして使用されることがある。(もっとも、今話題になっているように、相手を昏睡させて心理的反応とまったく関係なくセックスするために使う人もいるようですが、これは私には気持ち悪いです)
とかだらだら書いてしまいましたが、そういうツールとしての各種物質、はやい話が惚れ薬、媚薬とかってのはまあ人類の昔からのあこがれですよね。
ぜんぜんそういう薬物関係については知らないのですが、薬物と一言で言ってもいろんな効き方をするわけでしょうなあ。
セックスに対する同意みたいなのを中心に考えると、セックスしてもらいたい相手の (1) 欲求を刺激するのと、(2)抑制を取り去るの二つの道がある。これは我々がセックスするかどうか迷ったりするときに欲求とそれに反する抑制の二つがあることを反映してますね。セックスしたくてたまらなくても抑制が強ければ同意しないだろうし、抑制がなにもなくてもこの相手とはしたいと思わないとか、今はとくにしたくないとかそういうことがありそう。
【媚薬】媚薬が開発されたとする(現在のところ存在していない)。AはBの飲み物に薬を入れた。それまでセックスに関心を示さなかったBは興奮して、セックスしようと提案した。
上のような薬はまだないと思いますが、それが開発されたら問題になるでしょうなあ。【媚薬】は私の直観ではアウトです。そういう薬物をこっそり飲まされたくないし。詳しい話はまたあとでやります。でもこれって、Bにこっそり飲ますからですよね。ワートハイマー先生にならって私もオリジナルの例を作ってみたいと思います。
【エックス】AはBに覚醒剤の一種を渡した。それを飲むと楽しくなり相手に性的魅力を感じ、また性的に興奮する。Bはそれを他の人と飲んだことがあり効果を知っていたが、Bとともに飲むことに合意した。
違法薬物、脱法薬物はやってはいけません。しかしこれ合法薬物だったらどうですかね。あんまりうまくないな。
もうひとついってみよう。
【香水】効果的なフェロモン入り香水が開発されたとする(現在のところ存在していない)。Aはそれを体にふりかけてBとデートした。BはAとのセックスに同意した。
そんな香水があったらどうですかねえ。ふつうの香水ってそういうのにどの程度役だつんでしょうか。私は基本的に香水は使いませんが、それが原因であれなのでしょうか。遺伝子型に応じたオーダーメイド医療とかってのが発達してくると、オーダーメイド香水とかってのも開発されるかもしれませんね。ターゲットと自分の遺伝型に応じてなんか特に好かれるような香水をオーダーメイドする、みたいな。夢の世界だけどそんな遠い先の夢ではないかもしれない。まあよくわからないけど、【香水】が道徳的に問題あるかどうかはよくわからんです。
まあとにかく【媚薬】や【エックス】は欲求をかきたてる方の物質なんでしょうな。思弁だと特定の欲求をブーストするっていうのはかなり難しそう。
これに対して、抑制をとる方に効果がある物質もある。思弁だとおそらくアルコールはまさにこっち系の薬物なのではないかと思ってます(あんまり自信ありませんが)。アルコールってセックスだけじゃなくていろんな抑制を取りさってしまうじゃないですか。だからひどいこと言ったり暴力ふるったりする人も少なくない。アルコール恐いです。しかし抑制をとりさることが求められる場合もある。
【】AとBはデートする仲だった。Bはまだセックスの経験がなく、セックスについて恐れや罪悪感を抱いていた。シラフではいつまでも同意できないと思ったBは、1時間に4杯飲んだ。キスとペッティングしてからAが「ほんとうにOK?」と聞くと、Bはグラスを掲げてにっこり笑って「今なら!」と答えた。
アルコールの力を借りて告白する、みたいなのも多いでしょうね。この【空元気】【オランダの大学】(原題はDutch Collegeなんですがなぜそういうタイトルがついているかわからない)ケースでは、AはもとからBとセックスしてみたいとは思っていたが、抑制が強すぎてその勇気がなかった、程度だと解釈すると、これはOKだろう、って言うひとは少なくないんじゃないかと思うわけです。同意能力のあるBはいろいろ自分の利益について合理的に考えたうえで、自発的に酔っ払ってセックスすることを選択した、というケースですね。
次のは誰も問題ないと考えると思います。
【ラクトエイド】Bは、お腹が痛いという理由でAとのセックスを拒んでいた。乳糖不耐症が原因であることが判明したので、Bは乳糖不耐症用錠剤を飲んだ。この「薬」のおかげでBは気分よくなり、セックスに合意した。
おなかの具合悪いのはいやなものですからね。薬があってよかったよかった。でもこれを次のように変更したらどうでしょうか。これも勝手に作ってみました。
【不同意ラクトエイド】Bは、お腹が痛いという理由でAとのセックスを拒んでいた。Bに乳糖不耐症が原因であることが判明したので、AはこっそりBの食事に乳糖不耐症用薬剤を入れた。この薬のおかげでBは気分よくなり、セックスに合意した。
なんでそんなのをこっそり食事に入れるんだとか考えちゃいますが、まあそういうこともある。性欲を昂進させるという食品を食事にたくさん入れて食事つくる人、みたいなのはまあ考えられるし。男性ホルモンや女性ホルモンが盛んにでるような食材を料理に入れる人なんかもいるような気がする。この【不同意ラクトエイド】では、食い物にそういうの入れるのがどうかっていう話は別にすると、Bの同意は無効だと考える必要はない感じがします。まあ【ラクトエイド】や【不同意ラクトエイド】とかを見ると、問題は単に薬物の影響下にあることではなく、薬物の影響によってシラフのときとは判断が変ってしまうという点にあるように思えます。
あれれ、適当に書いてたら話がよれた。やりなおし。ジョンレノン先生でも聞いて心を清めますか。
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コメント
わあ、これははずかしい。なおします。ありがとうございます。
こまかいツッコミで恐縮なのですが,【オランダの大学】の原文は,Dutch CollegeではなくてDutch Courageのようです.これなら意味が通るかと思います.辞書にも「(酒による)から元気」とありました.