前のエントリで書いたように、ワートハイマー先生のは私にはちょっと不安があっていろいろ考えるところです。
ところで、(8) 「セックスする気があるとき女性は酔っ払うか」で紹介したDavis & Loftus先生たちの論文の後半は法政策に対する提言になっていて、サーヴェーの結論として次のようなことを言おうとしています。
- 性的な同意というのはある時点での行為ではなく、時間をかけて展開されるプロセスだ
- 酔っ払った相手とのセックスは禁じられるべきでは*ない*。酔っ払うほど飲むっていう決断が性的な意図を含意していることはありえる
- 意思が途中で変わることはありえるものの、アルコールを摂取したということは被害者の強制されたという主張の信頼性に影響する
- reasonableな人にとって、相手のアルコール使用は、相手の同意と同意能力の蓋然的証拠になる
- アルコール使用はレイプや強制の虚偽申告の要因になる
- 酔っ払っての性的行動に対する規制は、危害の防止と自由の制限という諸刃の剣になる
どれも政治的にちょっとあれで、けっこう論争を呼びそうな主張ではありますね。うしろの方はいろいろ検討しなければならないものを含んでますが、最初の「同意は時間をかけて展開されるプロセスだ」っていう主張は鋭いことを言うな、と思いました。つまりふつうのセックスとかでは「やりますか」「やりましょう」「はっけよい、のこった!」みたいにはならんわけですね。相撲じゃないんだから。
実際のセックスでは、少なからぬ場合最初は女性は(いろんな事情から)ノーと言う場合が多い。これはけっこう研究の蓄積があります。古いのだと、Muehlenhard, Charlene L., and Lisa C. Hollabaugh. “Do women sometimes say no when they mean yes? The prevalence and correlates of women’s token resistance to sex.” Journal of personality and social psychology 54.5 (1988): 872.とか。まあそういうのは女性の弱い立場や抑圧があれだ、みたいな議論もあるのですが、そうでなくてもとりあえず軽く見られないように最初はノーっていう、みたいなのもある。ここはいろいろ議論あるところです。
Davis先生たちは、まあ最初は実際そういうもんだけど、同意しているかどうかっていうのはその最初の返事がどうかってことよりは、そのあとで、いっしょにどの程度酒飲むかとか、遠まわしに誘いかけられたらどうするかとか、手を握られれたらどうするか、耳もとで口説かれたらどうするか、他から隔てられた場所に移動するよう誘われたときについていくかとか、いろんな部分触られたときにどうするかとか、まあそういう時間的に発展していくいろんな合図によって示されるものだ、って主張したいわけですね。ここらへんの見方はワートハイマー先生より女性らしい分析を感じました。なんかよくわからんけど、セックスの同意なんてそんなもんな気がしますね。商売の契約とかギャンブルの賭けとかとは違うです。
Davis先生たちの他の主張は今やるのはちょっと時節がら具合悪いのでしばらくほうっておきます。興味ある人は読んでみてください。
- 酒飲みセックス問題 (1) 酔っ払ってセックスするのは許されるか
- 酒飲みセックス問題 (2) 有効な同意ってなんだろう
- 酒飲みセックス問題 (3) 「インフォームドコンセント」で考えると
- 酒飲みセックス問題 (4) 薬物の影響そのものは問題ではないかも
- 酒飲みセックス問題 (5) エロス、ルダス、そして誘惑
- 酒飲みセックス問題 (6) 酔っ払い行為の責任
- 酒飲みセックス問題 (7) 酔っ払い行為の責任続き
- 酒飲みセックス問題 (8) セックスする気があるとき女性は酔っ払うか
- 酒飲みセックス問題 (9) 同意したことに責任があっても同意は有効じゃないかもしれない
- 酒飲みセックス問題 (10) 同意の文脈・文化
- 酒飲みセックス問題 (11) 同意というのはプロセスだ
- 「飲み物を飲んだら急に眠くなって、気が付いたらセックスの最中だった!」はおかしいか
- よっぱらいセックス問題いったんまとめ
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