んで、第4章は「宮廷風恋愛」。騎士道恋愛、レイディーとナイトのあれですね。ここらへんから先生の専門に近づいている(はず)だし、内容的にもおもしろいと思う。ぜひ読んであげてほしい。
- 「恋愛は12〜13世紀西洋の発明だ」っていう20世紀に一部でかなり流行した発想のコアの部分ですわ。鈴木先生の立場は「大体において正しい説のように思われます」(p.140)ということで、これは私はいろいろ文句あるんだけど、でもまあ一部で標準的な説なので読んであげてほしい。
- 私の解釈では「女性をあがめたてるようなタイプの恋愛観、というかお話は中世末ぐらいに発明されれてバカウケした」ぐらいなんですが、まあねえ。
- 「宮廷風恋愛」についてはこの本読んであげてください。私もだいたい同じ感じで理解してるし、だいたい同じ感じで講義している。
- ただ鈴木先生に私がもっている違和感の一番大きいやつは、「でもそれってお話ですよね」ってことですわ。宮廷風恋愛なるものが実際に実行されてたかどうかはよくわからない。わかっているのは、そういうお話がウケてた、ってことだけで。この、思想やお話を、現実にあった事実であるかのように解釈してしまうっていうのは私にはよくわからないです。またこれが、明治日本の「恋愛輸入説」とかにまつわる問題でもある。
- 「命を賭けて、身分の高い女性に対する忠誠を誓う」(p.146)、その恋愛は肉体的なものではなくあくまで精神的なものである、とかそういう恋愛はかっこいいのですが、まあかっこよすぎていったいそんなのどういう人が実行していたのかわからない。まあそういうのいたとして、数人でしょうか。だって騎士とかふつうの人はなれないわけだしね。セックスどころか、会って話をするだけでもたいへんかもしれないし、そもそも騎士とかってのは平安〜鎌倉時代の武士と同じもので、けっきょく乗馬と武器の扱いがうまくて人殺せる人ってことなので、私みたいなのが会うと無礼な!とか殺されちゃうかもしれないから会いたくない。くわばらくわばら、失礼お許しくだせえ。
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- 領主や騎士様なんてのは平民にとっては雲の上の人、勝手に税金とかとってく悪い人なわけだけど、それがウケたのは吟遊詩人がそういう人々の恋物語を歌ったから。トリスタンとイゾルデの世界っすね。(吟遊詩人使ったのはリュートだけではないのではないか)
- まあ流しの音楽芸人が、高貴な方々の気高い恋愛を歌ったわけですよね。同時代の琵琶法師の世界。
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「学生に、「理想の恋愛とはどのようなものですか」というアンケートをとると、「心からわかり合える人と愛し合う」「一緒にいて楽しくて、落ち着く」など、精神的なファクターを挙げる人が大半を占めます。カラダよりも心が大事、ということですね」(p.150)
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いやそれはいいですが、先生、そういうアンケートとったらやっぱりそういうことになりますよ。それセックスが楽しい上での話じゃないっすか。セックス楽しくないのにいっしょにいて楽しい、とかあんまりないのかもしれんし。セックスできれば気は合わなくていいです、とかあんまりないっしょ。気のあわない人といるのはしんどいものだし。っていうか、そもそもセックスだけして(何時間かかるかわからんけど、想像で2時間としますか)、はいさよなら、みたいなのは学生様たちには恋愛ではないんではないか。
- 155頁で、奥様のお婆様にナイトとしてのレディーファーストの振る舞い教えてもらった話はかっこいい!ここはみんな読んでほしいですね。ぜひ買ってあげてください。
- そしてここらへんで、おそらく鈴木先生の一番最初の発想が出てきます。日本の恋愛は「女性は男性の後ろにいて男性を立てる」ということになっているが、西洋の恋愛は「女性が立てられる側にまわる」ものだ、「忠誠の精神的な恋愛は、日本的な色恋沙汰と構造的に違う」(p.159)これです。
- まあそういう発想はわかるんですが、西洋人が実際にどうしているかっていうのはほんとにさまざまだろうし(DVとかレイプとか欧米の方がはるかに多いと思う)、『源氏物語』や『平家物語』にだってそういうのあるんじゃないかって言いたくなります。どうでしょうか。
- ル・シャプラン司祭(カペラーヌス)の『宮廷風恋愛の技法』はおもしろいので、鈴木先生の紹介読んだらぜひ現物読んでみてほしいですね。鈴木先生の解釈もおもしろいと思う。ここらへんがこの本の一番おもしろいところなんじゃないかと思います。
- 鈴木先生によれば、この本でついに男性は女性を理知的に口説く、ということを発見したのだ、ということだと思います。私もこの解釈にはのりたい、っていうか知的に優れていると自信をもってる女子を男子ががんばって論破しにいく、というフランス映画的恋愛がここで描かれているわけですわね。まあそれってどうなのかという気がしますが、インテリの男女どちらも好きそう。どっちかというと男子の方が好きそうな妄想。ははは。
- こういうルシャプラン先生の読んでると、いまツイッタでフェミニストをアンチフェミ男子が折伏しに行ってるのもこういう伝統のなかでの話ではないか、っていう気さえしてきます。カペラーヌス先生も鈴木先生もほんとにおもしろいのでぜひ読んでみてほしい。
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最後のところ。
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日本の女子学生に中世宮廷恋愛由来のレディーファーストを説明すると、「やはり恋愛相手はこうではなくちゃ」という反応が時々帰ってきます。この場合、「真実の愛=レディーファーストの愛」と、やや短絡的ではありますが、中世宮廷恋愛が現代の日本人女性にも強い影響力を及ぼし、その感情生活を縛っている様が見てとれます。(p.176)
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っていうんですが、これ、宮廷風恋愛だのナイトだのと関係なく、とにかく女子はもちあげられてやさしくされるのが好きだ、ということじゃないですかね。
- そして、宮廷風恋愛というのは、女性の地位が次第にあがってきて、殿様や貴族の奥様としてあるていどテッペンまで登った女性は、そうした男性からのサービスを期待することができるようになった。愛情やセックスをエサにすれば、女性は男性を支配できることを知った。我々をちゃんとよろこばせないならば、セックスなんかさせないし、そもそも見向きもしない。ちゃんと努力して我々を喜ばせろ!
- そして、そうした「お話」を吟遊詩人やその他のお話が得意な人々から聞いた人々は、「私もうちの男にそうさせよう!」と決意した。そういう歴史上のなにかを表現してるんじゃないでしょうか。
- 『恋愛制度、束縛の2500年史』で恋愛の歴史を学ぼう (1) まえおき
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