第1問「個性」
リード文。
- 「個性という言葉の理解は、人によって様々」なのに「個性は特に他者との違いを強調するときに用いられる」と言いきっちゃって大丈夫なのかな。
- 「個性」が「気質や性格」と同じように心理的な特徴を指すってのも大丈夫なのかな。まあふつうそう使うか。
- 「青年期は、自我に目覚め、個性化への欲求が強まる」。「個性化」が説明なしに使われているのが不安。個性をもつようになること、かなあ。「他人と違う気質や性格をもつこと」と言いかえてしまって大丈夫なんだろうか。
- でも「個性化」と「社会化」は心理学では対になる言葉なのかな。
- 「仲間集団からの離脱や孤立を恐れて無理に同調行動を取るなら、個性は埋没してしまう。」ここでの個性ってのは何を指しているんだろうな。これも「気質や性格」と言いかえられるんだろうか?
- この文章を書いた方自身は「個性」をどういうものだと考えているのかな。他人と違った(心理的な?なんらかの?)性質と見ているのか、「その人性」みたいなやつなのか。individualityなのかcharacterなのかpersonalityなのか。uniqueness? 英語だっていろいろ多義的だわね。私自身は他人との違いなんてのはどうでもよくて、むしろ自己肯定というか二階の欲求の実現というかそういうのとして考えてるような気がするような気もするけどよくわからない。独立性・自律性とかそういうとも関係あるような気がするし。そもそも「個性的な気質」ってのはよくわからんなんか矛盾した概念であるような気もする。あとでよく考えよう*1。
- まあ短い字数で言いたいことをちゃんと書くのはたいへんだな。他の問題と同じくらいの分量をとることはできないのだろうか。
問1。A~Dの説明とア~エの具体例を組合せる選択肢が、ア~エが先、A~Dが後と順番が逆になってて混乱する。会場でいきなりこの問1にぶつかったら私はパニック起こしそう。Dの選択肢を「二重接近」と「回避」だと思ってこれまた混乱した。二重の「回避-接近」なのね。むずかしかった。この二重のやつはなくてもかまわなかったのではないか。
問2。この問題はちょっとなんか奇妙な感じがする。「自己実現」「自我意識」「自己愛」「自我同一性」という *用語* と具体例の「組み合わせとして正しいもの」とはどういうことだろうか悩んだ。難問かもしれん。「~の具体例を心理学的に説明する場合に使うとすれば最も適切な用語を選べ」なのかな。問い掛け文がおかしいのか。
問3。上の世代を父親・母親と性で分けているのに、中学生・高校生で分けていない。これで中高生と父母を比べてどうするんだ。こういうインチキな感じ(とはまでは言えないかもしれないけど奇妙な)統計を使うのは勘弁してほしい。もとの『NHK中学生・高校生の生活と意識調査』もこうなっているんだろうか?ちょっと信じられないな。それとも作問した人が作りなおした?まあ性差にコミットするのがいやだったんだろうけど、それなら父母年代のほうもいっしょにすりゃいいのに。
第2問 「死と善い生」
リード文は格調高い。
- プラトンでも善き生には死後の至福が待ってるんだったか。あんまりちゃんと意識してなかった。勉強になった。
- 「イスラーム教」。イスラームは単なる宗教ではなく社会制度や思想まで含んでいるので「教」をとって「イスラーム」が正しい、とか書いている参考書があったような気がする。藤田正勝先生のやつ?
- プラトンやイスラームとパウロとの違いをもうちょっと強調できるともっとよかったような気がする。
問1。『パイドン』と『クリトン』高校生に見わけがつくのかな。
問2。特に文句なし。
問3。「人間の魂は生まれる以前に」もっとうまい表現があるような。魂が生まれるわけじゃないからね。あれは不死だから。「人間に宿る魂は人間が生まれる前に」か。
問4。けっこう細かい感じの問題だけど、まあ基本なんだろう。こういうのもっとよく知らんとならんというメッセージか。
問5。イエスの説く「神の国」が「精神的な出来事として実現する」ってのは大丈夫かなあ。エホバの証人の人はそう思ってないかもしれんよな。ペテロやパウロさえ単なる精神的な出来事とは思ってなかったんじゃないだろうか。なんかかなり不安。
問6。特に文句なし。(3)を選んでしまう受験生は多いだろうなあ。まあ良問かもしれん。
問7。ヴァルダマーナとか知ってる受験生は何人いるんだろう。私は知らなかった。
まあ荘子とエピクロスで選べってことだわね。
問8。こんなもん。
第2問は格調高く問題も神経をつかうタイプのもので平均点は低めになるだろう。まあよくできているような気がする。
第3問 「善行と心のありかた」
苦手。
問1。まあ大丈夫。
問2。うーん、まあ選べたけどあんまり自信がない。
問3。親鸞の「善人」の意味かあ。これ難しいよあ。一般的にはこういうふうに解釈されているのか。違う説明されている高校生もいそうだ。むしろ消去法で選んでください、という問題だわね。難問。
問4。OK。標準的。
問5。難しいかと思ったら選択肢が工夫されていてそれほどたいへんではない。
問6。(1)と(4)でまよったが、「旧来の道徳に真に従うために」があれなのか。(2)が啓蒙主義みたいなん、(3)が自然主義みたいなんを指すのかな。(1)はなんだろう?
問7。標準的。それにしても漱石の則天去私ってのは具体的にはどういうことなんだろうな。知らんことは多いなあ。
問8。どの選択肢もけっこう長くて似ている表現が多くて選ぶのがつらい。選択肢(4)が誤答なのは「自己の生の充実や救済よりも内面の確立を優先」のあたりなんだろうか。(1)もどこがマズいかわからない。これは難問だろう。
分野よく知らないせいもあるけどけっこうたいへん。「他人への善行」の具体例があがってないのに「心のありかた」みたいな話になっちゃってるからわかりにくいのかもしれない。少なくとも単なる形だけの慈善行為や偽善の話をもうすこし具体的に書く必要があったのではないか。あと安吾の「堕落」ってのは他者に対する善行とかと関係あるのかなあ。薬やったり裸の女の背中で原稿書いたりするってのは、堕落かもしれんけど、他人への善行を拒むとか利己的にふるまうとかそういうんではないような気がするし。なんか不安。
第4問 「寛容」
リード文。「寛容(toleration)」と英語入れる必要あるのかなあ。あんまり見たことないよな。
私の語感では寛容ってのはやっぱり「我慢する」「大目に見る」なんじゃないだろうか。ほんとうに「対等なものとして認める美徳」かなあ。対等じゃないところが寛容のポイントな気がすんだけどなあ。私の理解がおかしいのかな。
問1。OK。
問2。ボッカチオ読ませるのがとてもよい。でもこの寓話読んで(3)を選べるかな。なんかボッカチオの文章自体はもっと皮肉な意図があると思うけど。
問3。標準的。
問4。標準的。よござんす。この文脈でモンテーニュでてくるのはとてもよござんす。
問5。OKだけど、スピノザが実際にどういうこといっているのかってのは高校生には(大学生にも教員にも)理解しにくいわね。まあしょうがない。こういう謎みたいな文字列を読ませてテツガクへの興味をひくわけだ。
問6。やさしい。まあ問題つくるのに苦労したんだろうなあ。
問7。ルソーの「自由」(とその強制や全体主義との関係)の話はおもしろいんだけど、これがどういうことかってのは高校生レベルの授業ではわからんだろうと思う。まあ意欲的だけどセンター試験には高級すぎる気がする。
問8。まあ(1)になっちゃうわけだけど、「寛容は大事だけど絶対的な寛容はいかん」というまあ少なからぬ人が疑問を感じる立場が正答になっちゃうわね。これはまあしょうがない。(3)は余計なことを言ってるから×ってことだわね。
- ヘーゲルだのカントだのベンサムだのミルだの、毎年出てくる人々がひっこんでたのがとても新鮮な感じでとてもよい。そう、哲学史ってもっと広いよね。
第5問 「友愛と連帯」
友愛。まだハトが首相やってるときに作ったんだな。友愛fratanityと友情friendshipってどういう関係なのかな。見しらぬ人を助けるのは友情じゃないよな。友情ってのはあるていど排他的・選別的でないと友情とは呼ばないと思うが、フラタニティーってのはどういう感じなんだろう。ちと国内ではあんまりはっきりしない概念だわなあ。
いろいろ考えちゃう対話文。
問1。初期社会主義者とか見わけさせる細かい問題。ちと難しい。ここらへん具体的にどういう人々だったかってのが一般読書人にもちゃんと紹介されてないからねえ。フーリエのガイキチなところはもっと紹介されていいんじゃないだろうか。
問2。サルトルまだ人気あるんだなあ。
問3。選択肢(3)はフリーソフトの話でてきてよござんすけど、「その反面」がフリーソフト作っている人たちが合悪いこともしてるみたいに読めちゃわないか心配。
問4。こういうグラフ読み問題って試験としてどれくらい意味があるんだろうか。誤答率はどれくらいなんだろう?
問5。今年はイグナティエフですか。毎年こうやっていろいろ紹介していくのはとてもよいです。
問6。センも登場。アファーマティブアクション。
問7。特定の人の発言の理由や原因を推定させる、ってのはなかなか勇気のある設問だなあ。国語の問題のようでもある。しかし正答の(3)はなんかおかしい気がする。「困ったときにはお互いに助けを差し延べ合う、相互扶助の関係」であるならば、「返礼を期待せずに相手を助ける」ことにはならんのではないのかな。「友情」が特定の返礼を期待しないってのはわかるんだけどね。いやな感じがする。
まあ全体として悩む問題がけっこうあったな。会場でやると100点とれない気がする。
問題
本文の主旨としてもっとも適当なものを次の1. ~ 4.のうちから一つ選べ*2。
- 今年のセンター試験は昨年より難化している。
- 気になる細かい部分はあるものの、全体としてみればよく練られた良問である。特に今年は詳細に考えさせる高級な問題が多かった。
- 格調高いリード文と、新鮮な作問によってセンター試験として高く評価できる。
- 作問する人々はごくろうである。
*1:考えたけどよくわからん。私だったら個性というのは生れつきもっている性質や環境の影響とは比較的独立に、自分自身で獲得し是認している価値観とそれにもとづいた行動様式のことである、みたいなふうに感じているみたい。
*2:内容・形式とも例年にならっております
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