年齢が判断能力のだいたい(一応信頼せざるをえない)目安になるように、年齢差が強制や搾取のだいたいの(一応信頼できる)目安になるのかどうか という問題の搾取の方はもっとむずかしい。たしかに搾取的な人間関係や交渉っていうのはあるでしょうね。搾取っていう言葉には、道徳的によくないし、社会的に抑制するべきだという含意がある。しかしどういう関係が搾取的なのかっていうその基準を探すのが難しい。
ある交渉や取り決めや協力などの関係が搾取的になるのはどのような場合か、というのはむずかしくて、このシリーズではちょっとあつかいきれない。私の(現在の)ぼんやりした理解では、いくつかの候補がある。搾取といえるには、とりあえず交渉の双方に最低限の利得があることが前提とされていると思うんだけど、そういう想定の上で、
- 取引の利得の配分が極端に不平等なとき
- 一方の選択肢が他方に比べてごく限られているとき
- 一方のなんらかの「弱みにつけこんで」いるとき
- その取引において、一方が道徳的に当然要求できるライン以下の利得しか得られないとき
みたいな感じ。詳しくやるのはたいへんなのでパス。
まあ恋愛やセックスで、いったいなにが望ましい関係で、どういうときに他人が道徳的に非難できるようなものになるかはむずかしいですね。前にも紹介したかもしれないけど、ワートハイマー先生の変な例だと
- 【デート】
- AとBは何度もデートしているが、まだセックスしていない。AはBに、「そろそろセックスさせてくれなければ、別れようと思う。今日セックスするか別れるか、だ」と言った。
- 【幸福の条件】
- 富豪のAは、Bに、「一晩つきあってくれたら100万円あげるよ」と言った。
- 【好色富豪】
- Bの子供が高額の医療費がかかる治療が必要になっている。AはBに、1年のあいだ週に2回セックスしてくれたら医療費を払うと申し出た。
ここらへん、どれもやばそうではあるけど、どれが「搾取的」なのかというのはむずかしい。【幸福の条件】も【好色富豪】はBさんの弱みにつけこんでるけど、Bさんの子供の医療費を負担する義理はなにもないので、申し出に応じるとAもBも得になるといえば得になるのだが……【デート】もなんか微妙ですよね。
んでまあ同意年齢の話にもどると、やっぱり性的な交際関係においては、なにが搾取であるかの基準ははっきりしないわけです。さらに搾取的であるから法的に禁じられたり道徳的に非難されたりするべきかということもはっきりしない。
ワートハイマー先生は、ある交渉や契約で、単に一方が他方より利得が大きいというだけでは搾取とは言えないし非難に値するとも言えないだろう、って言ってます。そもそも年上男性と若年女性という組み合わせの恋愛/セックス関係において、どっちの利得が大きいとかそういうことが簡単に言えるだろうか。得に、同世代でのそうした関係とどれくらいちがうだろうか、というのが問題ですね。
ワートハイマー先生は、いろんな意味で「つりあわない」unequalな性的関係でも、一般に思われてるほどは搾取的ではないかもしれないと言います。心理的な報酬に関していえば、おおざっぱに見れば若年女子の方が多くの利得を得ているかもしれない。手記みたいなので、女子が年上男性と交際して「sexy and grown up, protected and spectial」な感じをもった、みたいなことを言う場合も少なくないですよ、みたいな。「セクシーで、大人になった感じ、守られてる感じ、スペシャルな女子になった感じ」とかですかね。こういうの、なんか「男性の認知の歪み」みたいなものと、それに対応した女子の思考の歪みだって言いたくなりますが、まあどうなんでしょうか1。
さらには、交際の初期の段階では社会的・経済的な格差が大きいカップルも、性的な関係を継続的にもつようになれば、その格差みたいなのは次第に縮まるものかもしれない、みたいなことも言います。まあ年の差セックスとかって必ずしも一方が他方を道具みたいに使うもんでもないでしょうからね。ネイキッドなかたちでのセックス、みたいなのは、人々の間の格差を抹消するようなものだ、みたいな(見方によっては理想的・夢みたいな)話をする人もいるかもしれません。でもこれは実は人々は一回考えてみるべき論点ではあるように思う。「あの人々は一方が他方を性的モノ化している/性奴隷のように扱っている」みたいな想像や推測はむずかしくないですが、人々っていうのはほんとうにそういうふうに暮らしているだろうか?
ワートハイマー先生はさらに、年の差カップルの関係みたいなのが搾取的であるとしても(ここではその関係から得る利得が不平等であるにしても)、実質的に大きな害悪といえるものが存在しないならばその関係を法的に禁じたり道徳的に非難したりする理由があるのかという疑問があるとしてます。「あなたたちはAが私を搾取しているって言うわ。それが正しいとしても、私はAとつきあうのをやめるくらいなら、搾取された方がいい」という人がいるかもしれない、ということです。そうした人々の欲求や選好を否定する根拠はどのようなものになるだろうか?
ここらへんほんとうに難しいですね。
- セックス同意年齢の問題(1) Wertheimer先生の変な空想事例
- セックス同意年齢の問題(2) 前提の確認
- セックス同意年齢の問題(3) 年の差セックス!
- セックス同意年齢の問題(4) 強制の問題
- セックス同意年齢の問題(5) 搾取の問題
- セックス同意年齢の問題(6) ジュディス・レヴァイン先生の『青少年に有害!』
- セックス同意年齢の問題(7) 同意能力はなぜ必要か
- セックス同意年齢の問題(8) 同意能力には何が必要か
- セックス同意年齢の問題(9) 私たちはどうやって成熟するのだろうか
脚注:
前回のエントリの注でも書きましたが、本当に年の差が大きいと関係は搾取的になるだろうか?むしろその逆なのではないか、つまり、年の差が大きいほど若年女子は交際相手をコントロールしやすくなるのではないか、さまざまな利益を得やすくなるのではないか、という気がするんですが、どうですか?
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