KANEBOの「生きるために化粧をする」CMを見てみました

少し前に、KANEBOの新しいCMがごく一部で話題になってました。KANEBOはいまリブランディングとかやってて、会社のイメージとか変えるつもりだったんすね。「I Hope.」だそうな。

 

なんかおちつきの悪い英語ですね。まあそれの第2弾が「なんのために化粧をする?」「私は生きるために化粧をする」だそうで、ツイッタでも違和感があるとされ (https://togetter.com/li/1561913)、国内でもけっこう有名なフェミニストの千田有紀先生も論評書いてました

私も見てみたんですが、私は美的にもメッセージ的にも圧倒されましたね。KANEBOは本気だ!みたいな。CMの傑作だと思います。これはかなり複雑な作品で、よくわからないっすね。でもなんかツイッタや千田先生の反応はちょっとちがうようにも思う。

メディアリテラシーや映画学だと、映画とか映像とかを評価するときは、とりあえず「ショット分析チャート」を作れってことになってるみたいです。ショット(シーン)にばらばらにして、気づいたことをメモしていくんすね。まあそういうふうにじっくり分析的に何度も見ることによって、解釈のための素材を作るわけですわ。

んで作ってみて、わからんのでツイッタでわかる人に教えてもらったのがこちらのスプレッドシート。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1Iai0uAaW5GjtEhNQENrHLJNqUGjh008QOs4y3sZdrWI/edit#gid=0

こういうの作ってみて「私はこう見たんだけどどうよ」ってやって、他の人の見え方とすりあわせてみると、自分がなにも見えてなかったのがわかってくるものです。教えてくれた人ありがとうございますありがとうございます。あの怪人みたいなのがコソボの結婚式だとか、中東みたいなのがインドのジプシーだとか、そういうの見つけだしてくる人たちはすごいなあ。

まあそうした分析チャートをもとに、私がなにか書けるかというと、けっきょくたいしたものは書けそうにないのですが、気づいたことだけ箇条書きにしておきます。

  • そもそもこの動画に生物学的男性が何人登場しているかはなかなかむずかしいけど、このCMがもっぱら女性の化粧をあつかっていると見るのはあんまりよくない見方だろうと思いました。2人目の人は男性だと思うし、男性が男性として登場して化粧しているショットもあり、またおそらくドラッグクィーンや有名トランスジェンダーや女装の人もいるようです。男性の儀礼的な化粧もある。登場人物は半分ちかくは生物学的な男性かもしれない。千田先生は「男性(の身体を持って生まれた)」っていう書き方しているけど、そうした多様性な生活のありかたと化粧がこのCMのテーマで、これを「女性が化粧をするのは〜」ってな話にもっていくのはちょっと先走ってる感じ。
  • 同一人物が複数回登場することがあるので、注意しないとわからない。
  • 最初のシーンは私奇妙だと思ったのです。最初は、少女がこっそり化粧して失敗している図かな、とか見てた。なぜわざわざ暗いところで口紅ぬるのかわからない。ふつう明るいところで塗るだろうと思ってたし。でも、「化粧をすることで光がさしてくる、そういうのを描こうとしているのかもしれない」という解釈をみて、なるほどと思いました。解釈は多様でありうるけど、ほかのひとの解釈を読んだり聞いたりするのはほんとうに楽しいですよね。私が「歌詞の分析」みたいなのでやろうとしていたのはまさにそれです。
  • 白無垢花嫁さんのところはフェルメールの「真珠の首飾りの少女」を連想しました。他にも有名映像を意識している様子がうかがえます。あと表情や流し目みたいな目の動きなんかがとても印象的なシーンが多い。学生様に意見を聞くと、最初は鏡見て化粧しているシーンが多いけど、後半は他のひととかかわってる感じがある、みたいなことを教えてくれました。
  • かなりのお姉さんが口紅塗って上向いたりするのとか、私はほんとにいいとおもいました。冒頭2人目のおそらく男性が、最後方で上向いて叫んでる風のもよい。そして中東かとおもったけどインドのジプシーの少女たちもよい。前半はおちついていて、後半アッパー系。
  • KANEBOがyoutubeのすでに存在していた動画をコラージュしてCM作ってるようだ、っていうのもおもしろかった。まあ海外に撮影旅行とか出られないコロナ事情のもとで、どうやって説得力あるCMをつくるか考えたんでしょうな。こういう作り方はそれはそれでこの時代らしくておもしろいと思う。
  • 鏡の使用は、伝統的絵画だと女性の虚栄を表現する小道具ってことになってるんですが、この動画ではそうではなく、内省、反省、そうしたものになっているように思います。鏡が好きなのは虚栄ではなく、自己との対話なのだなあ、みたいな。中間のナレーションが入る前の内省的なお姉さん女性が、後半で鏡見てるのとかそういう意味がありそう。
  • 鏡をみながら真剣に化粧しているのもあれば、もうすこし微妙な表情をしているのもあり、またなにより、(おそらくそれぞれにとて)大事な人々に対して化粧をしてあげる、というのが描かれているのもよかったです。われわれは自分で化粧したり他人を化粧したりされたりする動物なのだ、というそういうのが主張されているのだと思う。
  • 「美しさのため?」「誰かのため?」ってところで、この聞き方だと「ノー」っていう含意がありそうです。学生様もそういう解釈をしめしてくれました。実際、これを見て、「生きるために化粧」=「就職や社会的プレッシャーのため」=「美しさや他人のために化粧をするのだ」と解釈するのはむりですよね。ただし、「美しさのため」のところでは美しくしておそらく舞台に出る人、「誰かのため」のところでは日本とコソボの花嫁さんみたいなのがでていて、それはそれで否定はされていない。しかし、その他のいろんな習俗や個人的な活動なんかも描かれていて、化粧をする理由なんてのはほんとうにいろいろあるのだ、というのが訴えられているように思います。それはまさに「生きるため」としか表現しようがない。まあ質問だけでぶんなげたり、あるいは「楽しく生きる/自分らしくあるために化粧をする」、ぐらいだったらそりゃ批判は受けなかったでしょうが、このCMの鋭さ、化粧とわれわれの生活のもっと深い関係みたいなのが失なわれてしまうかもしれません。

てな感じで、このCMを100回ぐらい見ていろいろ思うところや連想するところがあったのですが、けっきょく私は人の顔をよくおぼえられず、また化粧についてもなにもしらないのでくどくど述べる資格はないみたいです。化粧や映像に詳しい人が分析してみてほしいです。

しかしとりあえず、こういう高度に複雑な映像というのは、最後の「生きるために化粧をする」では言いきれないさまざまなものを表現しているので、テロップから勝手な解釈をせず、じっくり見てみるべきだと思います。こういうのはやっぱりリテラシーよね。大学はそういうのも教えられる場にしたい気がしています。(私はできない)

 

 

ショット分析チャート、の話はこれとかこれとか。

それにしても、渡辺真知子先生すばらしいっすね。1980年当時のもいいけど、もっとお姉さんになってからのもよい。

 

 

 

 

1 thought on “KANEBOの「生きるために化粧をする」CMを見てみました

  1. 鈴木

    はじめまして。学生です。
    先生の記事を拝読して、思ったことがございます。マンガ『ブラック・ジャック』の「ふたりの黒い医者」というエピソードについてです。

    このエピソードには、いま話題になって(しまって)いるドクター・キリコが登場します。キリコが安楽死させようとした患者をブラック・ジャックがオペで救うのですが、その患者はその後あろうことか交通事故で亡くなってしまいます。それを聴いて笑うキリコに対しブラック・ジャックが「それでも私は人をなおすんだっ 自分が生きるために!!」と言い放って終ります。
    私はこの最後の「自分が生きるために」の意味がよくわからず、この話を読み返すたびに考えてしまいます。ブラック・ジャックはあくまで生かす側ですから。「それが仕事だから。お金のため」というのではいかにもつまらない。いまのところ自分のなかで最もしっくりくる解釈は、ブラック・ジャックは幼少期に瀕死のところを医療によって救われた経験から命を救うことを自分の生の肯定のように捉えているのでは、という感じです。ブラック・ジャックにとってキリコの存在は、自分が生きていることを否定するものなのではないか、と。

    と、いろいろと考えるのですが、そういうブラック・ジャックの人生や思想をあまり詳しく描かず一話完結でスッパリと次の話にいってしまうのが『ブラック・ジャック』という作品のおもしろさなのだと思います。CMやキャッチコピーも詳しく思想を表明するものではないので、ブラック・ジャックのセリフのようにいろいろな解釈を生むのでしょうし、やはりそこがおもしろいですね。
    こちらのKANEBOのCMも「生きるために」という文言を使っていたので、ブラック・ジャックのことを思い出したというわけです。ブラック・ジャックを踏まえると「生きるために」というコピーはなかなか深いなと思いました。ブラック・ジャックにとっての手術のように、化粧によって生きる意味ができた、という人もいるかもしれません。

    どうも「このCMは是か非か」という議論が目立ってしまっていて、いろいろな解釈がありえるという点が見逃されてしまうと残念だなあ、と先生の記事を読んでいて思い、コメントさせていただいた次第です。

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