前のエントリの、リズム、ベース、ハーモニー、メロディーの四つの層、みたいな話はまあよくある話。音楽の基本ですね。クラシック音楽の聞き方でもそういう話は最初にしますね。実際にはそんな簡単な層にはなってないんだけど、とりあえずまあいいや。不慣れなリスナーはメロディー以外には注意を向けにくいところがあるのでそういうふうになってるんだと思う。
リズム、ベース、ハーモニー、メロディーっていうのは音楽の基本的要素とは言えるわけです。ベースが特に重要とされるのはなぜか、という話もあるんだけど、それはおいおい。
さて、録音芸術の場合は、それを魅力的にしているものにはさらに別の要素があるというか観点があるというか。それが「どういうふうに録音され提示されているか」です。クラシック音楽で注目されるような楽音の楽理的機能とは別にまさに「サウンド」の「感じ」と呼ばれる側面がある。これはクラシックの録音芸術でも興味深い側面だけど、ポップ音楽ではそれが本質の一部をなしているほど重要になっている。
基本的にクラシック音楽の場合は、(1) 作曲者が作曲し、(2) 演奏者がそれを演奏し、それを会場で(3) リスナーが聞く、という形が想定されているけど、ポップ音楽の場合は、(1) 作曲者が作曲し、(2) 演奏者がそれを演奏し、(3) 録音者たちがそれを音源にし、(4) リスナーがそれを聞く、って形になっている。まあ実はレコード芸術とかも(3)の要素はあるわけですが、オーディオファン以外にはあまり注意されない。ポップ音楽の場合は、作曲者と演奏者が同一の場合が多いし、最近は録音しミックスし音源にするまで一人でやったりしている。楽器やボーカルでもアドリブ等その場で生成される音の要素も多いし、音源には楽音(楽器や声)以外のものも入れられることが多いので、そもそも「曲」というのがどういう単位なのかもよくわからない
そういうわけで、ポップ音楽とかを「聞く」ときには、例のリズム、ベース、ハーモニー、メロディーという四つの層(レイヤー)ってだけでは不足なのす。さらにそうしてできている「機能的な音楽的要素」の他に、それがどのようにしてリスナーに届く音源の形(shape)になっているのかも意識しないとならない。これが今回紹介しているムア先生の本の最初の章が「shape」っていうタイトルになっている理由なわけです。
んじゃ、四つのレイヤーの他に何があるか。これは「サウンドの感じ」以上にはなかなか説明しにくいですが、ムア先生の分類によれば、音源の位置(location)と音色(timbre)だということです。まあもっと分節化できそうな気がしますが、けっきょくはどこでどんな音色の楽器や楽器もどきが鳴っているのか、ということですわね。
楽音の位置について、ムア先生の提案は、録音音楽を聞くときに、「サウンドボックス」に注意してみようってなことも言ってるっぽい。これは先生独自の用語で、日本だと「音像」とか「音場」とか言われるやつですね。ステレオ音源だと音がスピーカーやヘッドホンの左と右に分かれているわけですが、楽器や声はその音のフィールドのどこかに位置していて、それがけっこう重要なこともある。
まあヘッドホンとかで音楽を聞くのは生音やスピーカーで聞くのとはまたちがった快感があるんですが、あの快感の源泉の一つは、頭のなかに一つの「サウンドボックス」と呼べるような空間がひろがって、そこのあちこちでいろんな音が鳴るからですわね。
まあステレオ初期は音を動かすのがはやってて、まあ典型は
このトラックは何回も言及してますが、最初から聞いてもらうとこうしたサウンドボックスってのを考えるときにはシンプルでいいと思う。
まんかにボーカルがいて「あふっ」ってセクシーな声あげると、左のスピーカーから歪んだギターが飛び出す! この左のギターは、ギターアンプのスピーカーのごく近くにマイク置いてる感じで、スピーカーの紙が動くのが聞こえるようだ。ところが、このごく近いスピーカーの音が、部屋(?)のどっかに反響して、中央〜右でそのエコーが鳴っている。すばらしい録音アイディア。そして重いベースギターが真ん中に入ってきて、さらにドカスカタカスタと重いドラムが入ってきて、これがヘビーメタルだ!それぞれの楽器が微妙に反響して「空間」って感じになっている。
一瞬で聴覚的に一個のボックスができあがって、そこで各楽器が振動している感じ。これはすごい。スネアドラムのスネア(シャラシャラいう響き線)やシンバルとかも、残響うまくとらえていて音源の上の方に広がる感じで、これ以上の名録音っていうのはないくらいですね。
曲のまんなかのごちゃごちゃカオスな部分で効果音が右〜左と動いて気持ち悪いとか、そういうのも、ステレオ録音最初期によくやられたけど(ビートルズの時代からいろいろあります)、この録音は非常に効果的。ぶっとぶぜ! とにかくこれが録音芸術でのサウンドボックスの効果ですわね。
んで、中間のブリッジ、ベースとドラムと左のギターが派手に「デンデンっ」ってやって、右でリードギターがクワァーってソロ弾くとろろ、このギターの位置と音色も最高ですね。
それまでのカオスなパートは、なんかドラッグでもキメてる感じをねらっていて、音は左右に動くわ、残響は多いわで幻想的な感じなんですが、デンデン!のあとの右ギターは、ものすごく近い! もう目の前でギター(とアンプ)弾かれてる感じ。これは残響切ってるからでもあります。いきなり顔の前っていうか目の前にジミーペイジ先生の下半身についているアレ(ギター)をつきつけられた感じですね。どうだ、おれのアレ(ギター)はこんなにあれだ!すごいだろう。すごいです。すごいー。
もうアレ(ギター)をこんなふうに目の前につきつけられたら観念するしかしょうがないですね。暴力だ!あとはもう興奮の絶頂。ロバートプラント先生のリバーブかかった声にやられるしかない。
そして、ぎゃーん、ってなったあとの「Way down inside、Woman, you need it」「ジャッジャーン」。おまえはいやだいやだと言ってるが、ちゃんと反省してみれば、おれのこれ(サウンド)が欲しいんだろう、正直にいえ、へへへ、おれにはわかっているぜ、ということです。そういうことなので、ああ、そうなの、必要なのです、と答えざるをえない。屈服。
そしてここの、エコーの方が先に来るというへんなヤマビコもどうやってとってるかわからない有名なところで、本体よりヤマビコの方が早い。一説によると、一回録音したテープを消しそこねてこういうふうなへんなことになったということらしいですが、そんなうまくいくかなあ。私は計画的にこのヤマビコ→声本体をつくってると思いますね。
とにかくこれ名曲名録音名プロダクションで、曲や演奏でよい曲というのはあるわけだけど、録音まで含めて総合的にこれ以上の曲というのはロック史上でもめったにないと思う。トップだろう。
というわけで、みなさん「サウンドボックス」という意識で音源聞きなおしてみてください。
ちなみにツェッペリンわからないという人が多いのですが、それは残念なので鑑賞方法を習熟しましょう。コツは、(1) できるかぎり大きな音で聞く、(2) 座ったまま聞かずに、体を動かす。この「体を動かす」のが、だいたいどんくさい例の白人中流階級ティーネイジャーのあれな踊りになってしまうのは我慢することです。
もっとおしゃれにツェッペリンを理解したい人は、まずQuestlove先生のライブ音源を死ぬほど聞いて黒人的なかっこいい体の動かし方を学んでからツェッペリンに戻る。クエストラブ先生を聞けば、ジョンボーナムが何者であったのかがわかるようになる。
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