最近活躍している谷田川知恵先生の強姦被害者16万という数字は雑すぎる

下のを書いたあとに、問題はもっと複雑だし、たしかに性暴力被害の問題は深刻だよなと思って消してたんですが、まあ一回公開したものだし置いときます。また考えなおします。


谷田川知恵先生という方は実は前から注目していて、どういうかたかわからないのですが、いろいろ雑な印象があります。ジェンダー法学会が出してる「講座 ジェンダーと法」シリーズの『暴力からの解放』(2012)での谷田川先生の「性暴力と刑法」から。

年間16万人の女性が強姦されているが、警察に届けられるのは数%にすぎず、検挙、起訴されて有罪が言い渡される加害者は500人にすぎない—-暗数が有罪人員の300倍にもなるのは女性差別の強い異国の話ではない。日本である。

16万人というのはすごい数で、これはほんとうに早急に対策打たないとならないと思います。私はとりあえずセックス禁止、セックス免許制がいいと思いますね。レイプしない講習を受けて、ペーパーテストと実技験受けて、合格者だけがセックス可能にして、違反があったらすぐに免許取り上げ。

しかし谷田川先生はどっからこの数字をもってきたのでしょうか。暗数が300倍というのは異常すぎます。
性犯罪の暗数はみんな興味があるのでいろんな数字が出されていますが、300倍というのはさすがに見たことがない。

谷田川先生のこの解釈はずいぶんオリジナルなもので、例の内閣府の調査から自分で解釈しています。

内閣府男女共同三角局「男女間における暴力における調査報告書」(2012)では、全国20歳異常から無作為抽出された女性の1.25%が過去5年かんに「異性から無理やりに性交された」と回答しており、5年以上前であった者を含めて3.7%しか警察に連絡・相談していない。日本人女性人口が6,500万人として年間0.25%の16万人が「無理矢理に性交」され、警察へは6000人ほどしか連絡・相談していないと推計できる。この調査は2005年から3年ごとに行なわれているが、この傾向に大きな変化はない。警察では相談のみで告訴のない強姦事件の立件は稀であるから、2010年犯罪統計における強姦認知件数が1,289件、検挙件数が995件であることは推計と矛盾しない。同年検察統計における強姦起訴率は45.2%、検挙件数は568件。同年司法統計では、強姦単独の統計はなく、「わいせつ、姦淫、重根の罪」の総計で地裁における通常第1審の無罪判決は5件。(p.197)

ということです。あれ、なんかへんだな思って平成23年の調査みたのですが、これですよね。
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/h23danjokan-8.pdf

これは「異性から無理矢理に性交された経験の有無」を聞いて(7.6%)、さらに「あり」の人のなかから5年以内に被害を受けた人を特定している(16.4%)。0.076 * 0.164%ってんで0.0125ぐらい、ってんで女性の1.2%が5年以内に被害を受けてます。たしかにこれは少ないように見えてたいへんですよね。でこれを5年間でわって1年あたり0.24、まるめて0.25%ですか。ここまでは(こういう紹介の仕方がフェアなのかどうかはわからないけど)よい。

でも、これって、被害をうける女性の年齢を考えてないっしょ。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_6_2_1_6.htmlにあるとおり、20代と30代がほとんどなんよね。だから女性全体の6500万人に(簡単に)拡大してはいけない。まあ「あらゆる年代・特徴の女性が強姦の被害者になる」っていう例の反レイプ神話的フェミニスト立場の反映でしょうが、なんの根拠もなくそういうことしていいんですか。

年間500件の強姦有罪件数を16万件に引き上げることを目指すなら、男性による女性の同意の主張をいっさい認めないことが有用であろう。……要するに、男性が女性の同意を主張するには客観的証拠を必要とするのである。 (p.193)

なんですかこれは。

フェミニストとか性暴力とか、本気でこの問題考えたいひとはちゃんとやってくださいよ。谷田川先生は最近話題になったニューヨークタイムズの記事のインフォマントみたいだし、立憲民主党だかの政策にもかかあわりつつあるみたいだし、ちょっと心配しています。

(追記 2019/05/11) 偉い先生が計算してみてくれました。→
「男女間における暴力における調査報告書」の「異性から無理やりに性交された経験」の被害率を補正してみた

まあ、おそらく万の単位で被害者がいるだろうっていうのは問題だと思うのです。そんなに「盛る」必要はないので、淡々と事実を推測していけばいいと思う。


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2件のコメント

  1. 数値を確認しました。年齢の影響もあると思いますが、調査対象が少なすぎて統計誤差が大きく暗数を出すのは無理、というところが大きいと思います。被害の多い20代女性で見るとはっきりしていて、
    平成23年度調査で、無理やり…あった20人、警察に届けた0人→暗数∞倍
    平成29年度調査で、無理やり…あった13人、警察に届けた1人→暗数13倍

  2. 各所を見て谷田川氏の文章
    http://user.keio.ac.jp/~mariko/sexhar/yatagawa.pdf
    について次のように考えがまとまりました。

    1. 谷田川氏は、「男女間における暴力に関する調査」の結果から計算した女性の強姦被害者数推定値16万人を「被害者数推定値」ではなく「暗数」と呼んでいる。これが谷田川氏の文章の最も良くないところ。

    谷田川氏が計算の元にした「男女間における暴力に関する調査」が、全国の男女から無作為抽出した調査から被害の数を出しているのは谷田川氏が注(1)で書いている通り。警察に届けられた数から逆算して被害数を出しているのではない。この被害率は暗数の影響を受けない。(暗数の推定に関係するのは、被害数のうち警察に届けた割合。)
    谷田川氏自身が注(1)で出した年間被害率0.25%は、暗数の影響を受けない被害率である。
    にもかかわらず、谷田川氏は「推定被害者数」ではなく「暗数」と呼んでいる。谷田川氏は「暗数」(警察に報告されない被害数)が何を指すのかも忘れて、自分が何を計算したのかも分かっていないのではないか。

    なお、この1年あたり0.25%という(強姦の過大見積もり)被害率は、米国の同様の調査NISVS(RDD使用。警察届け出数から出したのではない。暗数の影響を受けない。)の結果との比較に使える。(より正確に比較するには年齢ウェイトや既遂未遂合算等々必要な考慮が必要。)

    NISVSの結果の例は次の通り。
    https://www.cdc.gov/violenceprevention/pdf/NISVS-StateReportBook.pdf

    レイプ(既遂未遂合算)についてアメリカ全体では
    Table 3 .1
    Lifetime and 12-Month Prevalence of Sexual Violence Victimization — U .S . Women,
    NISVS 2010-2012 Average Annual Estimates
    12 Month
    1.2%(1.0-1.5%)推定被害者数1,473,000

    レイプから痴漢?まで含む、では
    Table 3 .10
    12-Month Prevalence of Sexual Violence Victimization by State of Residence — U .S . Women,
    NISVS 2010-2012 Average Annual Estimates1
    United States全体4.0%(3.6-4.4%)推定被害者数4.804,000
    New York州3.9%(2.5-6.2%)推定被害者数310,000
    となる。

    暗数を持ち出す人々のおかげで、被害数の推定は警察への届け出数からでないと出せないと思い込む人もいるかもしれないが、
    警察への届け出数を使わない被害数の推定は上記のように可能で、データも公開されている。

      「暗数は統計を使えない者の最後の隠れ家」(詠み人知らず)

    2. 谷田川氏の暗数300倍は、俗に言う暗数XXX倍とは異なる。

    暗数N倍と言うとき、本来なら

    N = 警察に報告されない被害数(A=暗数) / 警察に報告された被害数(B)・・・(1)

    とするのが正しいはずだが、分子が何で分母が何かを明示せずに、次のように使っている人が多いように思われる。(根拠は霊感)

    N = (警察に報告されない被害数(A=暗数)+警察に報告された被害数(B)) / 警察に報告された被害数(B)・・・(2)

    これに対して谷田川氏は全被害数=A+Bを暗数と呼んだ上で、

    300 = ((A)警察に報告されない被害数+(B)警察に報告された被害数) / 警察に報告されたうちの有罪が言い渡される数(C)・・・(3)

    で300倍と言っている。俗な言い方(2)に対して(3)では分母を変えているので注意。

    谷田川氏が俗な言い方(2)をするなら、谷田川氏自身が注(1)で全被害数のうち警察に届けるのが3.7%と書いているので、

    N = 1/ 0.037 = 27倍となる。

    なお、谷田川氏が日本について300倍とした倍率(3)は、米国については19~500倍となる。(ここに出ている数字が正しいかは要確認。)
    http://www.ncdsv.org/ncd_linkssexviolence.html
    19=100/5.2、500=100/0.2

    3. 16万という数字そのものは、総人口6500万人を前提とすれば(1.2倍程度過大評価だが)それほどおかしくはない。しかし、サンプル数が少ないことによる被害率推定値、警察届け出率推定値の誤差を全く見積もっていないのが良くない。
    (総人口に何を使うかの影響よりも、サンプル数が少いことによる誤差の影響の方がずっと大きい。)

    計算方法は谷田川氏のやり方(5年被害数を5で割って1年被害数とする)に倣い、年齢別人口分布を補正なしの場合と補正あり場合の被害率と警察届け出推定値の見積もりを下に示す。見ての通り推定の誤差が非常に大きい。(補正は単純に人口ウェイトを平成23年10月1日人口に合わせるもの。)

    なお、計算は下記サイトのものを使用
    母比率の信頼区間の推定 with Excel
    https://bdastyle.net/tools/confidence-interval/page2.html
    小標本のときのF推定

    人口は下記を使用。
    人口推計(平成23年10月1日現在)
    http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2011np/
    年齢(5歳階級),男女別人口及び割合-総人口(各年10月1日現在)

     20歳以上の年間被害率推定値
     0.25%(信頼区間下限0.07%~信頼区間上限0.63%)

     20歳以上人口を使った被害数推定値
     13.7万人(信頼区間下限3.7万人~信頼区間上限34万人)
     人口65万人を使った推定被害者数
     16.3万人(信頼区間下限4.5万人~信頼区間上限41万人)

     警察届け出率推定値
     3.73%(信頼区間下限1.22%~信頼区間上限8.50%)
     (被害数/警察届け出被害数)推定値
     26.80倍(信頼区間下限11.77倍~信頼区間上限81.81倍)

    年齢ウェイトのみ補正した場合

     20歳以上の年間被害率推定値
     0.27%(信頼区間下限0.08%~信頼区間上限0.64%)

     20歳以上人口を使った被害数推定値
     14.5万人(信頼区間下限4.3万人~信頼区間上限35万人)
     人口65万人を使った推定被害者数
     17.2万人(信頼区間下限5.2万人~信頼区間上限42万人)

     警察届け出率推定値
     3.75%(信頼区間下限1.23%~信頼区間上限8.53%)
     (被害数/警察届け出被害数)推定値
     26.67倍(信頼区間下限11.72倍~信頼区間上限81.42倍)

    4. 「無理やりに性交された経験」を「強姦」と言い換えるのは強姦を過大に見積もっていると思われる。
    理由:
    「男女間における暴力に関する調査(平成23年度調査)」
    https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00100201&kikan=00100&tstat=000001116798&result_page=1&second=1
    「問28 異性から無理矢理に性交された被害を相談しなかった理由」に対する回答「相手の行為は愛情の表現だと思ったから」が14で、この回答をした人の場合、被害者当人が強姦とは見ていないレベルではないかとの疑問があるため。
    (警察」に相談した人の数が5(問28の回答)なので、警察に相談した人の3倍程度が上のように考えて被害を相談しなかった。)

    設問「問21 異性から無理やりに性交された経験の有無(女性のみ)」では、被害者が犯罪と見るものと犯罪と見ないものを分離できていないのではないか。

    5.「年間16万人の女性が強姦」は、数字が正確だろうと不正確だろうと谷田川氏の文章の主旨には全く影響しない。
    16万人は単なる話の枕で、冒頭でショッキングな数字を出して「つかみはOK」とするコンサル仕草ではないのか。

    6. 「男女間における暴力に関する調査(平成23年度調査)」の「問30 異性から無理矢理に性交された被害にあったことを相談してよかったかどうか」の回答
    警察に相談5件、相談してよかった2件、相談しなければよかった3件
    警察以外の公的機関に相談3件、相談してよかった3件、相談しなければよかった0件
    家族や親戚に相談13件、相談してよかった8件、相談しなければよかった3件
    友人・知人に相談25件、相談してよかった21件、相談しなければよかった4件
    を見ると、谷田川氏の「年間500件の強姦有罪件数を16万件に引き上げることを目指すなら」は、被害者救済をどうするかよりは自分の専門分野のことだけを見ているのではないかと思える(専門の論文なら当然なのだろうが)。

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