恋愛の類型学 (3) スタンバーグ先生の恋愛物語理論

恋愛の類型学、つまりタイプ分けに関しては、ジョン・アラン・リー先生の恋愛の色彩理論ロバート・スタンバーグ先生の恋愛三角形理論が有名で、ネットにもけっこう転がっていますね。私もちょっと紹介しました。

スタンバーグ先生の三角形理論は1980年代のものですが、90年代に今度は「恋愛は物語だ理論」みたいなのを提唱して、三角形理論といっしょにして「恋愛の二重理論」という形にしてます。この「恋愛物語」理論はネットでは紹介されてないし、注目もされてないみたい。ちょっとだけ紹介。

スタンバーグ先生自身の本が翻訳されてるし、それ以降にも『愛の心理学』にもスタンバーグ先生自身が論文書いてるのでそっち見てもらえばいいのですが、講義のためにリストつくったので、まあ紹介。

この理論は、その名の通り、恋愛は、それぞれのひとにとってそのバックグランドやプロトタイプみたいなのになる物語・ストーリーがあるのだ、ってな理論。人によってどういうストーリーをもってるかは違っていて、それが似てたり近かったりすると関係はうまく行きやすいだろう、と。また個人としても、成功しやすいストーリー持ってるひとは成功した恋愛生活送りやすいかもしれないし、まずいのをもってるひとはまあ苦労するかもね、とか。

スタンバーグ先生が挙げてるのは25個とか26個とか、文献によってちょっと違うし、それですべてのタイプのストーリーが尽くされてるとも主張してない。まあ非常に大雑把な話で、理論と言えるのかどうかもよくわからん。ただあらかじめこういうストーリーを挙げていって、それに対応する質問紙を作っていろいろやってみるとおもしろい結果ができるかもしれないね、程度です。

ストーリは大雑把に下のように、そのストーリーが主に何に注目するかってのに対応して「協調的」「原作つき」「ジャンルもの」「パートナー」「関係」「非対称な関係」とかに分けられてるけど、これもまあいいかげんな分類に見えるけどまあ。

    • 協調的関係
      • 【旅】 人生は旅であり、恋人は旅の道連れである物語。目的へ到達するために二人が協力する。魔王デスピサロを倒したり、海賊王になったりするなかで仲良くなる。
      • 【編みもの】 いっしょに縫ったり編んだりしながら関係が作られる。おだやかでいいですね。少女漫画はそうあってほしいです。
      • 【庭仕事】 草木の手入れのように関係を大事に育てる。土を耕したり水や肥料をやったり害虫駆除したりたいへんです。ときどき剪定もせなならんね。
      • 【ビジネス】 パートナー関係はビジネス。金は力。クールでドライにいきましょう。パパ活?パートナーはそれぞれ役割(仕事)をもつ。二人で連帯して外敵やライバルと戦ったりもするかも。
      • 【中毒】 アディクション。一方が相手に強く依存し、相手の存在が人生にとって不可欠であると感じられる。強く、不安定な愛着。パートナーにしがみつくような行動。パートナーを失うことを考えて不安になったり。メンヘラ的。
    • 原作つき物語
      • 【ファンタジー】 王子と王女、騎士とお姫様。騎士が自分を助けてくれたり、可憐なプリンセスと結婚するなどといったことを日頃から期待する。授業で「あなたたちの大半には、白馬に乗った王子様は、来ません!」とか言うと大反発を受けるので注意。「でもカエル王子はプロポーズしてくるよ」とか言っても喜ばないし。
      • 【歴史】 二人の間に起こった出来事が消すことのできない記録となる関係。精神的にも物理的にも多くの記録をつけてゆく。「あのときのあれがこれの原因なのよね、記録も残ってます」。
      • 【科学】 科学的な原理や公式に従って関係が同分析されるかという観点で物語が構成される。生物学者や進化心理学者はそういう恋愛するのでしょうか。
      • 【料理本】正しいレシピを使えば関係はうまくいく。料理人とパトロンの関係。「うまくいく」方法をみつけたいという欲求。『ルールズ』や『草食系男子の恋愛術』の世界ね。ハウツー本は大事です。
    • ジャンルもの物語
      • 【戦争】 戦闘や交戦状態が重視される。恋は戦争。おそらくパートナーとの。でも相対性理論に「恋は百年戦争」っていう名曲もあるからそっちだろうか。
      • 【演劇】 恋愛には筋書きがあり、いかにもありがちな演技や場面や台詞がかわされるものだ。双方が何かの役を演じる。
      • 【ユーモア】 愛とは奇妙で滑稽なものである。明るく屈託のない関係を保ち深刻になりすぎないことが重要とされる。ウディ・アレン的?
      • 【ミステリー】 愛は謎。恋人たちは相手が自分のことを知りすぎないようにすべきである。一方が相手の情報を明らかにしていく過程。
    • パートナーに注目する物語
      • 【SF】 恋愛は理解しがたい奇妙な存在との遭遇。パートナーの奇妙さや不思議さが大事。『うる星やつら』は違いますね。
      • 【コレクション】 パートナーが大きなコレクションの一部として尊重される。パートナーとは愛着のない距離を取った関係。ドン・ジョヴァンニの「カタログの歌」の世界。
      • 【アート】 パートナーをその身体的魅力について愛する。パートナーの概念がうるわしく見えることが重要。身体的な美を愛する。。美の鑑賞者と美術作品の関係。パートナーの健康に気をつける。容姿が衰えると……。
    • 関係に注目する物語
      • 【マイホーム】 家庭を中心にする物語。恋愛関係が安定した家と家庭の環境を達成するための手段。
      • 【回復】 サバイバー的心象。恋愛関係は、トラウマから回復するための手段。救われたいですか。ひどい目に合ったけどあなたが癒やしてくれましたか。
      • 【宗教】 パートナーが神に近づくための手段、あるいは関係そのものが宗教。これも誰かが救われるんでしょうな。
      • 【ゲーム】 恋愛はゲーム。「勝つためにプレーするのさ」。勝者と敗者。興奮、面白み、人生をまじめに考えるべきではない。「こーいーはげーぇーむじゃじゃなく〜いきるこーとねー」
    • 非対称な関係の物語。このタイプのはだいたいやばい。
      • 【師弟】 愛とは、導くものと導かれる者のあいだに生まれるものである。一方が情報を提供し、他方がそれを受け取る。セクハラの原因。
      • 【犠牲】 一方が自ら譲歩し、他方がその利益を受取る。愛することは自分を犠牲にすることであるという物語。たとえばワーグナーの『さまよえるオランダ人』とか、いみなくけがれなき処女が犠牲になるけどあれなんですかね。
      • 【政府】 一方が他方に対する支配権を持ち管理する。管理管理。
      • 【警察】 一方が他方を監視し、ある枠組みの中に押し込む。パートナーが規則をまもっているかしっかり監視していなければならないと考える物語。または自分が監視される必要があると考える物語。ウォッチングユー。
      • 【ポルノ】 愛は不潔であり、愛することは相手を貶めたり、相手から貶められたりする関係であるという物語。サド公爵とか、『O嬢の物語とか』。谷崎潤一郎先生の『痴人の愛』も近いか。
      • 【ホラー】 一方が相手を怖がらせ、相手が怯えるような関係であるときに両者の関係が興味深いものになる。『羊たちの沈黙』もまあ恋愛物語といえるのかもしれんですね。

まあそんなおもしろいものでもないけど、このスタンバーグ先生の「物語」ていうのは、まさにわれわれが「恋愛観」と呼ぶようなものだろうな、って思います。学生様たちには、「あなたは自分はどの物語を望みますか」とか「これまではどれですか」とか聞いてみるとおもしろいかもしれない。

私たちはどういう物語を生きたいのか、そして実際にはどういう物語を生きてるとおもっているか、っていうのは、恋愛にかぎらず人生についてもちょっとおもしろいところがありますね。それはそのうち。

下のは堅い心理学の本で、学問としての心理学に興味がないとなにをやってるのかわからないと思う。

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