セックスの哲学史とかいって哲学史におけるセックスの問題を扱おうとすると、どうしたって「セックス」というよりは「愛」とか「エロース」とかそういう問題としてとりあつかことになります。まあ私はそもそも西洋人は性欲と愛との区別あんまりついてないんじゃないかと疑ってるんですが。
とりあえず哲学史として見てみると、愛っていってもloveとかamourとかerosとかいろいろ出てきて混乱しちゃいます。
こういうのどう扱ったものなのかいろいろ考えていたんですが、哲学史を見る前にあらかじめ20世紀の心理学における性愛の類型とか使って整理しとくのがいいんじゃないと思い至りました。
社会心理学と呼ばれる心理学の分野では対人関係なんかを研究していて、恋愛とかの親密な関係はもちろん主要ターゲットの一つです。でも以外に「恋愛」がすっきり整理されたのは最近なんですよね。そしてここ最近でえらく進歩している。
恋愛心理学とか一般向けのゴミみたいなのは山ほどありますが、ちゃんとアカデミックな裏付けがあってまともに読めるものは少ない。入門は金政先生たちの『史上最強図解 よくわかる恋愛心理学』ですね。とりあえずこれ読んどけばだいたいOK。この本が出る前は松井豊先生の『恋ごころの科学』が国内最強だったんじゃないかな。いまだによい本なはずです。読みましょう。中級はスタンバーグ先生が編集した『愛の心理学』ですか。でもこっちはふつうの人が読んでもなにやってるかわからないと思いますね。あとハットフィールド先生たちやヘンドリック夫妻のものなんかが有名です。
恋愛の色彩理論
愛のタイプみたいなのについては、リー先生(Alan Lee)って人が、1970年ごろに提唱した「恋愛の色彩理論」The Colors of Loveってのが有名ですね(1973年に出した本は入手困難なので、私にメールしてくれたらアレします)。恋愛にはいろんなタイプがあって、人によってずいぶん違う。古来からの文学作品とか哲学とか調べてみて、どういうのが「愛 love」と呼ばれているかを集めてみる、って研究してみたんですね。その研究の結果、リー先生は恋愛にはだいたい六つぐらいのタイプがあって、それらが興味深い形で関係してるんじゃないか、みたいな仮説を立てたわけです。まあ人々を観察していると、それぞれ同じような恋愛をくりかえしている気がしますね。それぞれの人にはそういう「恋愛のスタイル love style」がある、と。
先生はまず、色と同じように恋愛には三つの基本的なタイプ、原色があるんじゃないかと考えた。それは
- エロス:情熱的な恋愛、身体的な美や興奮を重視する。ビジン、イケメン、ナイスバディ。とりあえずその時は一人を強く求めて、一生この人とか思いつめちゃう。
- ルダス:遊びの恋愛。恋の駆け引きを楽しむ。わくわくするのが大好き、みたいな。享楽、多様性、変化を求める。
- ストルゲ:友情のような恋愛、長続きする親密さを重視する。ほんかわ。碇君といるとぽかぽかするから、碇君にもぽかぽかしてほしい。
の三つ。
さらに、これらの原色の混合としていくつかのタイプがある、と。
- マニア:強迫的な恋愛。相手に執着し、モメる。粘着。強い束縛。目が逆三角形になってます。
- プラグマ:実用的な恋愛。計算づく。頭のなかにあらかじめ「チェックリスト」みたいなの用意しておいて、基準をクリアしていたらおつきあいする、みたいなの。お金もちだから好き、とか。親医者でお金あるし、背が高いから並んで歩いても大丈夫だし、京大生だから一流企業入れそうだし、レポートも書いてもらえるしー、とか。
- アガペー:無償の愛。相手のために尽して尽して見返りを求めません、みたいな。あの人のために私は身を引きます、とか。フィクションには登場するけど現実には見つけられない。
この六つを並べると、あたかもゲーテの色彩環(文学者のゲーテ先生は色彩の研究でも有名でした)みたいになる、と。エロスとアガペー、ルダスとプラグマ、ストルゲとマニアがそれぞれ補色のように対照的に並ぶよ、というわけです。
その後リー先生は理論を発展させて、あと二つのタイプを加えました。
- ルダス的エロス:とりあえず美人・イケメンなら誰でもいいから行くってやつですね。ちゃんとしたエロスに比べると真剣さが足らん!
- ストルゲ的ルダス:友達みたいな感じでいろいろ楽しくデートしたりする感じですね。別に美人イケメンじゃなくても楽しくいられればいいです。
ふむ。こうなると、自分がどのタイプの恋愛するのかっての気になりますよね。http://gallebasra.sakura.ne.jp/lets2.php でテストできます。どういう人が作ってるか知りませんが、他のページもしっかりしているので大丈夫でしょう。やってみましょう。
あとスタンバーグ先生の「恋愛の三角形理論」ってのが有名なんですが、これは別エントリで。
Views: 420
コメント