高橋幸先生の「近代社会における恋愛の社会的機能」(4)

んで、一番困ったのが次です。

情熱を心拍数の上昇だの性器の活性化だので考えると(つまり、性欲や性的興奮ということで考えると)、あんまり情熱は長続きしませんね、ってことになってしまう。まあそういう興奮があるのは交際して数年ですか?詳しくはフィッシャー先生の『愛はなぜ終わるのか』読んでください。しばらく前に、多くのマンガや朝のテレビでやってた「セックスレス」問題ってそういう問題ですね。

しかしながら、スタンバーグの議論を丁寧に見ていくと、長期間持続するような「情熱」のあり方についても論じられていることに気づく。それを示すのが……「完全な愛」である。完全な愛とは、「親密さ」「情熱」「決断/コミットメント」という三つの要素のすべてを備えた愛のことを指す。

「完全な愛」でスタンバーグ先生がそういうの考えてたのはその通りで、これはOKです。でもそれは理論上の「理想」ですよ?そういう状態はあるかもしれないけど、ふつうは長続きしないってのが現実。ところが。

……三つの要素を備えた「完全な愛」とは、具体的には「15年以上続いたパートナー関係でなお、お互いをとても近く(close)感じており、すばらしい性的関係を持ち、相手以外の誰ともこのような幸福な関係を想像することができないとお互いに感じている」ようなもののことを指すと説明されている (Sternberg 1997:22)。…… このような形で、スタンバーグの愛の三角理論では、長く持続(サバイブ)するような情熱というあり方もまた想定されていることが確認できる。(p.11)

そりゃいちおう理念型としては想定しないと三角理論にならないわけですが、だからといって実在しているというわけではない。それに、そもそもこの Sternberg 1997はこれだと思うのですが( http://vivanautics.com/pdf/Sternberg1997.pdf )、私この一文を発見できないのです。ありますか?ページはなんらかの関係で変更されているのかなあ。

この節の最後はこうなってます。

情熱のみからなる関係は、情熱が消えるのと同時に関係そのものも終わるために短期間の関係となりがちである。だが、情熱だけでなく、お互いがよく知り合うことによって生まれる親密さや、相手との関係を維持しよういう意志が伴った愛がその関係に加わることで、関係は長期的なものとなりその中で「情熱」が持続することがある。これが、 スタンバーグの議論から読解できることである

内容はもちろん文句ありません。まあ恋愛関係で、性欲とかあんまり感じなくなっても、親密さとコミットメントが関係を持続させてくれる、っことですよね。場合によっては「情熱が持続」することもあるでしょう。しかし、これが「スタンバーグの議論から読解できる」っていうのはどういうことでしょう?これが一番よくわからんのです。まあ15年たってもラブラブで毎日相手のことを考えてセックスとかしているカップルはいるかもしれないけど、それはスタンバーグの「議論」から読解するものですか? 調査したらそういうカップルもいることがわかる、っていうことではないでしょうか。

つまり、私は高橋さんが何の議論をしているかよくわからないのです。現実の話なのか、トライアングル理論の話なのか。

恋愛の要素がスタンバーグの指摘する三つの要素で説明できるかどうか、というのは理論の問題です。スタンバーグの考えてる意味での(性的なものを中心にする)情熱が長続きするかどうか、というのは事実の話です。「理論」は要素について尺度をつくってアンケートとかとってみて、人々がどういうふうに恋愛関係を結んでいるのかを調査するのに役立つ。それだけのことです。いったい心理学における一理論と、それをもとにした尺度の提案の何を「読解」する必要があるのでしょうか。

情熱が衰えても、親密さは増やすことができるし、コミットメントが健在ということは十分にありえる。性的情熱なんてのは我々の人間関係においてはそれほど重要じゃない、そういう話ならわかるんですが、なぜコミットメントと親密さが「情熱」を維持させてくれる、というような話/解釈をする必要があるのかよくわからないのです。そういう人々もいるかもしれないし、一般にはそうじゃないみたいだ、っていう話でどうして問題なのか。

ここ https://yonosuke.net/eguchi/archives/1193 にも書きましたが、私が学生様たちに「完全な愛」の例としてあげるのは『ベルサイユのばら』のオスカルとアンドレです。

親密さ = おさななじみ、いつもいっしょ、なにもかにも知っております、情熱 = 世の中てんやわんやで今にも死ぬ、汁出まくり、コミットメント=「一生涯愛しぬくとちかうか!?」何度読んでも最高。「完全な愛」はこういう人々のためにとっておかなければなりません。

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