「反進化論法裁判のさなかで…」
ここはまあそんな気になるところはありませんでした。たしかに反進化論の人々も揶揄している。そしてなによりも 宗教的/イデオロギー的な信念のために目の前に見えている事実を歪めてしまう人々、そして知識を閉鎖しようとする人々に反対 していますわね。しかし、同時に、そうした閉鎖的な人々が なぜそうせざるをえないと考えているか も描いている。
そして反進化論だけでなく、公民権運動についても、ベトナム戦争についても、冷戦についても、巨額の経費と人命を使った科学開発競争についても、宗教についても、国家についても、人類の未来についても、そして美醜や愛についても、考えさせられる。てんこもりでテーマ的には文句なしの名作ですよ。『ダーティハリー』が映画史的にS級だけど普遍的な力がちょっと足りない、みたいなことを前に書いちゃいましたが、この『猿の惑星』は長いアクションシーンがタルくてその部分はB級だとしても、現代にも通じる普遍的な力を維持しているA級映画です。イデオロギーによって理性を押えこみ、事実を否定し、発言を封じる、そういうのってもう普遍的なもんですからね。いつの時代にも力がある。
ただ最後のこれ。
それにもかかわらず性差別的なのは、やっぱり昔のSFって感じですよね、本当に。開明的なSFって、性差別や性的マイノリティー差別は批判してないことが多いから、そういうことなんだろうなと思います。
くりかえしますが、この映画が特段に性差別的だっていうのは、私にはあんまり響きませんね。当時としてはまあそこそこ、あるいはかなり進歩的だったんじゃないでしょうか。くりかえしますが、 昔の映画見て「性差別的だ/男性中心的だ」って言うのは簡単 なんですが、どういうふうに性差別的かはちゃんと説明する必要はあると思うんですよ。そして、それがなにとひきかえになっているのか(たとえば俳優の人気度?集客の可能性?)も考える必要がある。さらに、仮に微妙に性差別的だとしても、前のエントリで書いたように、ジーラの人物造形はすばらしく、未来がある。今作られたものならともかく、50年以上昔の映画を評価しようってのなら、そういうのをもっと評価してあげてもいいんじゃないでしょうか。
「動物というメタファー」
もう一つ問題なのがここです。
人間と猿を逆転させて、知性って見方や背景によって変わってくるものなのだからそれを根拠に動物に対して非人道的な扱いをしてはいけないんだ、という話としてとらえることは十分にあり得ると思うんですよ。
その通り。私は最初これは動物倫理映画だと思いましたね。いまでもそう思ってます。
ところが、そのあとの「ただ、映画で動物の権利の話をするのって難しいんですよね」という先生の論理がわからない。こんな わかりやすく成功している 映画を目の前にしているのに。
『ボーンズ・アンド・オール』はカニバリズムの話だけど、もともとビーガニズムの話だったらしいがぜんぜん気づかなかった、って話が出てきますが、この連載記事のすぐ後ろで「原作は原作、映画は映画」って話をしてるじゃないですか。んじゃわからなくていいじゃないですか。
たぶん動物の権利やビーガニズムのような話を映画で表現するのって意外と難しいんだと思うんですよ。人間にあてはめて人間にわかりやすいよう表現すると、全部が人間世界の話だと解釈されてしまうような気がするんですよね。
これもわからない。くりかえしますが、なぜ 成功している映画を前にしている のに「難しいのだ」になるのか。「全部が人間世界の話」という表現もわからない。
なにを言おうとしているのかぜんぜんわからない節でした。誰か説明してほしい。
先生と関係なく一つ指摘しておきたいのは、『猿の惑星』のようなタイプの作品でいわれているのは、「ヒューマンもエイプと同じ 能力 をもっているんだから同じ権利(エイプ権/人権)を認めるべきだ、って暗に(そしてジーラ博士によって)明に主張されているんですが、これは「能力」に関しての話なので、んじゃ同じような能力をもたない動物、たとえば馬は使役していいんだな、って話になりやすいんですよね。実際は 少なくとも 同じ能力をもっている存在者は同じように扱うべきだし、そうじゃなくても苦しみを感じる存在者に残虐な行為は控えるべきだ、って主張なんですけどね。
ここらへんにひっかかってなにか言いたいことが言えない人々がいるかもな、とは思いました。あと、まあああいうふうに動物の扱いを考えさせられると、牛さんや豚さん食べてて大丈夫なのか、っていうこと考えなきゃならなくなるから、あんまり考えたくない人もいるだろうとは思いまう。
続き → https://yonosuke.net/eguchi/archives/17384
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