言論の自由と悪口の関係については興味があって、昨日Yongという先生の「言論の自由はヘイトスピーチも含むか」っていう論文(Yong, C. (2011) “Does Freedom of Speech Include Hate Speech?,” Res publica , 17(4))読んでたんですが、ヘイトスピーチでありえるものを分類してて興味深かったです。
先生によれば、ヘイトスピーチと呼ばれるやつは最低四つぐらいのカテゴリに分けられて、「言論の自由」にもとづいた法的な対応なんかはそのカテゴリを意識して考えられるべきだそうです。
四つっていうのは (1) targeted vilification、(2) diffuse vilification、(3) organized political advocacy for exlusionary and/or eliminationist policies、(4) other assertions of fact or value which constitute an adverse judgment on a identifiable racial or religious group、ということだそうです。
(1)のtargeted vilficatioってのはまあ「誹謗」、敵対的な悪口ですが、特に特定の人物やごく狭い集団をターゲットにしたものですね。ターゲット誹謗中傷。そのときに、人種とか民族とか信仰とかを使うので「ヘイトスピーチ」に入れられることがある。面と向かっての「この〜が!」「XXめ!」とかの罵倒とかがこの部類に入る。まあこんときに「このおたんこなす!」ぐらい一般的な罵倒語をつかってもヘイトスピーチになるかわからんでしょうな。やっぱり特定の属性を使って罵るからヘイトスピーチになる。
ターゲット誹謗は、対話とか討議とかじゃなくて侮辱とか侮蔑とかにも分類される悪口で、その直接の相手、聞き手、オーディエンスに敵対的で、おもに精神的に傷つけようとしている非常に悪質なものです。言われてる方、聞いてる方は当然いやな気分になるわけですが、こうした悪口の目的はまさにそうした感情的な反応をひきだすことだ、と。それは感情的な対立から報復的なスピーチ、そして最悪の場合は現実の暴力にまでつなります。むしろそうした「反応」をひきづりだす言語行為ですわね。胸がつまるというよりハラワタが煮えくりかえる。
個人的には、他人を侮辱し罵倒するときに、その人が所属しているグループやら出自やらをひきあいに出すと有効な場合があるのはなんでだろう、みたいなのを考えてしまいますね。
(2)のdiffuse vilificationっていうのも悪口、誹謗ですが、こっちは特定の対象がいるというより、広いグループに対する悪口で、特定の 人物 を誹謗しているというよりはグループ全体を誹謗する、「あの(人種とか民族とか)のゴキブリ連中は〜ですからな!」みたいなタイプのやつですね。拡散悪口砲。さきのターゲット悪口は、悪口の対象、敵とした人物たちを面前にして直接発言されたり、ツイッタのリプライで投げつけられたりするわけですが、こうしたスピーチはむしろ自分にたいしてあるていど共感的な態度を期待できるような人々の前でおこなわれることが多い。このタイプのやつはしばしば象徴(シンボル)的な表現になることがあり、上にあげた「〜のゴキブリ連中」「寄生虫」「うじ虫!」みたいな形になったりする。
このタイプの誹謗は、その当人に聞かせることは名目的には目的になってないですが、もちろん言論というのは広がるものだから誹謗されているグループの人たちの耳に入ることは計算されている。むしろ、そうした敵対するグループの人々をなにも言いかえせない、なにもできないバイスタンダー、傍観者にしてしまうことも計算されているわけです。悪質。こっちは直接自分に向けられたものでなくdiffuseしてる、拡散しているために反応しにくいところがあり、それがハラワタとかにたまってきて苦しい。
上の二つは単なる罵倒みたいな形になることが多いわけですが、(3) organized political advocacy for exlusionary and/or eliminationist policiesは、あるていど整理された主張で、「〜人をこの国から追い出そう!」みたいなそういう人々(一部は共感的、一部はまだ中立)の集団に対する訴えの形になるやつ。ヒトラーの演説とかそういう感じですか。排外デモとか、排外主義者とかの演説会でやられるイメージ。
(4) other assertions of fact or value which constitute an adverse judgment on a identifiable racial or religious group、っていうのは、「〜を排除しようではないですか!」みたいなことまでは言わないけど、あるグループに不利になるような事実や価値判断を述べるやつです。一見すると形式的には学術的な体裁をとってたりすることもあるでしょうな。
Yong先生は(1)はそもそも言論の自由に関する法(おそらく英国法)の基本に存在する原則が関心をもつ(カバーする)ようなタイプの言論ではないし、(2)と(3)は法やその原則が関与するスピーチだが保護はしないタイプのものだよ、保護に値しないよ、せいぜい(4)が言論の自由で保護されるものだ、って言ってます。この論文すっきりしていて読みやすいので興味あるひとはどうぞ。
この論文読んで、たしかにわれわれは「ヘイトスピーチ」とか「差別的表現」とかひとくくりにしちゃうけど、こうやってその対象や機能や目的なんかを分類しといた方が規範的な議論もしやすくなるだろうと思いますね。「ヘイトスピーチ」にかぎらず、「差別的表現」や「悪口」なんかもこういう形で分類しときたいですね。
→ おまけの「定義は選言の形でもかまわんよ」もあります。
↓の本もおすすめ。図書館に入れといてもらいましょう。
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