前のエントリ https://yonosuke.net/eguchi/archives/13333 の続き。
あとワイツァー先生によれば、売買春の実証的調査とかでも、注目浴びやすいものと無視されがちがものがある。売買春を調査するんだ!ってな話になると、
女性、ストリート、非合法の売春者は注目され調査されやすいけど、客や業者、男性やトランスジェンダーのワーカー、インドアのワーカー、合法のワーカーなんかはあんまり調査されてないらしい。まあこれは下の表の左側のワーカーの人々がいっぱんに悲惨な仕事をしていて、抑圧され搾取され虐待されている被害者であるから、という意識からですわよね。(実際に被害受けている可能性も高い)
注目されやすい | 調査不足 |
ワーカー | 客と業者(マネージャー) |
女性ワーカー | 男性・トランスジェンダー |
ストリートの売春者 | インドアの売春者 |
非合法 | 合法 |
日本だと全体に調査が足りないと思うんですが、新書とかで話題になるのは、「抑圧パラダイム」的な傾向の著者のものだと、若年女子とか、最貧困女子とかそういう厳しい生活を送ってる人々か、あるいはセックスワーク系だとファッションヘルス(?)とかのいわゆる箱もの風俗でわりと楽しくやってる人々が中心で、お客、業者、男性ワーカーとかの話は少なそうな気がしますね。 まあそうした調査の話も大事なんですが、私がワイツァー先生ので考えたのは、やっぱり「抑圧パラダイム」の方法論の問題点ですね。
実際、抑圧パラダイム≒ラディカルフェミニズムのライターの人々の書き方には私も問題があると思っていて、たしかに世の中にはいろんな被害や差別や搾取や不正義があって、喫緊の課題なわけですが、それを解決するために、業界全体に過剰に悪しきものとして表現したり、自分たちに対する批判や、自分たちに不都合な調査や意見や文献を無視したりする傾向はあるように思うのです。
このブログではフェミニズムの文献とかの重箱の隅をつつくような記事をたくさん書いているのですが、ここ20年以上フェミニズム勉強して、どうもやっぱり文献参照その他ちょっと問題があるように思っているわけです。
まあセックス産業とかポルノ産業って実際にどうなっているのかというのはそれに実際に関係している人しか知らないところが多くて、制作・サプライヤー側はもちろんごく少数派だし、ユーザーの方にしても、前にも書いたようにたとえば風俗みたいなの使うのはたかだか男性全体の3割ぐらいしかいないようだし女性のほとんどは知らない世界、ポルノ読む男性は多いだろうけど女性は関心ない人も少なくないだろうし、けっきょくわれわれは知らない世界が広がっているわけです。そういうときに報道されたり注目されたりした悲惨だったり悪逆だったりする例を見て一般化してしまうのは危険であり、場合によっては偏見的・差別的になってしまう可能性がある。
まあそうじゃなくても、「いろいろある」みたいなのを調査したり改善を考えたりするのは面倒なので、「ぜんぶ批判!ぜんぶ禁止!」とかそういうラジカルな思考や方法をとりたくなってしまうんですが、それってそこにあるいろんな人々の利益を無視することになってよくない1。
さらには我々の思考のクセとして、あるカテゴリーにはいろいろと共通する性質があるはずだ、って思いこみやすい。セックス産業・ポルノ産業っていうとそれは一つのカテゴリーであるので、そこの一部にある搾取はすべてのセックス産業・ポルノ産業に共通なはずだ、って思いこんじゃいがちですが、たしかにワイツァー先生がいうようにポリモルフィアス・多型的、つまりいろいろあるわけですわ。私らは人々の悲惨な話を見聞きするとどうしてもネガティブな気分になり、「あいつらは悪いやつだ」とか単一的な思考をしやすくなっちゃうんだけど、そこらへん気をつけながらやりたいですね。
(下の本は、SMクラブの受付で参与観察した珍しい調査)
脚注:
森田先生なんかは「売買春にはまったく社会的利益なんかない」みたいなことを言ってたと思うんですが、それはおかしかろう。
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