ちょっと戻ってさらにだらだらと横道にそれると、まあ相手の欲望を引き起こし抑制を解除する、っていうのはこれはもう恋愛とかの一番重要な局面ですわね。そりゃ世間の正しい人びとっていうのは「恋愛やセックスというのは、長い時間をかけてお互いをよく知りあい、人間的に尊敬しあえる関係をつくり、おたがいの理解の上で一対一のコミットをした上でセックスするべきだ」みたいな美しいことを言ったりするわけですが、それってなんというか理想的すぎるし、そもそも我々が思いえがいている「熱愛」みたいなのの理想でさえないかもしれない。
前に「恋愛の類型学」みたいなのちょっと書きましたね。恋愛の類型学(1) リーの色彩理論。リー先生におれば、情熱的なエロス、遊びのルダス、友達みたいなストルゲ、損得感情のプラグマ、偏執的なマニア、利他的なアガペみたいな類型がある。どうも正しい人びとというのはアガペみたいなのかそうでなければストルゲみたいなのを正しい恋愛だって言おうとする傾向があるけど、そういうもんでもないっしょ。恋愛とセックスはおそらくもっと多様だし、その道徳的に正しい恋愛みたいなのは信じられないっていう人もけっこういるですわね。
「正しい恋愛」みたいなのの対極にあるっぽいのがエロス的ルダスとかルダス的エロスみたいなやつで、もう美人、イケメン、ナイスバティ、ガチムチとお互いにその場で一体になりたいと熱望する、みたいな恋愛独特の強力さがあって、人生ではあんまり関係もってないけど理念としてはこっちの方がかっこいい。小谷野敦先生という私が非常に評価している先生がいるんですが、この先生は「恋愛は誰にでもできるものではない」みたいなことを言っていて、ここで言われているのはそういうエロス的な恋愛やルダス的な恋愛はできないっていう意味でしょうなあ。ストルゲやプラグマだったら努力すりゃなんとかなるかもしれない。
んでまあそういうエロスやルダスのためにがんばる人びともいるわけです。そういう男性像としては、ドン・ジョヴァンニが最高ですよね。もう見境なく手をだしまくり、女たちもそれを憎からず思ったり。ドンジョヴァンニは殿様なので地位もお金ももっててイケメンですが、その最大の武器は歌と酒だ。もうお金つかってパーっとパーティーして盛り上って、一人静かなところへ連れだして口説くわけです。楽しそうだ。
前にも「オペラを勉強してモテよう」みたいなの書きましたが、 http://sexphilosophy.blogspot.jp/2013/01/blog-post_9.html もう1回見ましょう。
すごい腕ですね。ツェルビーナはこのときそんな飲んでなかったと思いますが、ちょっとは入ってたかも。ドンジョヴァンニは他の人にもセレナーデ歌ったりします。「歌で酔わせる」みたいな表現があるわけですが、まさに歌にも人びとの思考や感情を変更する力があるってのは昔から多くの人が指摘していることですね。
学生様たちと話をしていたときに、「合コンでカラオケに行ったらすごい歌のうまい人がいて、その日だけめちゃくちゃ素敵に見えて好きになりそうだった」みたいな話をしているのを聞いたことがあります。そういうことってありそうで、そういう人はカラオケや歌を人びとの性欲を刺激するために使うことができるのかもしれない。
【桜坂】歌のうまいAは、セックスをしぶっていたBとカラオケに行って「桜坂」を歌い、その後めちゃくちゃセックスした。
これとかどうですかね。まあありそうにないし、別に道徳的な問題はないですか。私は禁止したいですね。まあこれや【香水】みたいなのはOKだとしたら、やはり酒飲みセックスに問題があるとすれば、それは薬物をもちいて判断力を奪うからで、歌や香水をもちいて判断力を奪うのはOKであるということになりそうですなあ。
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