https://yonosuke.net/eguchi/archives/16459 の続き。
んで、「日本の避妊・中絶をめぐる歴史と現状」なんですが、ここがちょっと気になるところがあった。
堕胎罪と母体保護法の紹介はOK。母体保護法のもとになった優生保護法の話もしてほしかったけど、まあスペースの関係で難しかったかもしれないですね。
「そもそも望まない妊娠をしないためには、男性による無責任な射精を正面から議論の遡上にのせる必要があるのだという話はついぞ聞いたことがない」(p.198)は齋藤先生が若い先生(じゃなくて中堅)だからしょうがないかと思うのですが、日本の生命倫理学者のあいだではわりと有名な論文があって、日本の生命倫理学を牽引してきた森岡正博先生やその周辺の先生たちが熱心にやってた時期があるのです。まああんまり知られてなくてもしょうがない[1]あれ、これは注19にあった。本文にしましょうよ。ていうか「ついぞ聞いたことがない」って書きながらこういう注つけてるのなんですか。。(あとでリンク貼ります)
私もちょっとだけ研究会でコメントしたことがある。
まあ私のはともかく、上の偉い先生たちの3本はいま読んでもおもしろいんじゃないかと思います。
んで、齋藤先生の解説で一番問題があると思ったのは次のところです。
日本では避妊の手段として、コンドームの使用が他の先進諸国と比べて圧倒的に多いことが指摘されている。加えて、女性が主体的に選択できる避妊手段は、他の先進諸国と比べるとまだまだ十分ではない。日本ではコンドームの使用率が高いから、日本の男性はすでに射精責任を(他国と比べて相対的に)果たしている、と考えたくなる人もいるかもしれない。しかし、 事実はむしろ正反対だ と考えるべきだろう。避妊手段としてコンドームが圧倒的に主流であるにもかかわらず、年間12万6174件(2021年度)の中絶手術が実施されている。……射精責任という考え方は、避妊手段としてコンドームしか普及していない日本において、よりいっそう重要な意味を持つとさえいえる。(pp. 198-199、強調は江口)
若い世代では避妊ピルけっこう普及してるんじゃないかと思うし、上の世代でもIUDとか使ってる人もけっこういるんじゃないかと思うんですが、気になったのは「事実はむしろ正反対」ですわよね。齋藤先生自身が「他国と比べて相対的に」って書いてるんだから、他国と比較したデータ見てるじゃないかと思うんですが、それ出してくださいよ。
https://worldpopulationreview.com/country-rankings/abortion-rates-by-country ここに15-44才の女性1000人あたりの中絶率があります(信頼性ちゃんとチェックしてないけど)。トップはロシアで1000人あたり53.7人。アメリカは20.8人、お手本国家スウェーデンは20.2人、イギリスは17、日本は12.3ですね。
OECDでの十代の妊娠調査はこっち。 https://www.oecd.org/els/soc/SF_2_3_Age_mothers_childbirth.pdf
まあ日本はコンドームの入手も容易で、こういう件ではそうとううまくやってる方で、これ以上中絶の数を減らそうと思ったらもっと経口避妊ピルを普及させること考えた方がよさそうだと私は思います[2] … Continue reading。
私が感じる問題は、齋藤先生はこういうデータをおそらく一回は見ただろうと想うのですが(見てなきゃおかしい)、それでも「事実はむしろ正反対」みたいな強いことを言うのはあんまりよろしくない、というか たいへんよろしくない と思うのです。こういうの見ると、一時期「ウソは言わないけど都合の悪いことは隠す」とかって発言された上野千鶴子先生を思いだしてしまう。社会学ってそういう学問なんですか?やめてください。「日本は国際比較ではまずまずうまくやってるほうだけど、それでもまだ問題は深刻だからもっと努力しよう!」でいいじゃないっすか。なんで隠す必要があるんすか。ぷんすかぷんすか。
- ガブリエル・ブレア『射精責任』の解説にコメント (1) アメリカの憲法論むずかしいっすね
- ガブリエル・ブレア『射精責任』の解説にコメント (2) データ隠すのやめてもらっていいですか
- ガブリエル・ブレア『射精責任』の解説にコメント (3) 責任と無責任
- ガブリエル・ブレア『射精責任』の解説にコメント (4) 解説と関係ない蛇足
- 他の研究者先生を信頼できないのはつらいことです
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