先のエントリのサウンドボックスというか音場・音像の話、ついうっかりツェッペリンしてしまってあまりにも古い。もうすこし新しくして、マドンナ先生のファーストアルバム(古い!)でもちょっとだけ確認してみたい。
「サウンドボックスに注意しろ」っていうのは、音楽的な意味がどのていどあるかは別にして、楽曲に集中してじっくり聞く(集中聴取)にはよい訓練だと思うのです。通勤通学にヘッドホンして音楽聞いてる人は多いだろうし、そういうときにじっくりどこにどんな楽器が鳴ってるか意識してみるのはたのしいと思う。
サウンドボックスを書くとこうなります。
- ドラムは生ではなくドラムマシンですね。時代だ。
- 中央からちょっと右にずらしたところにエレピ(おそらくフェンダーローズ)がいて、これが G–A–A–Bm っていうハーモニーを鳴らして曲の音楽的構造を決めている。
- 右と左に1本ずつ、コンプかました薄い音のギターがいる。この音色もこの時代。左のギターはときどきいなくなる。
- 上にストリングス系のシンセがいる。あとちょっと左にピヨピヨしたシンセが間の手(オブリガート)入れる。
- ベースも当時流行のシンセベース(おそらく手弾き)が中心なんだけど、実はこれおそらくエレキベースも同じことを弾いていて(!)、ちょっとずれたり、ときどきエレキベースだけのフレーズがフィルイン入れてるのがわかる。これかっこいいのよねえ。ソソラッ、ララッシ!とかソソッラ、#ファ#ファソ!ってやってるだけなんだけど、最高。
- 最後の方、ピアノが入ってくる。
こういうの注意して聞くとたのしいです。んで、ここでぜひ注目してほしいのは、左に聞こえる(私は左「上」に聞こえる)カウベルで、これは打ち込みではなく手で叩いていて、この曲の微妙なノリを決定している。「カッカ、カカツッカ、カカッ、カ」昨日この曲の情報探してたら、これはマドンナ先生自身のカウベルだとか! このカウベルは重要だと思うんだけど、サウンドボックスに注意して聞かないと気づかないのです。
あとベースをわざわざダブルにするのは、この時期のシンセベースがちょっと弱かったのもあるのかもしれないけど、ウェザーリポートのジョーザヴィヌル先生がティーンタウンっていうベース大活躍の曲でやっぱり裏でキーボードでダブルしていて、「こういうのが音楽ってものだ」とか言ってて、サウンド的・音楽的な事情があるんだろう。
このアルバムからはもう1、2曲サウンドボックスを紹介したい。
このマドンナのファーストアルバムはほんとうに名盤だと思っているのですが、それに収録されているBorderlineという曲についてはちょっと疑問があるんね。
アルバムに収録されているのはこのバージョン。
これ、右上のハイハット的なリズムマシンがものすごくうるさいんですわ。それに全体のノリともちょっとずれてると思う。まあこの時期、こうした機械的なリズムがウケてたってのはあるんだけど。
他はすばらしいですね。ベースラインがものすごく印象的で、これもHoliday同様にシンセベース中心だけど陰で従来のエレベも鳴ってると思う。私にはベースコンチェルトの上でマドンナ先生が歌ってるように聞こえます。まあそのベースだけで聞かせる曲。
ところがこのBorderlineはもう一つバージョンがあって、それがこれ。
イントロのエレピに、グロッケンシュピール(鉄琴)が重ねてあったり、シンセが前に出てたりするのも違うんですが、実はドラムがそっくり入れかえられてると思う。断言はできないけど、これすごく自然なノリだし生ドラムじゃないのかなあ。生ドラム使って録音したものをリズムマシンに入れかえるということはないと思うので、もとのリズムマシンを生ドラムに入れかえたのか、それともそもそも録音テープがぜんぜん違う2本があってすべて違うのか。マドンナの歌の違いがあるとしたらわかればいいんですが、私の耳ではちょっとむり。
途中でシンセが右から左、左から右に動いたりして、全体の音数が多い。
どうもこの曲に関しては、作詞・歌のマドンナと、作曲とプロデュースを担当したレジー・ルーカス先生(70年代のマイルスバンドのギターを弾いていた偉い人)のあいだでいさかいがあったらしく、マドンナはルーカス先生のプロデュースが音多すぎるからってんでボーイフレンド呼んできてミックスさせなおした、みたいな経緯があったらしい。でもどっちがどっちのバージョンかはよくわかりません。でもこういうのおもしろいですね。みなさんもサウンドボックスの図を書いてみて、じっくり聞いてみてください。同じマドンナのアルバムのLucky Starあたりがおもしろいでしょう。
追記。ちなみに、「ボーダーライン」の歌詞もいろいろおもしろくて、これはふつうは(1)男性優位主義(male chauvinism)なボーイフレンドに対する非難という解釈がふつうですが、(2) オーガスムを与えてくれないボーインフレンドに対するイヤミなのではないか、みたいな解釈が英語圏ではあるようです。
さらにどうでもいいけど、Lucky Starの歌詞も微妙で、これは男性に向けた曲ではないと思う。 shine your heavenly body tonight、とか男子に向けたものではない。
ここらへん、80年代にはマドンナ先生まだネコかぶってたと私はおもいます。
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