℃-ute「Danceでバコーン!」も名曲

学生様から「Danceでバコーン」を教えてもらってのですが、これなかなかの名曲、っていうかダンスまで含めてすばらしいプロダクションですね。

最初聞いたときは、E7一発な感じからいきなり歌謡曲になるのでとまどったのですが、歌詞の内容とかをふまえるとなるほどってな感じで、私が見聞きしたことを書いてみようと思います。

まず歌詞と構成はこんな感じね。

(a)ファンキー男子
旅立つ時間だ
ファンキー姉ちゃん
ときめく時間だ
ファンキー幹事
宴も酣だ
ファンキー委員長
始業の号令だ
E7(#9)一発
メロディーラインはださい。
(b)諦めやしない
私の未来
誰のものでもない
もちろん玉の輿
そりゃ乗りたい
毎日が勝負パンツ
輝くしかない
うちらの時代
誰にも任せない
もちろん馬鹿じゃいかん
時代を読んで
レバレッジきかせてこう
E7(#9)一発
おなじくダサい。
(c)ジャッジャッジャージャッジャッジャーギタフリマネ
(d)AH- やだー
またちょっと太った
もうやだー
手柄取り上げないでー
AH- やだー
また上司怒ってる
もうやだー
人のせいにしないで
A | E | B | E |
A | E | F | E |
このF→Eで無理やり転調する。
(e)ダンスでバコーン
なんか全部忘れたい
ダンスでバコーン
涙がとまらないよ
ダンスでバコーン
今日は全部わすれるよ
ダンスでバコーン
慰めはいらないわ
こっからコードが月並みに激しく動く歌謡曲。
A | A | F#m | D/ E |
A | A | C# | C# |
キーはA。
(f)こんなにすごく切ないの
どうしてかわかんない
今までためたストレスと
今夜でおさらばさ
心がずいぶん軽くなる
お腹が減ってきたわ
帰りにうどんたべてくわ
明日が待ってるもん
ここがよい。アゲ。テンポが半分に聞こえる。
Bm E A F#m D E F#
とか

イントロからいわゆる「Aメロ」の(a)と(b)までを支配しているのはギターのE7(#9)っていうコードで、ジミヘンが有名曲で愛用したのでジミヘンコードとか呼ばれることもあるやつです。E7にb3度が入っているのですごい不協和音で、濁ったブルースっぽい感じになる。このE7(#9)一発でコードには動きがなくて、抑圧された感じになります。前にファンクとか黒人音楽の特徴は抑制だ、っていうこと書いたおぼえがあるのですが、まあそういう感じ。

ただしこの曲は黒人ダンス音楽ではない。まずテンポが速すぎる。ふつうのダンス音楽というのはだいたい120BPM(1分間に4分音符120拍)ぐらいにするものです。フォーチュンクッキーとかが125、ハイテンションは130,フライングゲットは132ぐらい。ここらへんもダンスとしてはちょっと速いかんじですね。このバコーンは150あって、快適に体を揺らすことができるテンポではなく、むしろ、痙攣とまでは言わないにして「踊る」っていうテンポではないです。(ヘビーローテーションは180BPMあってすごく速いんですが、あれは歌のメロディーはゆったり倍の長さになっててむしろゆったり半分のテンポに感じられる、実は90BPM)それにダンスや黒人音楽ではギター使わないんすよ。ジャジャジャーとかやらない。そういうのは、白人ロックの民が使う。ここらへんがまず前提となる基礎知識。

さて、私学生様と音楽の話をしようってときは、(楽器やらない人に楽理の話をしてもわからないから)まず歌詞をちゃんと味わおうって提案するわけです。そのために必要なのはまず、誰が何を歌っているのか、いつ、どこで、どんな状況でかを考えろっていうわけです。5W1Hっていうやつですか。これはいつでも大事ね。

ではこの曲は誰がいつどんな状況でなにを歌っているのか?

最初このPV見たときは、当然10代女子の歌かと思ってましたが、違いますね。OLさん、それも2、3年目ぐらいか。「ファンキー姉ちゃん」とかそう呼ばれちゃう感じで、すでに会社にもそれなりになれてるので20代なかば。

いつか?会社おわって男子も姉ちゃんも「旅立つ時間、ときめく時間」。7時はちょっと早いかな。ちょっと残業して7時半ぐらいっすか。これから会社の男子女子いっしょに遊びにいくんですね。

どこに行くんだろう?これが最大のポイントです。ファンキー男子と姉ちゃんなのでディスコだろうか?違う。なぜならディスコではギタージャッジャッジャーなんてダサい音楽は鳴らないからだ。考えられるのは、(1) V系ロックのバンドのライブ、(2) カラオケボックス、の二つぐらいで、男子が一緒にいくのだからロックのライブではない。広めのカラオケボックスなのです。驚きましたね。

ちょっと太っていやだとか、手柄取り上げられるとかもまあOLさんの世界ね。OLさんに手柄があるってのは単なる事務職ではないかもしれない。あとで「レバレッジ」とか出てくるから、証券会社の営業さんとか製薬会社のMRくらいで考えとけばいいのではないかと思う。

この曲のよさの一つは、1コーラス目から2コーラス目への時間の経過と気分の変化がはっきりしているところですね。上で対比してみたけど、2コーラス目になると、ファンキー男子はファンキー「幹事」になり、ファンキー姉ちゃんはファンキー「委員長」に昇格していて、まあカラオケボックスはもりあがってる感じですね。

ここでダンスについても言及すれば、上の区分の(a)の部分の股開く動作や(b)の勝負パンツ見せる動作とかはあんまりセクシーじゃなくて、むしろ下品。「あたし毎日勝負パンツ履いてんのにぜんぜんだめだわ、がはは」。ここで「ファンキー」というのは「陽気な」「おどけた」「品のない」ぐらいの意味で理解されてると思う。

対比したのでわかりやすいと思いますが、1番から2番に移行すると、「全部忘れたい」→「全部忘れるよ」、「涙が止まらない」→「慰めはいらない」、こんなにすごく切ない」→「心がずいぶん軽くなる、おなかがへった」、って感じでポジティブになってる。お腹が減ったはとてもよくて、それまで飯を食う気にさえなれない軽い鬱だったのがなおって欲求が回復したわけですわね。エクササイズと食事と睡眠は大事です。

まあ歌詞はこういう感じ。つまり、私が読むところによれば、証券会社勤続2、3年めの女子が、男子といっしょにカラオケに行って、ロックで適当におどけて歌って踊って元気になって、少し元気になってうどん食って帰る、というそういう歌なわけです。平日夜なのか、金曜の夜かはわからん。

音楽的には上の表の(a)と(b)のところはさっきも述べたE7(#9)。これは「ミ」と「ミ♭」の音が一緒に鳴っているので、ギャーンという感じの一番きつい不協和な感じの音です。ずっとそれに支配されている。そのあとの(c)のところでコード進行が| A | E | B | E | ってな感じの進行があって、これがカデンツ(ケーデンス)ってやつです。キーがEのときに、AやBのコード(特にドミナントコードと呼ばれるB)を鳴らすと、キーが「確定」するんですわ。キー(調性)はやはりEだ、イントロから続いているE7の厳しい感じを強調する感じになってます。「うちらはなにをしてもEなのだ!これからもずっとあのイライラしたE7(#9)なのだ!」って言われる感じね。

ところが、そのあと無理やり| F | E |とやってキーをAに転調するんですわ。ここが一回目のききどころですね。E F# G G# (ミファソソ#)って盛り上がっていくところです。Eの圧力に対抗して、無理やり歌って踊って盛り上げてる感じ。

そのあとの(e)からのキーはA。これでさっきから(a)(b)(c)のパートでずっとなってたE7は、Aで解放されるためのドミナントでした、いままでずっと続くと思っていたEは、実はAで解放されるための前フリにすぎなかったのだ!、人生のスパイス程度のものなのだ、ってのがはっきりするわけです。これは快感。

このE (ドミナント、属和音)→A(トニック、主和音、主調)に転調、あるいは解決するっていう快感はもちろん定番で、これがないと西洋音楽はなにもできないってくらい定番ですが、単純にやるとものすごい効果がある。

サビの(e)ではダンスでバコーンで| A |F#m | D | E | これもケーデンス、ただし「いや、キーはEではなくAなのだ!」と強く主調している。さらにサビ(f)でももっと強くAが中心なのだ、われわれはAなのだ、と主張するわけです。ここは本当にきもちがいい。

特に(f)の「こころが少し軽くなる」のところでは、音楽では2拍4拍を強調し、ダンスでも2と4で腕を上にアゲアゲにして一番からだが大きくみせて、さらに女子が横向いているので乳や脇を見せつけて、腰も浮いて非常にセクシーになってる。最初の方で、もううちら全然だめで芸もないから、ウケるにはファンキーに股開いたりケツとパンツ見せたりするしかないわあ、みたいな下品で低級な(?)女になってたところが、ここではきちっと上を向いてそこそこ上品なセクシーさを出して踊れるようになってるわけです。さらにリズム的にもうるさいごちゃごちゃがなくなって、聴感ではテンポが半分になってゆったりアゲいるように聞こえると思う。

(f)のところのダンスは、「こころが少し軽くなる」のところの横向いて手を上げるのもいいんですが、そのあとの「帰りにうどん食べてくわ」のところの「わ」のところの小さいジャンプもものすごく効いてますね。あの小さいジャンプがないと、心が軽くなってるところがわからない、あれが最大のキモだと思います。イラついたOLもカラオケで元気になれば小学生のようにちょんと飛べるようになるのだ。

2コーラスめ歌ったあともイライラしたE7(#9)のギターは再び攻めてきますが、それにつづく間奏はもう一発ではなく、歌謡曲的なホーンの勝利のラッパがなって [1]これを本物のホーンを使わずにキーボードのチープな音にしているのもよい。 、2番のサビの歌詞を繰り返しておわる。最後にイントロのリズムがもどってきますが、最初の(#9)のトゲは抜かれている。これは名曲・名ダンスです。

まあ、この曲の主人公の女子たちは正直いって安い。安いというのは、お金もないし、趣味もそれほどよくないかもしれないし、芸もあんまりないかもしれないし、勝負パンツは履いてるのに彼氏もいないし、仕事もうまくいかずに上司から怒られたりで不満だらけだし、ダイエットもうまくいかないまま年をとりつつある。不安だらけ。六本木でR&BやEDMで踊っているようなセクシーな姉さんたちにはダサいとバカにされてるかもしれない。でもカラオケでみんなで歌って騒いで踊って楽しくやれば、明日を生きることはできるのです。大衆向けの曲というのはこういうふうにできてないとならん。

私、震災のあとに「フォーチュンクッキー」を聞いて音楽やダンスの力を感じて、アイドル曲のプロダクションのよさがやっとわかるようになったんですが、このバコーンはその前で、曲の造りや腕をぐるぐる回すダンスなんかに影響が見えてる気もしますね。音楽とダンスにはストレスから解放してとりあえずうどん食いたくならせるような力があるわけです [2]というか、「フォーチュンクッキー」が「バコーン」へのオマージュでありアンサーソングであった、という可能性は十分あると思う。

どうもこのユニットはおとなになって解散したようですが、この曲の主人公たちの年齢になったところで解散というわけですね。その成長とかも、まあライブで(f)で「ん・オー・ん・オー」ってライト振り回して応援しているオタ兄さんたちにはよかったでしょうな。


あと、音楽の話で、E7(#9)の音ってのはジミヘンのこんな感じ。

ジャジャジャーはいろいろあるけどこれ。正直、ジャッジャッジャーのリズムはものすごくダサい。つんく先生はださすぎないようにいろいろ工夫してます。なにを工夫しているかはよく聞いて考えてください。

一番大事な、一発もので5度下に進行して快感があるってのはこの曲。E7でじりじりしていて、「おれ、もうブリッジいっていいか?いっていいか?ブリッジいっていいか?」ってやってAに落ちるのが気持ちいい(実際にはEbとAb)。2:00〜2:30ぐらい。単純にやればこれでも気持ちいいんですが、大衆にはわからんからつんく先生みたいにする必要がある。

まあこの曲の主人公がカラオケのあと発展してセックスマシーンだったということはないとおもいます。


→ 歌詞を考える

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References

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1これを本物のホーンを使わずにキーボードのチープな音にしているのもよい。
2というか、「フォーチュンクッキー」が「バコーン」へのオマージュでありアンサーソングであった、という可能性は十分あると思う。

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