ポルノと性意識の実証調査というのは実はあんまり数がない。
もうちょっと若い世代の研究も見てみた。
荒木菜穂「ポルノグラフィ文化におけるホモソーシャルな構造~大学生へのアンケート調査を通して」『鶴山論叢』第5号、2005
荒木さんは発表時点で神戸大学大学院総合人間科学研究科博士課程後期課程に在籍していらっしゃるようだ。
この論文ではどういう対象にどうやって調査したのかも記されていない。
関西の2大学、関東の1大学において、2002年6月21日、7月12日、2003年1月15日の全4回、SWASH (Sex Work and Sexual Health)の協力により荒木が実施。回収数240部、内訳女性131人、男性101人、不明8人。
ということだが、どの程度配ったのか、その他知りたいことはたくさんある。
で内容だが、まず、この論文も質問用紙がどのようなものであるか明示していないのが気になる。
(1)まず「ポルノグラフィと聞いて思い浮かべるもの」という設問を行なったらしい。
出てくるのは、
- 男性では順に「エロ本」(65.1%、以下数値は略)「アダルトビデオ」「成人向け込みっく」「ポルノ小説」「成人映画」「男性週刊誌」「アダルトサイト」「ヌード写真などを使った広告」「女性週刊誌」「スポーツ新聞」、
- 女性では「アダルトビデオ」(61.4%、以下略)「エロ本」「成人映画」「成人向けコミック」「ポルノ小説」「男性週刊誌」「ヌード写真などを使った広告」「アダルトサイト」「女性週刊誌」「スポーツ新聞」
ということらしい。質問が選択式なのか記述式なのかわからない。それに、「やおいマンガ・小説」が入っていないのはどうしたことだ。若い(おそらく)女性研究者が、やおいを選択肢に入れないなんて考えられない。
で、さらにまずいことに、次の質問で「ポルノグラフィを目にしたことがあるか」「自主的にポルノグラフィを見ることがあるか」をたずねてしまっている。で、クロスをとる。たとえば次のよう(これも技術的問題から表記を変更してある)
表3 性別と自主的にポルノグラフィを見ることがあるかのクロス表
yes no 無回答 合計 男性 75 (90.4%) 8 (9.6%) 83 (100.0%) 女性 15 (14.2%) 86 (81.1%) 5 (4.7%) 106 (100.0%) 合計 90 (47.6%) 94 (49.7%) 5 (2.6%) 189 (100.0%)
当然の問題は、表3が何を表現しているか、ってことだわなあ。
この質問に答えた人はなにをポルノグラフィだと思って答えたんだろうか?最初の設問で「ポルノグラフィと聞いて思い浮かべるもの」があれほど多様だったのだから、さまざまなものをポルノグラフィと思って答えてるんだろう。荒木菜穂さんはポルノグラフィを定義もせずにこんなことを尋ねてなにか意味があると思っているのだろうか。
この論文ではいっさいの検定を行なわないと決めていらっしゃるようだ。ただクロス表を並べるだけ。
なんか面倒になったからやめる。神戸大学総合人間科学研究科は、ちゃんと社会調査の方法を学生に教えるべきだと思う。
荒木さんはポルノの享受には「ホモソーシャルな構造」があると言いたいようだけど、やおいだのボーイズラブだのってものも視野に入れれば、ぜんぜん研究が違ってきたのに。とくに女子はそういうものを交換して楽しむ傾向があるように見えるから(証拠ないけど)もっとおもしろかったのに。
この方はblogももってるようだ。そっちは実感のこもったおもしろいこと書いている。上の論文は調査としてはダメダメだけど、フェミニズムの視点からのポルノ批判のまとめはよく書けていると思う。研究がんばってほしいものだ。
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