牟田先生たちの科研費報告書を読もう(3)

牟田先生のセックス平等の話をするまえに、もうすこしだけ他の論文に簡単なコメント。

元橋利恵先生の「新自由主義セクシュアリティと若手フェミニストたちの抵抗」は、二つの話題があって、「女性は自分の性器の呼び名がない」みたいな話と、「最近は女性が競争(新自由主義)のために男向けにいろいろ努力してる」みたいな話をくっつけようとしてるみたい。

まあ性器の呼び名みたいなのは古い話で、ろくでなし子先生みたいな方もいらっしゃるのだから好きにすりゃいいのにと思いますが、まあいいです。そもそも英語圏女性も自分のそれを「ヴァギナ」とは思ってないと思うし、そもそもその部分をヴァギナとか穴とかと見てるのかどうか、はたしてそれが女性の実感なのかどうか私はちょっとわからないところですが、まあいいです。あんまりやるとバレ噺になっちゃうし。

本論の新自由主義的セクシュアリティなるものはけっこうおもしろくて、わたしが今注目しているキャサリン・ハキム先生のエロチックキャピタルをネガティブに見た話ですわね。紹介しているウェンディ・ブラウン先生ってのはずいぶんと左翼ですが、別の見方もありそうなのでがんばってほしいです。

荒木菜穂先生の「日本の草の根フェミニズムにおける「平場の組織論」と女性間の差異の調整」も勉強になりました。まあ組織ってどこでもむずかしくて、とくに女性だけのグループっていろいろ難しいってのは、荒木先生も文献にあげてる西村光子先生の『女たちの共同体』他でいろいろやられているので、ここらへんも研究すすむといいっすなあ。まあ男子としては、「きみら女性はそんな組織化得意じゃないっしょ」みたいなの言いたくなるけど、私も組織とかグループとか苦手だから。ははは。

伊田久美子先生の「イタリアにおけるフェミニズム運動の新たな動向」はすみませんがまだ読んでません。

北村文先生の「国籍/エスニシティ/階層を超える・つなぐフェミニズム」はかなりおもしろくて、個人的にはこの論文集で一番勉強になりました。まあ女っていったっていろいろ対立があるってのを、アジアで女中さんをやとってるマダムvsメイドって形で見てる。でもマダムが一方的な支配者ってことはないよね、みたいな話。男女関係だって男性が一方的に支配者とかってのはなさそうなので、ここらへんの研究もすすんでほしいです。

熱田敬子先生の「日本軍戦時性暴力/性奴隷制問題との出会い方」もまだ読んでないです。

岡野八代先生の「道徳的責任はなにか」はやはり倫理学にかかわりをもつ人間として読まざるをえなくて読んだのですが、従来の「男性的」な倫理学がよくない、っていうのを言うのにウォーカー先生は〜と言ってる、ぐらいしか根拠がなくて、私は不当ないいがかりではないかと思います。ケア倫理と従来の倫理学の関係については、むかし品川哲彦先生の『正義と境を接するもの』の書評もどきをやったときに考えました(ブログも残ってるはず)。まだ岡野先生みたいなやりかたをする人がいるなら、もっとちゃんとした文章書いておかないとならないなと思いました。

まあでも(まだ読んでないのを含めて)どれもまじめで、科研費研究報告としては十分というか立派ですよね。えらいと思います。

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