「飲み物を飲んだら急に眠くなって、気が付いたらセックスの最中だった!」はおかしいか

なんか、内閣府男女共同参画局関係の広報が炎上していたようです。

「飲み物を飲んだら急に眠くなって、気が付いたらセックスの最中だった!」というツイートが話題になっていて、これは「セックス」ではなく「レイプ」と書くべきだろう、のようなコメントがついているようです。どうでしょうか。

「セックスの最中」っていうワーディングはなんかへんな感じがするので、「飲み物を飲んだら急に眠くなって、気が付いたらセックスされていたようだ」ぐらいだと問題なかったかもしれませんね。なんだか「最中」がへん。

ただ、これセックスをレイプにおきかえて、「気が付いたらレイプの最中だった」にするのはあんまりよくないと思います。

ここで注意しておきたいのが、やはり言葉の定義の問題、そして記述的意味と評価的(規範的)意味と呼ばれるものの区別です。

倫理学のふつうの理解では、評価的・規範的な言説、つまり「〜はよい」とか「〜するのは悪だ」といった会話などをするとき使われる語については、それが記述的な意味しかもってないのか、それとも評価的な意味も含んでいるのかを注意するべきです。

定義はそれを自覚していればどうやってもいいようなものですが、まあ「セックス」の意味は、ふつうはなにか二人以上で体を使ってエッチなことをすることで、まあ性器挿入とかそういうのがないとセックスと言わないって人もいるかもしれませんが、ここではもっと広くとりましょう。素敵じゃないセックスはセックスじゃない、っていう人はあんまり多くないでしょうね。よいセックスもあれば悪いセックスもある。こういう言葉は記述的意味、つまりその2人なり3人なりがやっているのが体を使ったエッチなことである、ぐらいのことを意味しています。

一方レイプは、ふつうの理解では「強制的に、あるいは相手が抵抗できない状態でセックスすること」ぐらいでしょうか。これも性器挿入がないとレイプじゃないっていうひともいれば、もっと広い範囲をレイプと呼ぶ人もいるでしょう。これは「レイプ」と呼ばれる行為の「記述的な」範囲が人によって異なっている、ということです。どっからがレイプになるかは、もし必要があれば定義しなければならない。とりあえず、いろいろあるセックスのなかで、レイプは強制的なものセックスである、ということになります。レイプよりセックスの方が指し示す範囲が広い。

注意すべきなのは、「レイプ」は、ふつうは、ひどく悪く、不正なことであり、非難され罰されるべき行為である、と理解されていて、「それは悪い」という評価的・規範的な意味ももってることです。ことです。「よいレイプ」というのはふつうはないと考えられているので、「彼は悪いレイプをした」のような表現も冗長であると考えられます。レイプは悪いセックス、不正なセックスの代表であるわけです。

この男女共同参画局の広報では、アルコールなどで意識がないときにセックスされたり、触られたり、動画をとられたりするのが性的な被害でありそれをした人々は非難され罰されるべきだ、被害を受けた人は被害を受けたと考えて当然だし、できればそれを訴えてください、という広報なわけです。あなたがされているセックスは悪いものであり、レイプだ、って言いたいわけなので、まあ広報ではああいう形になるのがただしいと思いますね。とりあえず、意識がないのにセックスしていた、ということはわかるって人々に、それは被害を受けてるんですよ、って言いたいわけだろうし。それが狭い意味の「レイプ」かどうかとか、強制性交罪とか強制挿入だかなんだかそういうのに当てはまるのかどうか、とかそういうのはあとでいい話。

レイプが非常に悪いことであると正しく理解している人々は、広報の「セックスの最中」というのはやはりそれが悪いことであることを示すために、評価的・規範的意味を含んだ「レイプの最中」におきかえて、それがとてつもなく悪いことであることを強調しようとしたいと思うのかもしれませんが、それはあまり効果的ではないかもしれない。

最初から「薬を盛られてレイプされている最中だった」と考えることができる人であれば、それはレイプだというのは当然わかっているわけで、この広告が対象としている人々ではない。

もちろんもっと別のうまい書き方はできるのですが、そんなに気になるほど悪い書き方でもないと思います。


んで、「レイプはセックスではない」って言いたいひとは、「セックス」をもっと狭い意味でとらえているのですね。「2人以上が同意の上で、体を使ったエッチなことをするのがセックスだ」ぐらいの定義かもしれません。これだとレイプは同意がないのだからセックスではない。そういう意味で使うひとはそれでもいいです。でも今度は、「同意のあるセックス」とか「同意のないセックス」とかっていう表現が、矛盾したり冗長だったりすることになります。

どういうふうに言葉を定義するのがうまいかかっていうことは主張しようとしている内容や場面によって変わってくるので一概には言えませんが、私の好みは、語はなるべく記述的に、そして広く定義して、必要なときはいちいち形容語をつける、ぐらいの方針です。

セックスは「2人以上でするエッチなこと」ぐらいにしておけば、「オーラルセックス」は片方が口でするエッチなこと、「性器セックス」は2人が性器をつかってするエッチなことぐらいであることが明示できる。最初からせまく「男性と女性がそれぞれ性器つかって、男性が女性に性器を挿入すること」とか定義しちゃうと、それ以外の形のはセックスじゃないことになっちゃいますからね。同意のあるセックス、ないセックス、とかも言えるし。

実はこれ、どういうふうに定義しても、つまり、語を広く定義しても狭く定義しても、そして記述的に定義しても評価的意味も含むように定義しても、ちゃんと議論をすれば同じような前提から同じような結論が出ます。レイプ(=強制的なセックス)がわるいことであるのは、「レイプ」が悪いことであるという定義によるのではなく、強制的なセックスが悪いことだからであって、それが悪いことであるのは、ひどく人を傷つけ、自律を損ない、身体的に痛めつけ、などなど、人に被害をもたらしたり、尊厳を傷つけたり、法律に反したりするからです。

相手がなにを言おうとしているのかをちゃんと読み聞きしようとせずに、自分自身の定義(たとえば「セックスは同意のあるものだけ」)を押しつけたり、相手の言葉だけをとらえて、その定義をたしかめずに非難するというのはとてもよくないことなので、いちおう定義たしかめたり発言の真意を探ったりしてみてほしいですね。

あととりあえず酒の飲み過ぎには注意してください。性的被害だけじゃなくて死んだりするし、お店のトイレとか汚れるのも迷惑です。死ぬかレイプされるおそれは非常に大きなものです。一気呑みとかするサークルは即やめましょう

また、お店の人も儲けのためといって黙認しないで、ちゃんと止めてください。私はそういうの放っておくのはお店の人たちも同罪だと思います。

おじさんおばさんは、一気呑みしているグループがあったら勇気を出して止めましょう。リーダー格のにトイレで「ほどほどにね」ちょっと一言言う、ぐらいでも効果あるかもしれません。

まあとにかくお酒には注意しましょう。

あと酒飲みセックス、酔っ払いセックスはいろいろ考察に値するおもしろいネタがあるんですが、それはここらで。

(あれ、なんで(2)がないんだろう?)


尊敬する先生がもっとわかりやすく正確な記事を書いてるのでそちらをどうぞ。 https://flipoutcircuits.blogspot.jp/2018/03/blog-post_29.html

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