p.359
「合理性をつかまえて自分自身のものにする」
←How we captured Reasons and Made them Our Own
このReasonsは「理由」の方だろう。理性の意味で複数形になっているのは見たことがない。「いかにして人間は理由をつかまえ自分のものにしたのか」
p.362
「こうした傾向には、人間としての合理性ではない合理性があるけれど、これらは理由を求め与えるという人間の慣行の基盤となった」
←These dispositions have rationales that are not our tationales,
rationalesは「根拠」だろう。ratinaleは合理性という意味で使われるのは見たことがない。この章全体でrationaleを「合理性」と訳しているようだ。
ここらへんの議論はたしかに哲学的に難しいんだけど、いったいなんでこんな誤訳しているんだろう?
山形浩生はほんとうにこの本を理解して訳しているんだろうか。
p.370 「わたしは実質的に、みんなが共通に認識できるような利点を実現すべく規範を設計しなおす、心理エンジニアの立場をとっている。」
←In effect I took the standpoint of a psychic engineer charged with designing our norms for an advantage we recognize together.
なんで「設計しなおす」なんだろうか。「設計する」では?
p. 370
「省察的均衡」←reflective equilibrium。ロールズのやつなんだからふつうは「反省的均衡」では。まあいいけど。『正義論』目を通してないのかな。
p.373
「人は自分の不完全な合理性を発見し、自分が意識的に了承した理由づけ以外のもので理性空間のなかを動かされてしまいがちな傾向を見いだすと」
←When we discover our imperfect rationality, our susceptibility to being moved in the space of reasons by something other than consciously appreciated reasons,
「理性空間」ってのはなんだろう。どうも山形さんは「理由」と「理性」をおなじものととらえる傾向があるようだ。それでもいいのかなあ? わたしには判断できん。
しかしまあ一部にしてもずっと読んでみると、翻訳としては精度が高い。少なくともふつうの大学教員が訳しているよりこなれている。もちろん私が訳しているよりも。
p. 375
「あなたが自由なら、自由であることはあなたの責任なの、それとも単に運がいいの?」
← If you are free, are you responsible for being free, or just lucky?
うーん、この訳でもいいんだけど、このresponsibleを「責任」と訳すのは強すぎじゃないかな。微妙か。
p.386
「ひとは「どんな規範の下でも怒りからは逃れられない」けれど、一部の文化では罪悪感が何の役割も果たしていないようだ」
←罪悪感「は」でないと文意が通じない。「どういう状態で起こるかってのはとりあえず文化によって違うけど、どの文化でも怒るっていう感情はある。だけど、罪悪感って感情は文化によっては存在しない。」ていう意味。ここらへん、山形さんは根本的に理解していないことをうかがわせる誤訳(?)
同じp.386
「自由意志という前提さえなくなれば、道徳的責任とか非難とか、罰とかいう発想も破棄できて、その後は末永く幸せに暮しましたとさ」
←moral responsibility, blame and retribution
罰ではなく「復讐」あるいは応報と読まないと。「もっと」幸せに~
同じページ
「この問題は、一部は現実的なものだ。」
←the question is pragmatic。うーん、やっぱりプラグマティックと訳さないとわからんのではないか。「実用的」か。
「罪と怒りはうまく組みあわさる。」
←Guilt and anger mesh together well. 「罪」じゃなくて「罪悪感」。さっきはguiltをそう訳したし。
ここらへんギボードの議論を知らないと何言ってるのかわからないのかもしれない。
「罪は怒りを抑え、罪の脅しは怒りを引き起こすような行動回避をうながす」
←guilt placates anger, adn the tthreat of guilt averts acts that would evoke anger. 「罪悪感は怒りをなだめ、罪悪感を感じるのではないかという恐れは、怒りを引きおこしてしまうような行動を回避させる」。悪いことしたやつが「しょぼーん私が悪うございました」としてれば怒りもおさまるってこと。怒られるかもしれないと思えばそれをしないってこと。だいじょうぶか。
「すさまじい社会の組み直しによって」
← with heroic re-engineering of society. やっぱり「英雄的」でしょう。
「怒りや罪にはそれなりの合理性がある。」
←Anger and guilt have their rationales.
うーん、こういうのを読むと、たしかにrationalesを「合理性」と訳したくなる気持ちもわかるな。
でも「怒りや罪悪感にはそれぞれちゃんとした存在理由がある」ぐらいじゃないかなあ。
p.387
「自然状態に逆らうのではなく、それを援用するような条件を文化的に仕込んでおくだろう」
←「援用」では意味わからんが、a culturally inculcated setting that harnesses nature instead of fighting it.
「自然と争うよりは、それにゆるいたずなをつけるような」ぐらいか。
「利己的な目的と一般的な愛他精神や道徳の誘因」
←comptetion between egoistic goals and the tug of general benevolance, or morality.
「いいかえれば」のorじゃないかな。
ゆっくり読んだらデネットの議論はなかなかおもしろい。っていうかギボードをちゃんと読む必要を感じた。
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