ポップ音楽でリテラシー (1) 本を読んで

学生様と話をしていて、好きな音楽の話なんかを聞きたいわけですが、うまく説明できる人はそれほど多くないですね。「よい」「好きです」ぐらいで、なにがどうよいのか、どこがどう好きかを説明できる人はあんまりいない。というか、歌詞や曲をよく聞いてないというわけでもないと思うんですが、分析的に聞いたり説明したりすることはなかなか難しいものです。

とかって考えて、そういうので卒論を書きたいという学生様もいたりするので(うちはそういう学部)、ポップ音楽の鑑賞法とか分析法についての本を探しているのですが、日本語ではなかなかないもんですね。英語ならあるかなってんで探しているうちに、Practical Media Literacyって本をKindleでめくってみる機会がありました。

これは中学や高校ぐらいのクラスルームで、各種のメディアをクリティカルに見る方法を考えながら教えようっていうクリシンの本ですわ。Musicの項目を見てみると、下のような感じ。ちょっといろいろおもしろいと思いました。

まずポップ音楽ってのが特定のリスナーをターゲットにした産業のプロダクションである、って説明するんね。たしかに楽曲の作成からマーケティングまで考え抜かれている業界ではある。単に楽曲だけじゃなくPVや売り方まで含めた商品なのだ。

んで次にジャンルの説明をする。ジャンルっていうのは特定のターゲット層に向けて、その期待にそうようにわけられてるんですよ、と。たとえばハードなギターロックだったら学校に退屈しているミドルクラスのティーネイジャーとか、ボーカルも典型的には白人男性である、と。ヒップホップだったら社会に困難な若者で典型的には黒人巨体ラッパーとDJとか、まあそういうことね。うんうん。ジャンルっていうのは、その顧客であるリスナーが「こういう音だよな、こういう感じを与えてくれるだろう」ってんで手にとるように、その期待に会うようにできてる。

あとちょっとだけサウンドについて触れて、とりあえず実践しましょう、ってな方向にすすむ。んでクラスルームでやるのは、1曲好きなヒット曲を聞いて、練習問題を考えましょう、みたいなの。

  1. ジャンル(カテゴリー)を考える。
    どの要素によってそのジャンルに分類したか。楽器、ボイスの感じ、曲の長さ、テンポ。人種、年齢、性が違うと別のジャンルになるか?選んだ曲の何が自分にアピールしたか。

  2. 歌詞を考える
    曲を聞き歌詞を読んでどういう感情になるか。ハッピーか、悲しいか、怒りか。歌詞とシンガーの歌い方はマッチしているか。音楽は歌詞や歌い方とフィットしているか(悲しい歌詞なのにアップテンポということもあることを指摘)。メッセージを聞いてどういう感じになるか。歌詞によって語られているストーリーに共感するか。リスナーにアピールするためにどう書かれているか。反対の意味になる歌詞を自分で書いてみよう。

  3. 楽器法や曲の構成を考える
    使われている楽器、全体の感じ。曲の構造をメモする。印象に残る「フック」があるか。繰り返しのセクションがどういう感じをもたらすか。頭にこびりつく感じがあるか。ダンスしたくなるか眠りたくなるか。ハッピーにするか悲しくするか。同じジャンルの20〜30年前の曲と比べるとどうか。プロダクションのスタイル、楽器用法、アレンジは変わっているか。なぜ、どのように変わっているか。

  4. ターゲットのリスナーを考える
    誰がターゲットか。アーティストのルックス、ファッション、態度は歌の感じに影響を与えているか。年齢、人種、性が違っていると違う感じになるだろうか。別の人はその曲を違ったふうに解釈するだろうか。メッセージはポジティブなものかネガティブなものか。

  5. マーケティングを考える
    架空のアルバムのカバーを考えてみる。ジャンルやターゲットリスナーのライフスタイルを考える。

とかそういう感じ。なるほど、おもしろいですね。われわれポップ音楽好きはこういうのは言われなくてもいろいろ考えるわけですが、中高生、あるいは学部生ぐらいだと、こうやって明示的に質問された方がわかりやすいし、意識的に聞くってことに自覚的になるでしょうね。リストや表の形にしておくんですね。いろんなのが作れそうだ。

んで、いろいろ考えたこととか発表したりディスカッションしたりするんでしょうね。これは中高向けかもしれないけど、いずれ私の1〜2回生ゼミの学生様にもやってみてもらおうかという気がします。もうちょっと突っ込んだ問いを設定したいけど、最初はうえみたいな感じかなあ。

上の本全体は、インターネット(Web/SNS)、テレビ、映画、ストリーミング、音楽、ニュースメディア、ヴィデオゲーム、ラジオとオーディオ関連、写真と主要メディアについての簡単な説明と練習問題があって、最後は広告なのね。なるほど、そいうことか、これぞクリシンだ!みたいな。

ちょっとおもしろい鉱脈がここらへんにありそうな気がしています。

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