「レイプ神話」での性的動機 (9) 性欲説と支配欲説、どっちが役に立つ?

もうあんまり資料めくる気がなくなっているのですが、まあレイプの「動機」(原因というよりは動機)は性欲って考えるのが実証的ではあるようです。でもここで思弁的に、「レイプの主な動機性欲」って考えるのと、「支配欲だ」って考えるのと、どっちが性犯罪・性暴力を対策するのに役に立つかって考えてみたいですね。これは私の単なる思弁なので、全然アカデミックじゃないし(いつもアカデミックじゃないけど)、ほとんど根拠がないです。

まず、暗数が多いとされているレイプの大多数は、いきなり夜道で襲ってくるストレンジャーレイプよりは、顔見知りレイプやデートレイプ(デートしてみるくらいの間がらでのレイプ)の方がずっと多いと考えられわけで、レイプなどの性犯罪を防止することを考えたいですわね。

多くの男性が共通にもってる(あんまり相手を選ばない promiscuousな)性欲だって考えるならば、まず対策は、男性に自分のそうした性欲のあり方を意識してそれを抑制する方法を教えましょ、ってことになりますよね。特に、それを防止しようとするならば、女性は男性が思ってるほどそんなすぐにセックスしようなんて思わないってことをデータしめして教えることになると思います。

麻生一枝『科学でわかる男と女の心と脳』p.19から

麻生一枝『科学でわかる男と女の心と脳』p.19から(クリックで拡大)

こういうデータでわかるように、男性はたくさんの女性とセックスしようとするし、すぐでもセックスOK、むしろそっちの方が楽しいぐらいの人もいるわけですが、女性はほとんどいない。こういうのはデートレイプ予防にはなりますわね。

あと前にも書いた、男性は女性に性的な意図を読みとりがちであるっていうのも。なんか今日「女子が飯にさそってほしそうにしているから誘ったら断わられた」みたいなのを見かけたんですが、まあそういうもんだわ。男性はちょっとしたことから、特定の女性が自分に気があると思いやすいのね。男性は男女がいっしょにいるのを見ただけで、女性に性的な意図があると考えてしまう。有名な実験あります。

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男性大学教員自身も気をつけましょう

さらに、デートレイプが起こりやすいのは、アルコールが入っているときとか、男性がある程度の投資をしてしまったのにセックスできない場合っていう状況に関する知識も教えたらいい。そういうのの男女の心理的な差を教える(できればなぜそうなっているのかのメカニズムに対する仮説もいっしょに)ことができれば、デートレイプみたいなのは減らせるんじゃないですかね。
さらに、レイプ加害者たちがもっている認知の歪みや、「女性は無理矢理セックスされたがっている」のような典型的な「レイプ神話」なども教えるべきっしょね。ただし「レイプは支配欲や暴力欲が動機」ではなく「性欲が動機」の方がずっとましですわね。支配欲や暴力欲だって思ってしまえば「俺そんな支配とか暴力とか興味ないし」ってなっちゃうし。デートしたり痴漢したりする奴は、性欲はみんな意識しているんだから、まさにそれが動機で、大きな原因の一つだって教えたらいい。

女子にも同じようなことを教えたらいいし、男子ほどは必要ないだろうってときでも、男子がいったい特にどういうタイプの性欲をもちがちなのか、どういうキューでスイッチがはいりがちなのかぐらいは教えたらよかろうって感じがします。

一方、レイプの動機は性欲ってよりは支配欲だの性暴力欲だ、とかってことになれば、そんなもん自分には関係ないと思う男子は多いでしょうな。レイプとかしやすい年代でも、ふつうの若い男性はあんまり支配してない、っていうか支配されまくってるわけだしねえ。

たしかに、サディスティックな性犯罪者はいるんだけど、これは全体の数パーセントしかいない。サイコパス傾向の他人の気持ちが気にならないし、っていうのはもっと少ない。

そもそも、「女は力づくで支配しないとならん」とかっていうのは少なくとも日本の大多数の人々が生きてる文化ではないんじゃないでしょうか。青年マンガでさえそんなんほとんどないし、その種のものを好む人もごく少ないように思う。『ナニワトモアレ』とかの人気ヤンキーものだって、レイプするような奴はひどいリンチされてますよ。

つまり、支配欲だとか性暴力そのものを好む奴がいるのだ、ってことにすると、問題になってるデートレイプとかそういうのに対する対策ってのはほとんどなくなってしまう。女性から見ても、パーティーで楽しく笑わせたり口説いたりしてくれた相手が、最後に断わったらレイプしてくるとか思ってないじゃないですか。でもそういうのがふつうなんしょ。それは支配欲とか性暴力欲とかによるものじゃないと考えた方が、ましなことになるんじゃないでしょうか。

もし「レイプ文化」ってものがあるとしても、「文化を変える」っていうのはものすごく難しくて、なんらかの思想を、思想だけの力によって人々に強制するってのは私には無理に思えますね。文化っていうのはそういう押しつけによって変わるものではない。もちろん、逮捕率や起訴率、それに法定刑の最低限度や最高限度を引きあげたりするのは効果があるだろうと思うけど、これは文化を我々の思うようにできるってことではない。それはいろんな利害関係の上に成立しているもので、思想だけでは変わらんしょ。

カミーユ・パーリア先生という私が好きな哲学者は、こんなことを言ってます。

「何世代にもわたって、男を教育し、洗練させ、倫理的に教えさとして、そのあげくになんとか、男たちは生まれつきの衝動である無秩序と粗暴さを手なずけることができた。無知なフェミニストの主張に反して、社会は敵ではない。社会は女性をレイプから守ってきたのだ。」(『セックス・アート・アメリカンカルチャー』p.81)

多くの人(非フェミニスト?)が認めるように、おそらくこれは歴史的に正しい。レイプとかってのはやっぱりまずは性欲の問題であることを認めた上で、その他のいろんな要因(性格の歪み、認知の歪み、状況的な要因)も考えにいれていった方が、ずっと有効な対策打てるんじゃないでしょうか。我々がやるべきことは、単に天下りに「神話だ」とかって紋切りで他人を非難することではなく、ちゃんとデータをつみかさねて事実を人々に示してまともな考え方を広めることだと信じていて、そういうアップデートされたデータとか文献とか示したものがネットとかSNSとかで広がることを願ってます。

麻生先生の本はいつも勧めてます。面倒なの読みたくなかったらこれだけでも読んでちょうだい。男子も女子も。

パーリア先生はおもしろいよ。

セックス、アート、アメリカンカルチャー
カミール パーリア
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「レイプ神話」での性的動機 (9) 性欲説と支配欲説、どっちが役に立つ?” に1件のフィードバックがあります

  1. ほっけ

    「男らしさの証明、優越、力、支配。マッチョな態度とレイプ傾向には相関あり」という説を(5)で肯定的に紹介しておきながら、「サディスティックな性犯罪者はいるんだけど、これは全体の数パーセントしかいない。サイコパス傾向の他人の気持ちが気にならないし、っていうのはもっと少ない」と「支配欲」の範囲をせばめて否定するのは首をかしげます。
    「つまり、支配欲だとか性暴力そのものを好む奴がいるのだ、ってことにすると、問題になってるデートレイプとかそういうのに対する対策ってのはほとんどなくなってしまう」というのも、「つまり」にいたる前提がいくつも抜けているように思います。恋人関係と支配被支配は排他ではありませんよね。
    そもそも一般論として、レイプにさえいたらなければ恋人関係における支配被支配やマウンティングは正当化されるものではないと思いますし、そこで「俺そんな支配とか暴力とか興味ないし」を看過することが前提視されていることに違和感があります。

    ちなみに私個人の記憶でいえば、“レイプの動機は支配欲”といった表現に初めてふれた時の印象は、むしろ性欲だけがレイプの動機になるという固定観念への反論的な注意喚起というものでした。そこで性欲が動機として全否定されている印象は受けませんでした。
    なので、“レイプの動機は支配欲”という考えが「単純すぎ」る固定観念となれば、性欲もまた要因という注意喚起が必要になるかもしれません。
    その関連で、ヒアリングの結果として「痴漢を突き動かしているのは性欲だけではありません」という分析を語っているインタビューがありましたので、すでにご存知とは思いますが紹介しておきます。
    https://www.huffingtonpost.jp/2017/10/18/sexual-molester_a_23248308/

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