ジャズ入門(1) ジャズとはマイルスデイヴィスの音楽である

ジャズっていうのはなんであるのか、というのはまあ難しいというか無意味な問題かもしれんですね。こういうのはジャンルの哲学とか分類の哲学とかそいう問題になっちゃう。

私はジャズってのはマイルスデイヴィスの音楽を中心に、彼に強い影響を与えた人々と彼から強い影響を受けた人々の音楽である、ぐらいでいいのではないか、なんておもってたりして。まあマイルス本人は自分の音楽を「ジャズ」って呼ばれるのいやがってたみたいですから、まあこの定義はだめです。

でも「ルイ・アームストロング、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、レスター・ヤング、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、マイルス、コルトレーンらがやった音楽とその影響下にある音楽」みたいなのは魅力があるなあ。やっぱりマイルスはいろんな意味で中心だと思います。パーカーの音楽だってマイルスがいなかったらああはならなかったはずだし。

まあそういうのはどうでもいいけど、とりあえずジャズを1曲って言われたらやっぱりマイルスのなにかを聞かせるでしょうね。とりあえずRound Midnightでいいのではないか。

聞きどころは最初のマイルス先生のトランペットが、途中のバンプ(キメ、パッパッパー、パッパ!)のところであばれるところ、そのあとのコルトレーンの大暴れとかですか。曲はセロニアス・モンクの有名曲だけど、マイルスがコード進行とか単純化して彼の美学にあうようにしています。アレンジとかはクレジットないけどギル・エヴァンス先生がやっという話。

イントロのあとに、マイルス先生がまずテーマのメロディーを提示するわけですが、モンクが作曲したそのまんまじゃなくて最初からある程度くずしてます。こういうのはフランク・シナトラ先生とかが得意で、当時シナトラが好きだったマイルスが真似したとか。これ以降、皆有名バラード曲の場合にはどっかメロディーをくずして演奏するのが定番になります。だからちょっとわかりにくいよね。基本的にこの時代からはボーカリストもメロディーくずしちゃう。最初わたしはそういうのとまどってました。まあツウというかある程度聞いてる人は何十回も何百回も聞いてるのでおぼえちゃってるわけです。そこらへんジャズがわかりにくい理由の一つでもあります。まあ歌舞伎みたいなもんで、みんな筋とか知ってるから一部だけ見ても大丈夫、みたいなのが期待されてる。実際、(この曲はジャズオリジナルだけど)ジャズでやられるバラードはたいていミュージカルの流行歌だったりするのでみんな知ってるわけです。それをどう料理するかってのを見せるのがジャズ。白人に対して黒人たちが自分たちの音楽的技術と才能を見せつけるためにわざと(白人)ミュージカルの音楽を素材にしたんだ、みたいな話もあります。半分本当みたい。

印象的なバンプのあとはコルトレーン先生。マイルスのクールな演奏と対照的に音数多くして上から下まであばれまわります。今聞いてみたら、そのアドリブのなかに、マイルスのくずしかたが反映されているところがあるように思いました。ジャズはコミュニケーションでもあって、前に演奏した人のフレーズとかを瞬間的におぼえて演奏したりもするんですね。あとバックのピアノとかのフレーズをまねしたり、逆にピアノがソロをまねしたり。そういうコミュニケーションがおこなわれます。

んでマイルスがもう1回テーマのメロディー吹いておしまい。文句なしの名演です。これがまあジャズですわ。

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