んでシェーンベルク先生、「清められた夜」とか巨大オーケストラ使った「グレの歌」みたいなおおげさなものを捨てて、いろいろやるわけです。最初はピアノ曲みたいなものではじめて、2〜3年ぐらいすると大傑作ができる。
ヒントになったのはキャバレー音楽。
まあこれは1970年ごろのミュージカルだけど、雰囲気はこういうのがあったわけでしょうね。ケバい女性が数本の楽器をバックに歌っていやらしい、みたいな。映画『愛の嵐』はナチス期で時代が違うけどまあ似たようなのがあったんでしょう。
で、これを思いっきり歪ませるとこういうのができる。「月に憑かれたピエロ」(1912)。上の動画みたいな退廃した雰囲気を思いうかべながら聞いてみてください。
なんか悪夢見てるみたいですごいっす。こう、ワーグナーとか「清められた夜」みたいな美しいことは美しいけど大袈裟で鬱陶しくてなんか嘘くさいものからなんか脱皮してぜんぜん違う世界が広がっている。ああいうのは中世の神話だと、愛だの恋だのなんか女子どもの世界みたいだけど、こっちは汚い世界、狂った世界を歌います、みたいな。かまあこれはこれで嘘くさいんですが。20世紀最初の20年ぐらいのウィーンってのはもう虚飾の街みたいなところだし、こういうのがそれはそれで説得力あったわけですわね。フロイト先生とかそういう人々がセックスのことばっかり考えた時代でもある。キャバレーあたりに題材をとって、現実のあんまりきれいじゃない世界がデフォルメされてるわけです。
Youtube動画は楽譜もついているので見てみると、作品11のときはそれなりにまだ昔の音楽と同じような譜面の見た目になってますが、この作品なんかは拍子は変わるわメロディーが小節をまたいでるわごちゃごちゃしていて違う世界に入っているのがわかりますね。もうシェーンベルク先生は本気で19世紀的な音楽を壊しに行ってる。
シェーンベルク先生はここらへんで自分を確立している。誰の物真似でもないし、美しい。
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