高橋幸先生の「近代社会における恋愛の社会的機能」(9)

出典が気になるので、Rubin (1970) “Measurement of Romantic Love”も見てみました。 https://users.ssc.wisc.edu/~jpiliavi/357/Measurementofromanticlove.pdf これは雑誌に載ったものをなにかに再録したものですね。雑誌の方も確認しましたが、省略された部分はないようです。

んで、高橋さんの紹介はここでも問題あるように見えますね。

Rubin (1970)をChatGPTに一部翻訳してもらったものをここに置いときます。 → https://yonosuke.net/eguchi/material/tr-measurement-love-rubin.pdf

ルービン先生の研究

Rubin 1970がなにをやっているのかというと(これは書籍のルービン1991の一部のもとになった研究です)、恋愛(ロマンチックラブ)と友情はちがうものじゃないか、という我々の一般的な直感があるわけですが、これを、心理学的に「愛/愛している」(かならずしも恋愛ではない)の尺度と、「好意をもっている/好きだ」の尺度を作ってみて、さらにそれを計測してみて、構成概念の妥当性を検討する、っていうつくりの論文になっているわけですね。

まあ人々が、恋愛パートナーについて言う「〜を愛してる」と、友人についても言う「〜に好意もってる/好きだ」のちがいを知りたい、というわけです。こういう問題を考えるときの社会心理学者のとる(1960年代)手段を理解するのによい論文でしたね。

1950〜60年代の社会心理学者のあいだでは、恋愛は単に好意の強いものだ、ていう考え方があった(たとえばフリッツ・ハイダー)みたいだけど、本当だろうか、というのが出発点ですね。 心理学者からすると、「愛している」「好きだ」が哲学的・本質的にどういうことなのか、どういうことであるべきか、というのはよくわからないことでですが、とりあえずいくつかの要素の構成物として構成して、それをアンケートで質問したり、実験で(他のわかりやすい行動とかとの相関をとったりして)計測してみて、作ってみた構成概念や尺度が、我々が「愛してる」「好きだ」という言葉で表現したいものをうまく表現しているか調べてみるわけですわ。

具体的にはルービン先生たちは、まず(1)恋愛に関する有名文献を読んで、「愛する」っていうのはこういう中身(要素)があるよね、っていうのを列挙してみる、(2) 「好意」(対人魅力)の方は当時の社会心理学の研究の蓄積があるのでそれから中身(要素)を列挙してみる、(3) あつまったいろんな要素を、研究者や学生がよってたかって、それぞれの判断で「愛」か「好意」かどっちかに分けて、統計的に処理してみる、みたいなことをしてるようですね。

んで、交際中のカップルとかをつかってアンケート調査してみると、ルービン先生たちが作った「愛」と「好意」の尺度はそれなりにうまく違いが出ました。愛と好意はちがうものである可能性があります、さらに実験室でカップルや友人の視線とかを調査してみると、カップルは見つめあったりすることが多いという我々の通念にうまくあった結果が出てました、みたいな感じですね。(もちろん正確じゃないので自分で論文読んでみてください)

高橋先生の紹介

んで、問題は高橋先生の紹介です。ルービン先生は、とりあえず「我々が作った構成概念にもとづく尺度では、恋愛(愛してる)と友情(好き)はけっこうちがうもののようですよ」っていう結論になっているわけですが、高橋先生は、自分は友人に対しても「没頭」したり人によっては友人が他の人と楽しくしてると嫉妬する人もいる、ということを指摘した上で、次のように言います。

これらのことをふまえると、ルービンが区別した友人への好意(liking)と恋人への恋愛(loving)は、質的に異なる感情や態度というより、強度(強さ)の差でしかないようにも思われる。すなわち、友情の場合には相手を「尊敬」するのに対して、恋愛の場合には「理想化」になり、友人の場合には「お互いに似ていること(頻似)」を実感することで満足できるのに対して、恋愛の場合には「密着」を求めるというように、感情が強かったり激しかったりするのが「恋愛」なのであり、その意味で両者は程度の差なのではないか (p.8)

いや、ルービンさんはいっしょうけんめい概念を構成して実験してみた上ではっきり 程度の差ではない 、って結論しているわけです。個人的な話をしてるんではないわけですよね。

そして、次のように言う。

恋愛心理学の議論をもう一つ見ていこう。 恋愛を「友情+α」として捉える枠組みを提示した のがルービンであったが、この議論を受け継ぎながら、恋愛とは「友情+情熱」であると論じたのが心理学者のロバート・スタンバーグである。(p.9)

これ、ルービン先生が苦労して 恋愛は単に強い好意じゃないよ、だから友情とはやっぱりちがうもののようだ って言ってるのに「友情+α」って言ってることにするのはひどいです。スタンバーグの方もそういう紹介はよろしくないと思います。

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