『猿の惑星』についての私の感想もやっぱり最高じゃないだろう (4)

https://yonosuke.net/eguchi/archives/17350 からの続き

「俳優=役ではないけれど…」

ここはよく知らない、映画そのものからすれば外的なことなので飛ばします。『ベンハー』の人なのね。まあ社会的な関心もってる俳優さん、っていうのはありえると思うし、名前がどかんと出るんだから、作品全体のメッセージにもあるていど発言力と責任をもっているというのは十分にあると思う。SFぽいけど実は社会派映画である、っていうのは十分ある。

ていうか、監督や脚本家に加え、主演級の人が映画全体のメッセージに影響力をもってるってのはハリウッドではけっこうありそうですね。俳優としてのキャリアにも影響するわけだから、人気俳優は発言力がある1。基本は映画の中での情報で考えるべきだと思うんですが、外的な情報を使うのは批評や感想としては全然問題がないですね。ただしそれは映画そのものからは外的な情報だ、っていうのは意識しておかねばらない。

「マッチョなSFのジェンダー観」

テイラーって感情移入のできない主人公ですよね。なんかずっとイヤな奴じゃないですか。しかもスチュアートが宇宙船に搭乗していたのは「新しいイブになってもらうため」と言っていて。母親になるために乗っているって性差別的だなって思ったんですよ。

ここはフェミニスト批評家らしいし、前のエントリのような安易(?)な批判じゃなく、作品の内部に入りこんでいるのでよい感想・批評だと思います。

私もテイラー船長はいやな奴だと思いますね。実際、製作者も正義感のある善人、みたいには描いてないと思う。遭難して最初っから他の搭乗員に余計なことを言って喧嘩してるし。基本的に非常にネガティブで、攻撃的で、人生(あるいは社会や地球)に絶望している感じがある。まあ本音が少なく、無駄なイヤミや皮肉は多く、他人に心を開かないいわゆるハードボイルド的ヒーロー/アンチヒーロー。

そもそもこの探検プロジェクトは地球時間にして数千年かかることが最初からわかってるわけですから、この搭乗員4人は、実質的には社会的には自殺しているのと同じです。地球の人々に永遠のおわかれをしてきているわけす。だから、それぞれ社会から離脱する心理的な傷や事情を負っているか、自分の人生より探求を優先するとてつもない変人である、ぐらいのことは想像できます。(もちろんみんなからヒーローして称賛されたい、という欲望もあるだろうし、その事については最初の方の会話で触れてました)

ただし、女性科学者に「新しいイブになってもらうため」のところは撮影時に使われてるらしいスクリプトを見ると、こんなふうになってます。

(現地人女性ノヴァに向かって) Did I tell you about Stewart?

(looking away)

There was a lovely girl. The most precious cargo we brought along. If human life could survicve here, she was to be the new Eve.

(morosely)

It’s probably just as well she didn’t live to see this.

ここはかなり「解釈」が必要なところですね。スチュワート搭乗員にはかなり好意をもっていた。一連のセリフの最後は、彼女がひどいめにあったり、絶望したりする必要がなくて早く死んでむしろよかった、ぐらいですか。あるていどは女性を大事にするという意味で「フェミニスト」。「もっとも貴重な貨物」扱いしていることで人間を貨物あつかいしていて奴隷制(「モノ化」)をおもわせる、ってなことが指摘されていて、それは一つの読みではありますが、ハードボイルドな屈折した表現でもあるかもしれない。他の二人の男性は、この女性ほどの価値はない。もしかしたら貨物としての自分自身よりも、この女性の方が価値がある貨物だ、って言ってる。そもそも他の二人についてはノヴァに語ることはないわけで、ある特殊な感情がこの「貴重な貨物」にある。この意味でも(ある意味で)フェミニスト。(緊急時には女性が優先的に救助されるべきだ、という『タイタニック』原則にも関係ありそう)

もちろん、こういうセリフは、解釈が分かれるところですね。そして解釈する主体(私とあなた)の態度や考え方、その人自身が見えるところでもある。私は、テイラーは彼女を本気で貨物扱いしているわけではないだろうと読む派です。てか、そういうアイロニカルな表現を自分なり読みこんで解釈しないとハードボイルド的な作品の多くが理解不可能になっちゃう。

「新しいイブ」の方は、「もし人類(俺たち)がこの惑星で生き延びられるなら、彼女は新しいイブになっただろうに」ですよね。自分で妊娠させるつもりだったんでしょうねえ。でも、そのために貨物として載せてきたわけじゃない。むしろ、宇宙船が沈没して帰る手段はなくなった、この星で我々人生が存続する可能性はない、っていう絶望が表現されているわけです。私の読みではね。でも他の解釈もありえるだろうし、ここにテイラーの暗い欲望が見えるという読みも十分可能だと思う。あるいはもっと一般化して、人間が生きて活動している以上どうしても生じてしまう性欲の問題が背景にあり、国家がそれに対する対策をしていうのは十分ありですね。この一部で「宇宙戦艦ヤマトの森雪問題」と呼ばれてるやつ(呼ばれてない)をつっこむならそれはそれであり。人間(あるいは動物一般)が密室に閉じこめられるとセックスの問題が生じてしまう。それを(なるべく)生じないようにするには同性だけにしたらいい、となると男4人か女4人で宇宙船に乗りこむことになりますか……それでいいかどうか。

この「マッチョなSF」の節は他にもいろいろ論点があるので続きます。

続き → https://yonosuke.net/eguchi/archives/17364

脚注:

1

男女の俳優の出演料の違いみたいなのが問題になることが多いわけですが、私の見るところでは、昔は男性俳優の方がお客を集客する力が強かったんじゃないか、っていう感じがあるんですが、どうですか?

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